第十二話 海の上に建てられない? 逆に考えるんだ
ここで、想像してみよう。
夏の南の海に浮かぶ、私たち全員を乗せたイカダ。イカダは漂い、海の上を進んでいく。ジリジリ砂から上がってくる熱気から逃れ、快適に過ごせる場所だ。
もうそれだけで『海のアトラクション』となるし、屋根代わりにテントでも広げれば太陽に当たらなくて済む。
七班のみんなは、へえ〜、と感心してくれていた。
「いいね〜。それならナゴミちゃん、できる?」
「できるっす! まあ、材料はね、ちょっとね?」
「それはいいとして、浮かべるイカダは一つだけなの?」
「たくさん浮かべたって使わないだろ。それと、イカダを海に浮かべるだけのアトラクションにするのか?」
「ううん。イカダはあくまで、たとえの話。イカダをより大きくしてみたらどうかな。教室くらいの面積なら、ゆったりできるし、ボール遊びもできるよ」
「おお〜」
私の想像しているのは、海に浮かぶ、どでかいイカダだ。丸太は歩きにくいから、浮き輪でもいいし、平たい板を乗っけてもいい。その上に、まるで帆船の帆のようなテントの屋根が付いて、あちこちを海風が通り抜けていく。
そこまで考えていたら、シンがこんなことを口にした。
「んー、ゲームだと水上都市とかあるけどなぁ」
「ゲームの話でしょ?」
「いや、現実にもあるんだよ」
「本当かな〜?」
「本当だって!」
水上都市!
そんなものもあるんだ、と私は目からウロコだ。
さすがシン、ゲームでいろいろなことを学んでいる。
「水上都市、ってどんなのだろ。みんな、調べてみようよ」
みんなで【ウォッチ】を使って、水上都市を調べてみる。
すると、案外たくさんの情報や画像が出てきた。
「油田? 海の上で石油を掘るの!?」
「ほら、ヴェネツィアって水上都市がある!」
「これすごーい。モルディブって南の国で、海の上に街を作るんだって〜」
鉄骨で造られた頑丈な施設が、海の上で石油を掘るために働いている。
イタリアの古い都市は、海に面していて水路だらけだ。
南の国、モルディブというところには、これから作る予定の海上都市が計画されている。
世界には、思ったよりもずっと変なものがたくさんあるのだ。
その中で、私が一番気になったのは、『海上フロート』というもので、ようするに浮島だ。
金属で作られているが、原理はイカダと同じで、水の上に浮かべてビルより大きなクレーンを運んだり、将来的には海上都市を組み立てるときに使うことも考えられている、とか。
ただ、『海上フロート』はイカダ同様、自分で動くことはできない。動きたいときは、船に引っ張ってもらわないといけない。今回は動かさなくていいから、それは問題ないだろう。
「これ、使えるかも。ナゴミ、これって作れる?」
【ウォッチ】の『海上フロート』画像をスワイプして、ナゴミへ送る。
小さなお手手で受け取ったナゴミは、すぐにいい返事をした。
「もちろん、材料さえあればできるっすよ!」
「やったぁ!」
じゃあさっそく、とナゴミが材料の見積もりを出していたそのとき。
ココアが、突然立ち上がった。
「む。メンちゃんセンサーが感知したよ」
「何、それ?」
「あそこ」
ココアが私たちの後ろの砂浜を指差す。
そのずっと先に、ポツンと一匹の犬が伏せていた。
黒い狼のような外見で、でも首輪がちゃんとあるから犬だろうと思う。私たちを遠巻きに見ているようだ。
じっとしているし、前回のヒツジとヤギのように妨害をしてくるお邪魔キャラクターのようではない。それに、このVR空間ステージで動物が出てくるということは、きっと誰かの【使い魔】だ。
私は【ウォッチ】で画像を撮り、認識させると、その犬のステータスが出てきた。
火野ハルトの『使い魔』、ウルフドッグ。
それを見た私は、思わず声を上げる。
「ハルトくんの『使い魔』? どうしてここに?」
その声が聞こえたのか、ウルフドッグは立ち上がり、走ってきた。私たちに近づくにつれ速度を落とし、お行儀よく前足を揃えて座る。
一方、私たち七班の『使い魔』たちは、みんな犬が苦手だ。メジロとハムスターはそそくさと隠れ、ナゴミは立ち上がって必死にムームーと鳴いていた。威嚇のつもりかもしれない。
ウルフドッグから、ハルトの声がした。
「ふん。お前らがズルしてないか、監視にきただけだ」
