第十一話 みんな海は苦手、メンダコ以外
太陽サンサン、皮膚がジリジリ、波の音はザパーン。
私の祈りはむなしく、夏、南の海、青くて透明な水が課題のVR空間ステージに再現されていた。
私たちはVR空間の環境——暑さ寒さや湿気を感じないはずなのに、まるで今ここが常夏の南の海にいるかのように思えるくらいリアルだ。
なので、私、ココア、メンちゃん、そしてナゴミは暑さでシオシオになっていた。
やっと、桃名先生の声が聞こえてくる。
「さて、みんな、準備はできていると思うので、課題を発表します。今回は——『海のアトラクションを作ること』。制限時間は今から六時間目の終わりまで、それじゃあスタート!」
いつもどおり宙に数字が浮かび、制限時間残り【01:30:00】が表示され、カウントがスタートした。
でも、私たちはやる気が出ない。
「海だ……」
「海っすねぇ……」
「日差しが強いね〜……」
「ココアだけ帽子かぶって……いや、ナゴミもヘルメットかぶってた」
呆れた様子で、エルとシンが私たち暑さシオシオ組を見ている。
ここは砂浜で、海と白い砂地のほか、何もない。日光をさえぎるヤシの木だってない。
となれば、大急ぎで日陰が必要だ。
「ひとまず、パラソルと椅子を作ろう! VR空間なのに、何だかすごく暑い気がする! 熱中症になっちゃう!」
「了解っす!」
私は【ウォッチ】から売店で買った『木材パック』を取り出し、ナゴミに渡す。
今から材料を集めていては、先に私たち暑さシオシオ組が倒れてしまう。
仕方ない、命のほうが大事だ。特に、メンちゃんはすっかり体の水分がなくなり、ココアの頭の上でしぼんでかわいそうなことになっていた。
ガジガジ、っとナゴミの作業は一瞬で終わり、私たち七班全員が入れるくらい大きくて頑丈なパラソルがポンと砂浜に建った。
その下に、ベッドのような木のベンチが三つ並んでいて、私たちは急いで乗る。命からがら、ようやく熱すぎる砂から少し離れられた。
「メンちゃんは海に行ってていいよ。用があったら呼ぶから〜」
「水、どこかにないかな……ナゴミが倒れそうになってる」
「すぐメジロたちに探させるわ。その毛皮じゃこの暑さは無理でしょ」
「うぅ、助かるっす……!」
もう、これは課題どころじゃない。AI『使い魔』にとっては、VR空間の環境がそのままダイレクトに影響する。
つまり、夏の南の海、という設定だったら、暑さと海水が苦手なビーバーはいつもの力を発揮できない。
それに、七班の他の『使い魔』たちも、夏の南の海は得意じゃなかった。
「うちの班の『使い魔』で、海に入れるのはメンダコのメンちゃんだけか。ちょっと今回はきびしいかもな」
「そうね、私もそう思うわ。ナゴミは海水ダメなんでしょ?」
「絶対ダメっす。ビーバーはノー海水、ノー塩水っす!」
「メジロもハムスターも当然ダメ。メンダコは海だけど、住んでるのは冷たい深海だからちょっと微妙かな」
メンちゃんは干からびてしまうから陸地にいられなくなって海に潜ったし、シンのハムスターたちも暑さをさけて、ベンチの上に群れ代表の一匹が出てきているだけだ。
唯一、空を飛べるエルのメジロは活動できているけど、戻ってきたらバテているし、と、もうどうしようもない。
木のベンチでグデっとあお向けのモチのようになって、ヘルメットを脱いだナゴミは悔しそうに叫ぶ。
「ぐぬぬ、それでも『森の建築家』魂が叫ぶっす! 何かを作ればきっと何とかなるっす!」
「うん、がんばって課題をクリアしなきゃね。ちょっと考えてみよう」
「お願いするっす、ご主人!」
平べったくなったナゴミが、キャベツで少しでも水分を取ろうとシャクシャクしていた。何だかあわれになってくる、早くどうにかしなくちゃ。
(さてと、どうしよう。海はみんな苦手で、でも海のアトラクションを作ることが課題だし……何とか、海に入らずにできないかな? 砂浜だけで何かを作る? それも違うかなぁ)
今回のVR学習の課題は、『海のアトラクションを作ること』だ。なら、海に関係する、遊園地の乗り物のような楽しいものを作らないといけない。
砂浜だけ、となると、直接海には関係しなくなってしまうから、課題をクリアできないかもしれない。
(そもそも、生き物はみんなお水を飲むけど、海水は塩水だから飲めないんだよね。だから、やっぱり海水さえ何とかなればいいはず)
ふと、私は海水を飲み水にする発明のことを思い出した。
砂漠の国は、水が貴重だ。だから、飲めない海水から塩やゴミを濾過して、飲める水にする機械を使っているらしい。
ちなみに、私がそんなことを何で知っているかというと——うどんで有名な香川県もあまり雨が降らないので、その機械でうどんを茹でようとしている、という話を耳にしたからだ。
多分、ビーバーのサツマイモと同じくらい、香川の人たちはうどんが大好物だから、そうなっている。
それはともかく、頭を抱える私の横に、ココアがやってきた。
「カナデちゃん、悩み中〜?」
「あっ、ココアちゃん」
「ひとりで抱え込まないで、みんなで悩もうよ。メンちゃんも今回はすごくがんばる、って言ってるし〜」
どうやら、海に飛び込んだメンダコのメンちゃんはシオシオ状態から復活して、やる気が出たらしい。しおれていくメンちゃんを見るのは忍びなかったから、それは本当によかった。
ココアの言い分は、もっともだ。私一人で悩むより、みんなで悩めばきっと解決策も見つかる。ことわざの、三人寄れば文殊の知恵、というやつだ。
エルもシンも、私を見てうなずいていた。みんな、同じ気持ちのようだ。
私は、少しだけ、緊張がゆるんだ。何とかしなきゃ、とばかり思って、イライラしていたのかも。
「うん、そうだね。ココアちゃんの言うとおり。じゃあ———海水を」
海水、という単語を口にして、私はふわっと思いついたことがあった。
一瞬固まった私を心配して、ナゴミが尻尾をベンチに打ちつける。
「どうしたんすか、ご主人。はっ! ひょっとして、海水を真水にするんすか!? それができたらえらいこっちゃっすよ!」
そう言いつつも、ナゴミは興奮気味だ。無理難題があると、『森の建築家』魂が騒ぐのだろう。
ただ、こういうときはエルとシンが、できることとできないことを区別して、真剣に考えてくれる。
「こらこら、さすがに海の水全部はできないでしょ。それに、時間が絶対足りないし」
「うん、それだったら砂浜で何とかしたほうがマシだろ? プールでも作ってさ」
そこで、私は思いついたことを、みんなに伝える。
「水に浮くイカダ———これなら、どうかな。海の上に浮かべば、海水には入らなくて済むよ。それに、太陽さえ当たらなきゃ、砂浜よりは涼しいはず」




