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私の『使い魔』はビーバー!  作者: ルーシャオ


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22/23

第二十一話 ムゥゥゥ!

 ビーバーたちは、どんどんVR空間ステージの建物を、土台ごと動かしていく。


「みんなー、行くっすよー!」

「ムー!」

「ムゥゥゥ!」


 建物の基礎という、土地にしっかり杭を打ったところごと掘り返し、ずらっと並べた丸太の上に乗せて運んでいくのだ。まるで工場のベルトコンベアーのように、建物は担当の『使い魔』たちが先導する場所へスムーズに移動していく。


 地下には搬入口はんにゅうぐちを作ってモリモリ運んでいき、空中には頑丈なバルーンをつけて浮かばせてから運んでいく。どれもビーバーたちが「ムームー!」と鳴き声を上げながら、丁寧な現場仕事をこなしてくれるおかげで実現できた作業だ。


 それに、この移築作業は、ナゴミの処理能力にあまり負担をかけないらしい。複雑な機械や巨大な建物を作るわけではないし、ビーバーファミリーが作業の大部分を担当してくれるおかげだ。


 ヘルメットを被ったナゴミが、テクテクと私の足元に戻ってきた。


「ふう、今回は移築だけっすから、処理が楽で快適っすよ」

「それでも十分すごいよ、ナゴミ。ビーバーファミリーも」

「まさか『AIコピーカプセル』で二倍になるとは思いもよらなかったっす」

「ふふっ、ビーバーがたくさんいるね」


 大昔は、万より大きな桁の億単位のビーバーたちがいた。そのときのように、今ステージには数え切れないほどのビーバーが働いている。


 働き者のビーバーは、とにかく木をかじり、ダムを作りたい。土も掘りたいし、VR空間ではいろいろなものを建てたい。


 そのビーバーの素敵な習性が、目の前の光景にギュッと詰まっている気がした。


 ナゴミのモチモチした後ろ姿を見ていると、ふと首をかしげていた。


「ご主人? どうしたんすか?」

「ううん、前はナゴミに無理をさせちゃったから、もう二度と無理はさせたくないって思ったの。でも」

「でも?」

「課題をクリアできないのも、ナゴミだってイヤだよね」

「そうっすねぇ、自分、バリバリ働く現役のイーガービーバーっすから!」

「だよね」

「それに、ご主人の無茶振りアイデアを実現できるのは、自分だけっすよ!」

「やっぱり無茶振りだって思ってたんだ」

「他の『使い魔』にはできないんすよ! サツマイモ増量を要求するっす!」

「じゃあ、課題が終わったらもう一つだけね」


 一つだけっすか、というナゴミからの無言の視線が向けられて、思わず笑ってしまった。


「自分の思い描いたアイデアが、こうして形になっていくのを見るのって、うれしいね」

「同感っす!」


 遠くで、ウルフドッグやチーター、カピバラが走り回ってビーバーたちを誘導している。


 空中では、フクロウとメジロたちがバルーンの位置を調整し、地下の搬入口前ではハムスターたちと一緒に運んでいる。メンダコのメンちゃんは疲れたビーバーたちをふよふよ運んで、水辺で遊ばせていた。


 それに——ハルトたちも、シンやエル、ココアたちの顔も、一生懸命、楽しそうだ。


 私の出したアイデアは、今、みんなの力のおかげで、VR空間のステージで実現しようとしていた。


 宙に浮いた残りの制限時間が、刻一刻と過ぎていく。


 それがこんなに名残惜しく感じるなんて、思いもしなかった。








 【00:05:44】。


 私たちの課題は、制限時間ギリギリで完成した。


 それはもう、元の市内とはまったく違う風景になってしまっていたけど、それぞれの層を担当するみんなが建物の配置を考え、こうすればよりよくなる、という思いで決めたものばかりだ。


 地下と地上を繋ぐ道、マンションの横にあるパイプの高台には一軒家がいくつもあり、山のふもとに近づくにつれ空中層の高台は低くなっていく。


 高層ビルが他の日当たりを妨げないよう、くっついて配置することを避けて、大きな幹線道路を増やしたことで広々として見える。


 そういういい工夫が、私のアイデアだけでなく、みんなの考えや作業のおかげでそこかしこに見受けられる。


 完成したステージの街を見にきた桃名先生は、唸っていた。


「うーん、街ごと配置換えするとは……しかも、より快適さを追求っていう目的も、筋が通っているなぁ」


 だけど、その口調には手放しで褒められない何かがあるようで、桃名先生は頭をかいて悩んだあと、こう評価をつけた。


「まあ正直、現実にはきっと実現しないアイデアではある。けど、今回の課題では、そこは重視してないからね。スケールも作業のすごさも、アイデアの秀逸さも、これは一班と七班が『大変良くできました』です」

「やったぁ! ……あれ、みんな、『大変良くできました』だよ!? うれしいでしょ!?」

「いやあ、疲れちゃってさ」

「ナナ殿は元気ですな」


 一人だけ飛び上がって喜んでいたナナが、顔を真っ赤にしてタクミの背中をポカポカ叩いている。


 七班はというと——私以外のみんな、地面に座り込んでいた。


「ハムスターが地下で迷子になってて、探し回って疲れた……」

「今度から絶対高いとこ担当しないマジで怖かった」

「エルちゃん!? プルプル震えてるよ!?」

「エルちゃんが高台から落ちそうになったから、メンちゃんで受け止めようとしたらずっとあんな感じ〜」

「高所作業中の事故は怖いっすねぇ。命綱必須っすよ」


 それも怖いけど、落ちたらメンちゃんに触れてしまう恐怖も、エルにとってはとんでもないことだったと思う。これはもう、一班のカピバラやチーターを借りて、エルのそばに置いて癒してもらうほかなさそうだった。


 授業終わりのチャイムの音が、VR空間にも聞こえてきた。


 あとは、VR空間から出て、帰りのホームルームの時間が待っている。


 みんなが続々とVR空間から出ていく中、ハルトは一人残って、みんなで作業したステージのほうを向いていた。


 その背中に、私は声をかける。


「やったね、ハルトくん」


 ハルトは振り返らず、答える。


「ん……」

「あ、ごめん、イヤだった?」

「ち、違う!」


 ハルトは慌てて、力いっぱい振り返る。


 怒っているわけではなくて、嫌なわけでもなくて。ハルトはまた何かを言いたそうにしてから——やっと、私と目を合わせた。


 そして、気恥ずかしそうに、はにかむ。


「また、やろうな。お前がイヤじゃなかったらさ」


 予想外の言葉だった。けど、私はイヤじゃない。


 ハルトがそういうふうに言ってくれて、とてもうれしかったのだ。


「いいよ。またやろうね」

「約束な」


 私たちは、VRゴーグルをそれぞれ外す。


 約束がいつになるか分からないけど、それができたのはきっと仲直りの証だ。


 こうして、一学期最後のVR学習の時間は終わりを告げた。

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