第十四話 風雲急を告げる
VR学習の時間が終わり、七班は今回も『大変よくできました』をもらえた。
他の班のレベルも前回よりずっと上がっていて、砂浜に海水を引き込んで大迷宮を作ったり、海中を眺めながら散歩できる透明のトンネルや、海の上にたくさんの浮き輪やボートを浮かべて飛び移るゲームができるアトラクションまであった。
それでも他の班のみんなは、私たちの作った『海上フロート&ウォータスライダー』は大絶賛だった。
「これ俺も遊びたい! プール作りたかった!」
「どうやってんの!? 島作ったの!?」
「使ってるの海水じゃないんだ! 私たちそこはどうすればいいか分かんなかったのに、すごーい!」
ちなみに、VR学習の時間のあとに、VR空間ステージで各班が作ったものは誰でも見られるようになっている。ただ、VR空間に入ることはできなくて、どんなものがあるか、どうやって作ったかを作業ログで閲覧できるだけだ。
ワイワイ、ガヤガヤ。
VR学習が終わった放課後の教室では、いつもクラスメイトのみんなが他の班の作ったものを確認して、楽しそうに笑ったり、意見を出したりしている。
そんな中、私の机のまわりには、七班のみんなとその『使い魔』たちが集まっていた。
ナゴミはというと、疲れて私の足元でだらけている。今回はがんばりすぎたらしい。
「葦原」
私は名前を呼ばれて、振り向く。
ハルトがやってきた。何かを言いたそうに、でも言いづらそうにしている。
それなら、と私から切り出した。
「ごめんね」
「な、何で謝るんだよ」
「余計なことしちゃったかと思って」
それはもちろん、桃名先生に嘘をついたことだ。ハルトを助けるためとはいえ、お節介だったのは確かだから。
驚いたハルトは、私が先に謝った意味を飲み込むと、やっと自分の口からも謝った。
「先生に怒られなかったのは、お前のおかげだし、それに……ズルじゃなかったもんな。俺も、ごめん」
恥ずかしそうに、目をそらしながら、ハルトはそれだけ言って帰っていく。
シンが目を丸くして、ハルトの去っていく背中を眺めてつぶやく。
「あのハルトが謝るの、初めて見た」
思わず、エルが吹き出しそうになった。ココアもつられてフフフ〜と笑い、場が和やかになる。
その流れで、私は七班のみんなにも謝った。
「みんな、ごめん! 勝手なことばっかりしちゃって!」
七班全員が迷惑したことを、私の判断で勝手にハルトへ作業を見せたり、かばったりしたのは、やりすぎだったかもしれない。
せめてみんなの意見を聞けたらよかったけど、その時間がなかったし、他の方法があったのに、と言われたら私も反省しなくちゃいけない。
ところが、ココアとエル、シンの三人は、笑顔で軽く流してくれた。
「全然、大丈夫だよぉ。とゆーか、今回すっごい楽しかった〜」
「そうそう、あれすごかったじゃん? ウォータースライダー! いやほら、今回私もメジロたちもあんまり役に立てなかったけど、次はがんばるね」
「あとVR空間なのに水の勢いすごかったし、あんなのも作れるなんて教科書に書いてなかったぞ! カナデもナゴミも、すっごいかっこいいじゃん!」
一気に言われて、うれしい反面困惑しきりだった私は、不意に上靴の先がナゴミに当たって、そういえばと足元を見た。
がんばりすぎて床で転がっているナゴミだけど——何だか様子がおかしい。
「ナゴミ、大丈夫? いつもなら、こんなに倒れないのに」
「ご主人、今回のはちょっと疲労がたたったっすよ……」
「え!? ど、どうしたの!? サツマイモいる!?」
「いただくっす……」
私はあわてて【ウォッチ】からおやつのサツマイモと取り出し、ナゴミに差し出す。ナゴミはすぐにモグモグかじっていたけど、その勢いはいつもより遅い気がする。
みんなが私とナゴミの異常に気付き、床に座り込んでナゴミを囲む。
「ちょっと待って、今見てみるよ」
「お願い、シンくん」
この中でAIやVR空間に一番詳しいシンが、【ウォッチ】でナゴミの状態を確認してくれた。
すると、ナゴミのステータス画面で、『処理パフォーマンス』の項目の数字が赤色で表示されている。その意味を、シンが説明する。
「今回の課題で作業量が多すぎて、ナゴミのAIの処理能力がパンクしたんだ。作ったもの自体が大きくて複雑な機械もあったし、無理ないよ」
つまり、ナゴミは働きすぎて倒れてしまった、ということらしい。
AIだって機械だって、仕事をしすぎたら動けなくなる。そんな話は、私もどこかで聞いたことがあった。人間と同じだ。
(私のせいだ……調子に乗って、大きなものや複雑な機械を作らせすぎたんだ……!)
ショックを受ける私の目の前で、エルが心配そうにナゴミへ話しかける。
「確かに、今回はうちのメジロたちも楽しちゃったし、作るのは全部ナゴミに頼りきりだったから……どうしよう、サツマイモ買ってきたらいい?」
「お願いするっす」
「ダメ、そんなにあげちゃダメ! ナゴミのためだから」
「そんなぁ」
ナゴミ、この機会にもらえるだけサツマイモをもらおうという魂胆だ。そうはいかない。
しかし、ナゴミのために何ができるんだろう。おやつのサツマイモをあげる以外に、回復の手助けになることは、私はパニックになってしまって思いつかない。
どうしよう、どうしようと困る私を見て、シンとココアが立ち上がる。
「ちょっと待っててくれ! すぐ戻るから!」
「ココアも行くね」
何か、ナゴミを助ける心当たりがあるらしく、シンを先頭に二人は急いで教室を出ていった。
この際、ナゴミのためなら何だっていい。
「大丈夫だよ、カナデ。何とかなるって!」
「うん……」
エルに励まされながら、私はすがる思いで、二人が帰ってくるのを待った。




