表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の『使い魔』はビーバー!  作者: ルーシャオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/17

第十三話 でっかいビート板と思って

 制限時間は、残り【00:30:10】。


 『それ』は思ったよりも、ずいぶんと早く完成した。


 砂浜はもう遠く、晴れ渡る水色の空がどこまでも続く中、大海原に現れたのは『海上フロート』を使った人工島だ。


 小さな島と同じくらいの大きさの陸地で、ソーラーパネルで覆われた東京ドームのような大屋根がはためく。中心では遊園地のような長いウォータースライダーが水飛沫を上げて行き交う。


 『海上フロート』のはしっこには、透明なケースに入った機械がずらりと並んでいる。海に直接パイプを下ろして海水を汲み上げ、取り出し口からベルトコンベアーで材料化した四角いブロックが次々と運ばれてくる。


 それを使って、ナゴミはまだまだ作業を続けていた。


「ウォータースライダーはもっと延長するっすー! うおー!」


 多くの四角いブロックは、建築にも使える材料に変換されていて、『海上フロート』をもっと増築したいナゴミが活用している。


「この暑さで巨大建築物の材料集めは苦労するんで、自動で海水からカーボン素材やコンクリート、バイオプラスチックを作る機械も導入したっす。これで永遠に建築できるっすよ〜」


 海水は、ほぼ無限の資源だ。熱い砂浜で材料を探して走り回るより、いっそ『海上フロート』で海に漕ぎ出して、そこにある海水から材料を作ったほうがいい——私はそう考え、そのための機械をナゴミに作ってもらった結果、すごいものができてしまった。


 そのうち、四角いブロックの一列は、そのままウォータースライダーのてっぺんに自動で運ばれていき、そこで材料である『真水』に戻って、プールの水として使われるようになっていた。


 曲がりくねったウォータースライダーのチューブの中で、エルとシン、ココア、メンちゃんが大はしゃぎで滑っている。


「うわー! 高い!」

「濡れない! でも滑れるー!」

「メンちゃんスライダーだ〜」


 バシャーン。


 終点のプールに、みんなが次々と飛び込んでくる。


「ズルだろ、こんなの……」


 プールのふちで、ウルフドッグも入りたそうにしているが、ハルトの打ちのめされた声の手前、我慢しているようだった。


 みんなが泳いで集まってくる。私も、ナゴミと一緒にウルフドッグ、ハルトのところへ行って、『海上フロート&ウォータースライダー』の出来栄えを語る。


「今回は材料集めがあんまりできそうになかったから、みんなのなけなしのSPを全部『木材パック』と『石材パック』にして」

「まあ、余ってたってそんなに使わないしな」

「何でもいいから、早く涼しくしてほしかったもの」

「ココアも同じ〜。メンちゃんが喜んでる」

「そこから、まずソーラーパネルつき『海上フロート』と海水変換装置を作ったの。あとはそこから、材料をたくさん作って、『海上フロート』の上にアトラクションのウォータースライダーを設置! これで課題はクリア!」


 海水変換装置とひとまとめにしてしまったけど、海水を真水にする装置、カーボン素材やバイオプラスチックを作る装置などは、実際に開発されているものだ。 


 建築物だけじゃなく、機械もまたインターネットで検索して、仕組みを図で説明する画像をナゴミに渡せば作れる、というのはさすがに私もびっくりしたけど。


 案の定、そこはハルトもムキになってツッコんでいた。


「海水変換装置って、そんなのアリかよ!」

「ちゃんと現実にもあるっすよ。限りある資源を大事にするエコっすよ、エコ」

「……ヤバすぎだろ、このビーバー」

「検索してアイデア持ってきたのはご主人すよ。自分は作っただけっす!」


 ナゴミにそう言われて、ウルフドッグが変なものを見るような目つきで私を見ていた。


 『海上フロート』アトラクションを作ろうと思い立ったのは私だけど、作ったのはナゴミで、楽しんでいるのは七班のみんなだ。


「ハルトくん。これで、ズルしてないって分かったでしょ?」

「それは……」


 諦めの悪いハルトは、まだ何か言えることがないか探しているようだ。


 そこへ、意外な人物がやってきた。


 桃名先生が、VR空間に入ってきて、『海上フロート&ウォータースライダー』を興味津々に眺めていた。


「こりゃすごい。もうこの海上フロートの存在自体がアトラクションだな」

「あ、先生」


 どうして先生が、と言おうとしたところで、ウルフドッグが固まっていることに気付いた。


 桃名先生は、ウルフドッグを通じてハルトをたしなめる。


「火野、一班のほうはどうした?」

「え、えっと、それは」


 本当なら、ここにハルトの『使い魔』がいるのはおかしい。自分の班のところで、課題のために作業をしているはずだ。


 まさか、七班がズルをしないように見にきました、なんて言えるわけがない。


 さっきまでの威勢はどこへやら、何も言えなくなっているハルトと連動して、ウルフドッグはキューンと小さく鳴いてうなだれている。


 気まずい空気が流れる。かといって、一方的にズルの汚名を着せられた七班のみんなは、ハルトをかばう理由がない。


(……どうしよう)


 このまま、ハルトが桃名先生に叱られれば、多分もう邪魔はしてこない。


 でも、それでいいのかな、と思う自分もいる。


 私たちがこれまで課題をスムーズにクリアできたのは確かだけど、じゃあそうできなかったクラスメイトたちは、私たちをどう思っていたんだろう。


 ハルトだけじゃない、他のみんなも「ズルじゃん」と言いたい気持ちを持っていたのかもしれない。


(そのわだかまりを残したままで、四年生の残り、同じクラスで一緒に勉強できる? ——きっと、無理だ。そんなの、イヤだ)


 なら、どうにかしなきゃいけない。


 私は、一歩を踏み出した。


「桃名先生。ハルトくんは、『使い魔』を通して、七班の作業を見学に来てたんです!」


 桃名先生は目を見開いて、びっくりしていた。そのままウルフドッグへ視線を向けて、確認する。


「そうなのか?」

「へ? え、ええと」

「うちの班が、ナゴミのおかげで作業テキパキだから、参考にしたいって。一班のみんなはいいって言ってくれたって!」


 そういうことなのだ、と私は一生懸命、アピールした。


 実際のところなんて知らない。でも、ここでハルトが叱られれば、一班の子たちも叱られる。


 文句をつけ、邪魔された、ケンカになった、片方だけ叱られた……それで仲直りなんて、できっこない。


 仲直りしなくていい、なんて言えるほど、私は強くない。気弱だとか、余計なお節介だとか言われても、私はハルトを一方的に悪者にしたくない。


 しん、とその場が静まりかえる。


 ウォータースライダーの水が流れる音だけが耳に響き、遠くで波の音が重なる。


 少しして、桃名先生は険しくなっていた目をゆるめた。


「なるほど。それならまあ、いいか。でも、『使い魔』は早めに戻しておくようにな」


 それだけ言って、桃名先生は帰っていく。


 桃名先生が見えなくなってから、私は他のみんなと同時に大きなため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