第二十話 群れモード、オン!
「さっきハルトくんの言った、移築の技術について調べてきたの。動かすことはナゴミにまかせて。みんなは、三チームに分かれて、動かす建物を持っていって配置してほしいの」
今の時点では、ホログラム地図の中で建物の種類別に、層と場所を決めて集めているだけだ。
さすがに、私一人では建物を一個一個、いいと思う場所に配置するなんてことは難しい。でも、八人と『使い魔』たちの力を合わせれば、格段に作業スピードはアップするはずだ。
そこから先、みんなをどういう振り分けにするか切り出そうとしたところで、ちょっと説明に疲れて、私は一息を入れる。
それを見ていたハルトが、こんな意見を出してきた。
「カナデ、大まかな方針は分かった。けど、街を三層に分けるほうがいい、ってお前が考えた理由は何だ?」
ハルトの目は真剣だ。意見はただのイジワルじゃなくて、理由がちゃんとしていないと、みんなが動いてくれないぞ、という意図で言ってくれたのだろう。
一班のミオ、ナナ、タクミがじっと私の言葉を待っている。七班のシン、エル、ココアは、言ってやれ、とばかりに笑顔だ。
私は——深呼吸をして、この『自分の街の改善案』のアイデアについて話すことにした。
「うん、まず市内の地図を見て思ったのは、土地が意外と限られてる、ってこと。それに、街にある建物は誰かが計画して全部立てたわけじゃなくて、みんなが思い思いに、長い時間をかけて好きに建ててきた」
それは、どこでも街では当たり前のことだ。そうして、長い歴史をかけて街ができてきた。
だからこそ、どこかでゆがみが出てくることだってある。それが自分の街への不満や不便につながるんだ。
「でも、それじゃ災害のときに不便だし、高いビルが家のそばにあると日当たりが悪くなっちゃったり、電車や車がうるさかったり、いろんなところに不便さがある」
「そうだね、それはよく聞くよ」
「だから、交通機関や商業施設は地下に、高いビルや公園はそのまま地上に、住宅地は空中——と言っても、厳密には空中じゃなくてビルの上とか日当たりのいい場所に、そんな感じで分散させるの。同じ大きさの土地でも、そうすれば広く使えるようになる」
ごくごく単純な話で、土地は地上だけじゃなく、地下も空中も全部を含むから、それらを使えれば格段に面積が増える。
だとしても、あっちこっちにまたみんなが好き放題建てるのはダメで、ある程度のルールが必要だ。その上でなら、私たちは街の建物を、好きに移動させられる。
今までよりもずっと便利に、ずっと快適にするために、みんなで自分の街を改善するのだ。
「どうすればいいかの設計図は、ご主人が『PLATEAU』の使用例からざっと建物の種類別に作ってくれてるっす。それに一度で完璧にやる必要はないっす」
「え〜、そうなの〜?」
「進めていくうちに、こうしたほうがいい、って思ったところは、担当するみんなが変えてもらって大丈夫だよ。私一人じゃ全部は把握できないから、面倒なところばっかりお願いして申し訳ないけど」
「何言ってんだ。お前はここまでやってんだから、あとは任せろ」
力強く、ハルトは私にそう言ってから、よし、と小声でつぶやいていた。
それから、みんなに号令をかける。
「担当するのは、メジロとフクロウには空中を、ウルフドッグとチーター、カピバラは地上を、ハムスターとメンダコには地中を、って感じだ。いいな?」
「うん、ハルトくん、よく分かってる!」
ハルトの言葉は、明確で分かりやすい。みんなによく伝わる気がする。
七班の私の言葉だけじゃなく、一班のハルトの言葉もあれば、両班のみんなが納得しやすいだろう。
そこへ、待ってましたとばかりにナゴミが両手を挙げて、私の右ひざを無言でペチペチ叩く。
自分の番っすよ、すなわちサツマイモっすよ——そんな強い意思が、つぶらな瞳からヒシヒシとあふれ出していた。
私の【ウォッチ】には、今回の課題で必要なアイテムが入っている。大量のサツマイモに、『AIコピーカプセル』という短時間だけ『使い魔』の数を二倍にして作業させられる……売店で20SPもするアイテムだ。
それらをバラバラっとナゴミの横に出して、私はナゴミへお願いする。
「ナゴミ、お願いね。一人でサツマイモ独占しちゃダメだよ」
「了解っすよ! とうとう、ビーバーの奥義を見せるときが来たっすよ……『AIコピーカプセル』と山のようなサツマイモで、ビーバーファミリーを呼び出すっすよー!」
実際、ナゴミの横にあるサツマイモの山は、二足歩行のナゴミの背丈よりも高い。
それだけのアイテムを使う、ビーバーの奥義。私もつい昨日、初めて聞いた『使い魔』ビーバーに備わった設定の機能、『群れモード』だ。
エルのメジロやシンのハムスターの『群れモード』とは違って、ナゴミ以外の『使い魔』のビーバーを一時的に借りてくることができる。全国の小学校にいる『使い魔』のビーバーが何匹いるかは分からないけど、ナゴミの自己申告では「たくさんいる」らしい。
さらに、そこへ『AIコピーカプセル』を使えば、数は倍になるのだ。
「たくさんいる」という言葉どおり、どこからともなく、明るい茶色から黒色まで多種多様なビーバーの大群が、ノソノソとやってきた。
一匹、十匹……もっとだ。ステージの建物の影からやってきて、サツマイモの山に突撃していく。一つ取ったらまた別のビーバーが、その繰り返しが続くと、私たちの足元はビーバーで埋めつくされていた。
「ムームー」
「ムームー?」
「ムー!」
そんな可愛い、甲高い声があちこちで響きわたっている。
「ビーバーは家族でダムを作るっす。この協力体制こそが、ビーバーの最大の武器! サツマイモほしさに、同類のみんなが手伝ってくれるっすよ」
とはいえ、サツマイモが足りないと怒るビーバーも現れはじめた。大地を埋めつくすビーバーの群れは、長い時間維持できない。
とにかく早く取り組んで、早く終わらせるのだ。
「それじゃ、始めよう!」
「「「おー!」」」
ナゴミがヘルメットを被り、ビーバーたちにも号令を「ムー!」と出す。
その一言で、ビーバーたちは『森の建築家』魂に火をつけたのだった。




