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私の『使い魔』はビーバー!  作者: ルーシャオ


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第一話 みんなの『使い魔』は?

 インターネットで調べたところ、ビーバーは『森の建築家』と呼ばれているそうだ。


 野生のビーバーは、大きな木をかじって倒し、小枝や泥を集めて、池や湖の真ん中に巣を作る。流れの早い川を堰き止めるダムを造る習性があり、ときには人間が渡れるくらいの巨大ダムを建築してしまうほど、器用な生き物なのだとか。


(ナゴミもダム作ったりするのかな? VR学習の時間に、ダム……ダム? ダムを作る授業って、あるのかな……)


 色々考えてみたけど、案ずるより産むが易し、ということわざがある。


 分からないことをずっと心配より、実際に体験したらいいよ、という意味だ。


 私はことわざを信じて、不安な気持ちはポイっと置いておくことにした。


 始業式から数日後。


 新四年生の時間割が決まり、授業が始まった。


「じゃあ、まずは三年生の算数の復習をします。プリント後ろに回して、早く終わったらちょっとだけ四年生の内容に入るよ」


 担任の桃名(ももな)先生がそう言って、QRコード入りのプリントを一番前の席の子たちに渡していく。


 桃名先生は若い男の先生で、おっちょこちょいだ。まず、教室に入ってきて、黒板下の段差で滑りそうになっていた。


「危ないなぁ。ここ滑りやすすぎない?」

「先生。そこ昨日、先生がワックスがけしたよ」

「えっ、そうだっけ」

「バシャってバケツからいっぱいこぼしちゃって、もったいないからって塗り込んでた」

「……そんなこともあったかもしれない。まあいいや」


 プリントを配るときも、桃名先生は絶対に数を間違える。


「先生ー、プリント余ったー」

「後ろの席で足りないとこに回して」

「それでも余ってるよ。十枚くらい」

「ごめん、刷りすぎた」


 まだ始業式から数日しか経っていないのに、私もクラスメイトのみんなも、桃名先生がおっちょこちょいで、給食のニンジンを残すことまで知っている。


 給食を食べる私の横で、ナゴミは先生のお皿をチラッと見て、こうつぶやいていた。


「ニンジンを残すなんて大人の風上にも置けないっすねぇ。美味いっすよ、ニンジン」

「しー、先生だって苦手なものくらいあるんだよ、きっと」

「そこ、聞こえてるぞ!」


 怒られた。ナゴミは何にも気にせず、ムシャムシャとサツマイモを食べていた。


 教室では、普段の授業中は『使い魔』を出しちゃいけない、というルールがあり、休み時間と給食や掃除の時間、放課後、それにVR学習の時間だけみんなの『使い魔』は自由に動き回っている。それと、学校の外ではホログラムは使えず、それぞれ【ウォッチ】を通じて会話するくらいだ。


 逆に言うと、ホログラムは出なくても、机の画面端末や【ウォッチ】でいつでも、それこそ授業中でもAIとおしゃべりしたり、チャットすることはできる。


 たとえば、算数の時間は机のキーボードを使って、授業の学習画面の右に出ているチャットでナゴミと相談できる。


『一万、十万、百万、一千万、その次の単位が何だっけ?』

『億っすよ、ご主人。ビーバーも昔はそのくらいいたっす!』

『へえ、たくさんいたんだね』

『今はちょい減ったっすけど、それでもたくさんいるっす!』


 他にも、社会の時間で観光地について調べていると、ナゴミが興味津々でチャットを開いてきた。


『ご主人、ビーバーに住みよい観光地を探してくれっす!』

『ビーバーに住みよい……? 水辺とか?』

『いい感じに寒くて、犬とかピューマとかいなくて、木がたくさんあるところっす!』

『それって観光地にある? 本当に?』

『多分あるっす』


 私はインターネットで検索して探したけど、結局ナゴミの言うような観光地はなかった。


 代わりに、アメリカやカナダの国立公園の画像がナゴミにはいい感じに映ったらしい。


『やっぱ故郷は落ち着くっすねぇ。雄大な自然、ビーバー、かじる木、サツマイモ』

『ナゴミ、アメリカにサツマイモはないよ』

『日本、最高っす!』


 そんな感じで、授業はおしゃべりしなくても賑やかだった。


 『使い魔』たちは普段の学習サポートの役目もあるので、いい相談役になってくれる。


 私は休み時間に友だちのエルとココアの席へ行って、その楽しさを語り合う。


「すごいよね。ナゴミに授業で分かんないところを聞いたら、教えてくれたよ」

「へえー、ビーバーって賢いんだねぇ」

「ビーバーじゃなくてAIだよ、ココアちゃん」


 天然気味な中村ココアに、冷静な真北エルがすばやくツッコミを入れる。私たちは去年も同じクラスだったから、いつもの光景だ。


「カナデの『使い魔』って大きいね。私、メジロなんだ。手のひらサイズで可愛いけど、飛び回るから追いかけすぎて目が回っちゃう」

「でも、手のひらサイズ以下の『使い魔』は群れで出てくるんでしょ?」

「うん。普段は一羽だけど、VR学習のときは何十羽も出していいんだって」

「それはすっごいねぇ」

「ココアちゃんの『使い魔』は?」

「メンダコのメンちゃんだよー」

「メ、メンダコ……?」


 ココアが何もない空中へ向けて「おーい」と呼ぶと、どこからともなく楕円形のブヨブヨしたものが、ゆっくりと私たちの前に降りてきた。


 それは赤っぽいけど真っ赤っかではなく、タコっぽい顔がついてるけど平たくて、漂ってちょうどココアの頭にたぷんと乗っかった。


 まるでココアの帽子のように、ココアの頭に張りついた生き物は、ちょうどココアの目の少し上くらいまでかぶさっている。


「メンダコのメンちゃん」

「怖っ!? 何これ!?」

「大丈夫だよ、メンダコは墨持ってないしー」

「そういうことじゃなくて!」


 どうやら、エルはブヨブヨした生き物が苦手らしく、一歩後ろに引いていた。


「メンちゃん帽子〜、すっごいオシャレじゃない?」

「全然オシャレじゃない! こっち来ないでー!」

「えー」


 メンちゃんを被ったココアと、かなりドン引きしているエルは、ジリジリと距離を詰めては引き離しを繰り返していた。


 そのうちエルが泣きながら逃げ出しそうだったので、私は話題を変えようと、ココアにこう言った。


「メンダコのメンちゃんは何ができるの?」


 するとココアは立ち止まり、メンちゃんと視線を合わせてから、首を傾げてこう答えた。


「……深海に潜ったりは得意って言ってる」

「ふよふよ浮くのは?」

「あんまし高く浮けないっぽい」

「泳ぐのは?」

「メンちゃん、自信ないって」


 うーん、よく分からない生き物だ、メンダコ。


 ともかく、ココアはメンダコのメンちゃんと仲良しで、放っておくと頭に被ったままうろうろしそうだから、ドン引きのエルのためにしまっておいてほしいと伝えておいた。

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