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僕と北高山岳部とギャル先輩  作者: ぴっけるくん
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第24話 彼女の夢とクリスマスとギャル先輩②





3日後、八ヶ岳から帰ってきた四人は、部室に足を踏み入れるなり、崩れ落ちるように椅子に座った。



「……ダメね。やっぱり、二人がいないとリズムが狂うわ」



坂田部長が、ひどく疲弊した顔で溜息をついた。



「陣太郎くんの屁理屈が聞こえない山登りなんて、塩を忘れたスープのようなものだったですよー」



エビちゃん先輩が、珍しく寂しそうに微笑む。


岡先輩も、僕の隣にちょこんと座ると、小さく頷いた。



「……うん。……ももちゃんと福島さんがいないと、……山が、……1000メートルくらい、高く感じた」


「ほかの学校の奴らにツッコミいれるわけにいかねーし、こんな疲れる山行初めてだよ」



板垣先輩もストレスフルな状態だったようだ。



どうやら僕という存在も、この奇妙な共同体の中に、欠かせないパズルのピースとしてまり込んでいるらしい。せっかくの関東大会出場だったのに、先輩たちには本当に申し訳ないが、僕は心の中で少しだけ嬉しかった。







11月。榛名山での今年最後の秋山。





秋の終わり、というよりは冬の始まりを予感させる冷たい雨が、容赦なく僕たちの体温を奪っていく。



「寒い……。自分の身体が、冷凍庫に忘れられた保冷剤になったみたいです」



僕はテントの中で、自分の指先に息を吹きかけた。



「ほら、福島さん。お味噌汁、温かいうちにんでくださーい」



エビちゃん先輩が差し出してくれた、フリーズドライに少しだけ生姜を加えた味噌汁。その熱が喉を通るたび、自分がまだ「生きた人間」であることを再確認できる。



「ジンタロー、情けないなー! ほら、もっと動いて体温上げなよ!」



桃香先輩は、この寒さの中でも相変わらず太陽のような明るさを保っていた。彼女の明るさは、時に僕たちの凍えそうな意志を温める唯一のストーブになる。



「……福島さん、……これ、……使って」



岡先輩が、自分のザックから小さなカイロを取り出して、僕の手に握らせてくれた。



「……わたしは、……大丈夫、だから」



前髪を上げた彼女の瞳には、以前よりもずっと、他者を思いやる余裕のようなものが生まれていた。






12月になると、世界は急ぎ足でその色彩を削ぎ落としていった。

窓の外の木々はすっかり葉を落とし、まるで空に向かって突き立てられた神経質な指先のように見えた。



山岳部としての活動が充実していくのと反比例するように、僕の学業成績は、冬眠を間近に控えた熊の体温のように下降の一途をたどっていた。期末テストの足音が聞こえる頃、僕の数学と英語の点数は、地表を離れてマントルへと向かう潜水艦のように、赤点ラインの深淵を漂っていた。



「……ねえ、ジンタロー。あんた、口だけは達者なくせに、なんで三平方の定理が解けないわけ?中学の数学だよ?」



放課後の図書室。僕の向かいに座った桃香先輩が、信じられないものを見るような目で僕の答案用紙を眺めていた。彼女は、今回の期末テストで学年1位だったそうだ。今回の、というより桃香先輩はだいたいいつも2年生で1番なんだそうだ。超進学校の教師である父親と秀才の姉を持つ。本人がどう思おうと、その血筋には効率的な学習のノウハウが組み込まれているらしかった。



「三平方の定理が、僕の人生においてどのような実利をもたらすのか、その哲学的な根拠が見出せないんです。直角三角形の斜辺の長さを知るよりも、槍ヶ岳の鉄梯子で次にどの指をかけるべきかを知る方が、僕にとっては生存に直結する死活問題ですから」


「あんたね、屁理屈はいいから、この公式を百回書きなよ。死活問題って言うなら、赤点を取って冬休みの補習で山に行けなくなる方が、よっぽど致命的な遭難でしょーが?」



桃香先輩は呆れたように溜息をつきながらも、根気強く僕に勉強を教えてくれた。彼女の教え方は、論理的というよりは実戦的だった。無駄を省き、得点に直結する急所だけを突いてくる。その教えを受けている間、彼女から漂う微かな香水の匂いと、シャープペンシルを動かす指先の動きが、僕の集中力を何度も霧散させたが、彼女の厳しい視線に射抜かれるたびに僕は数式の迷宮へと連れ戻された。



結果として、僕の成績は壊滅的な状況を脱し、平均点には届かないまでも、なんとか赤点ラインという底なし沼から這い出すことに成功した。




「ジンタロー、補習回避おめおめ!ところでさ、あんたクリスマス空いてる?」


「あいにく、何の予定もありません」


「だろーね。もしあったらミンチにしてやるところだよ」



少しだけ嬉しそうな顔で、ニヤニヤと笑う桃香先輩。



「去年もやったんだけどさ、凛のうちでクリスマスパーティするんだ。あんたも来なよ」


「え、いいんですか?っていうかみんなで行ったらお邪魔なのでは…」



僕の家に女子高生が5人とさらに男子ひとりが来たらリビングはいっぱいになってしまう。そんなに大きな家なのか?



「そりゃー心配ないかな。まぁ行けばビックリするよ!」



ふふーんと鼻を鳴らして微笑む桃香先輩。






そして、12月24日。






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