私の疑問に答えるように——しかし、その声は敵意満々だった。
どうやらウルフドッグの首輪から、ステージのどこかにいるハルトと繋がっていて、音声通話ができるらしい。
すかさず、ココアが反論した。
「へ〜、よく言う〜。ズルだって、カナデちゃん。ププ〜」
「何だよ、メンダコ女!」
きっとココアのことだろうと思うけど、メンちゃんと一心同体なココアへその悪口はノーダメージだ。
キョトンとしたナゴミが、ムームー鳴くのをやめて、ハルトへ素直にたずねた。
「ズルって何のことっすか?」
「最初のVR学習のときの、あの白い城だよ! いきなりあんな城、作れるわけないだろ」
「作ったっすよ。何なら、丸太にきざんだ前々回の作業ログをお出しするっすよ」
「わけの分かんねー生き物がわけの分かんねーこと言うな!」
「わけ分からなくないっす、こちとら正真正銘、先祖代々ビーバーっす!」
「まあまあ」
シンが口ゲンカを始めたナゴミとハルトの間に入って、なだめていた。
エルが私へヒソヒソと耳打ちする。
「ねえ、ズルって何のこと?」
「うーん……説明すると長くなるんだけど」
「じゃあ、後でいいか。それより、課題の邪魔してるのハルトくんじゃん。あれ何とかしないと」
そう、ここでやるべきことは、第一日課題のクリアのために作業をすることだ。正直に言えば、ハルトのことは今、どうでもいい。
でも、これでようやくはっきりした。
私たちの課題クリアをズルだと批判して、「負けねーから」と対抗心を燃やしていたのは、ハルトだ。きっと、私たちがズルをしたに違いない、今回もするだろう、と思って、『使い魔』のウルフドッグを派遣して証拠をつかもうとしたのだろう。
(『緑地化』の課題で、ステージに出てくるお邪魔キャラクターのヒツジとヤギを、寧々家先生のあやしい試作品アイテム『超コピーカプセル』を使って増やしたのもハルトくんの一班だし……ズルをしたのはそっちでしょ、って言いたいけど、ここでバラしたって余計にややこしくなるだけだよね。せっかく課題のクリアの糸口がつかめたし、そんなことしてらんないよ)
もちろん、私たちはズルなんてしていない。だけど、いくらそう言ってもハルトは納得しないだろうし、今回の課題をクリアしたらまたズルだと言ってきそうだ。
だったら——ハルトがズルだと言えなくなるくらい、正々堂々、実力で勝てばいい。
それはとても簡単なことだ。
私は、積み重ねてきたモヤモヤや怒りを一旦胸の奥にしまって、こう言った。
「ハルトくん、ズルしてなかったらいいんだよね。今から作るから、そこで見てていいよ」
「は? い、いいのかよ?」
「うん。大丈夫」
それだけ言えば、十分だ。
私はハルトに背を向けて、両手の親指と人差し指を使って、風景を捉えるフレームを作る。
砂浜の先には、青い海。そこに、『海上フロート』を浮かべよう。学校のグラウンドよりも大きな浮島の上に、たくさんある海水を使ったアトラクションを作りたい。
となると、海水を真水にして、ナゴミも泳げるプールがいい。
それを全部作るとなると、どんなものが必要か。私は【ウォッチ】で、また新しく検索窓を開き、『海水、真水、機械』、それから『アトラクション、プール』、さらにもう一つ『海水、素材、製造』と入力した。
さっきの『海上フロート』に加えて、その三つの検索結果から出てきた画像を、ナゴミへスワイプして送る。
「ナゴミ、こんな『海上フロート』っていう浮島を作って、その上に何かアトラクションを作れないかな? ウォータースライダーとか、あとこんな感じの機械で足りない材料を作って……」
ゴニョゴニョ、ナゴミのまんまるお耳に、送った三つの画像のことを説明する。
ナゴミはすぐにピンと来て、笑顔を見せた。
「ふむふむ、ふーむふむ。なるほどっす! これなら海水も大丈夫っすね!」
「浮島って、ひょっこりひょうたん島みたいなやつ? 面白そうね!」
「そっか、課題の『海のアトラクションを作ること』って、別に海の中に入らなくたって、海の上に作ったっていいわけだ! やるじゃん、カナデ!」
「時間もないし、さっそくはじめよう!」
「「「おー!」」」
やるべきことが決まったら、みんなで気合を入れて、作業開始だ。
怪訝そうなウルフドッグに見守られながら、私たちは【ウォッチ】から出せるだけのアイテムを取り出した。




