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三十三話 変化を怖がるな、俺たちがついてる。

 ─城内─(視点:隆真)


 もう夕方なのか、窓から差し込んだ陽が俺たちを薄く照らし続けている。

 戦っている時は太陽の光が眩しくて仕方がなかったというのに、それを考えると時の流れって本当に早いんだなと言う事を尽く実感する。


 「隆真さん!」


 扉の方から俺を呼ぶ声が聞こえる。

 爽やかで鬱蒼とした気持ちがすぐ晴れる、耳障りの良い声が─。


 「紙に書かれてあった任務、遂行しましたよ!」


 そう言って扉を開けたのは、俺の恋人と言ってもいい程の仲になっている人物…、耶麻美浦だ。

 悪魔と対峙させてしまったようだが、嫌そうな顔一つせず報告に来てくれたことに、俺は心の中で滝の如く涙を流した。


 「そうか、有難うな。美浦。」

 「いえいえ、此方こそですっ!」


 「紙に書かれてあった任務」というのは、役所にいる時に、建築士のスキルを持つ図書館の人に、火災による街の崩壊を元に戻せる技を教えて貰った事があるのだが、それを瞬時に会得し燃やされているかもしれない王都の街を、元通りにしてくれというものだった。

 扉の外を見ると、燃え盛る火は消え、人々の歓喜している様子が目に映り、何もなかったかのように夕日の光に照らされている。

 まさか本当に会得して使う事ができたとは…、俺と同じで物分かりが早いんだな。


 でもなんだか、久しぶりに会った感覚がするな。

 実際は一日ぐらいしか間が空いてないのに、ダンジョンや利水との戦いで疲労が溜まったからなのか、一週間も会えてないような感覚がする。

 兎にも角にも、無事で良かった。相手は悪魔だったみたいだからな。

 戦ったことはないしどれくらいの脅威かもわからないが、無事に倒せたみたいで一安心だ。


 「結局、あのゲテモノを刺せたのは数回だけ。足引っ張ってばっかじゃん僕…。」

 「でも技の威力とかはすげぇとこまで行ってるって、俺は思うけどな。」

 「変に謙遜すんな!刺すぞゴラ!!」

 「ふふっ、遊雅と戦ったって貴方なんかじゃ勝てっこないよ。」

 「お前まで─!」


 陽気かつ物騒な会話を奏でながら、美浦の横に立つ露達。

 傘と網津さんの姿が見当たらないが、嵐魔と悠七も居る。

 身体や顔、腕周りの傷が癒えていることから、悠七が全員分の傷を治したんだなという事がわかった。


 「やっほー隆真く〜ん!」

 「や、やっほー?」

 「もう、釣れないな〜!もうちょっと元気良く言ってよ〜んっ!」

 「悠七!ちょっかいかけちゃダメっ!今隆真さんは戦闘で疲れてるんだから!」

 「私らだって戦闘で疲れてたじゃん。」

 「殆ど見てただけ!」


 見てただけ…、ほぼ戦ってないってことか?

 となると、誰かが一人で相手したってなるけど…。

 もしや、網津さん?


 ─城の目の前で─(視点:三人称)


 網津はただ一人、昔を思い返しひたすらに悔やんでいた。

 沢山の人を失って、それでも死ぬ事ができなかったあの頃の自分と、先程の戦いでマモンを一方的に責めた時の自分を。苦渋を飲み続けたような渋い顔で。

 喪失感に浸る網津は、皆と一緒に報告をする事なんて出来ず、傷を掘っては泣いて、虚空に向かって嘆き叫んでいる。


 「良い加減、過去のことを思い出して泣くのはやめなさい。」


 後ろから一蹴りを喰らった。

 強烈な一撃で、網津は背骨が折れそうになった。


 「いったいな、少しは手加減しろっての…。」


 後ろにいるのが傘だと分かっているのか、振り向かずに文句を吐くように言葉を紡ぐ。

 それに傘は痺れを切らし、思いっきり息を吸って─。


 「バッカやろう!!!!」


 と怒気を強めて、鼓膜が破れるくらいに叫んだ。

 網津はその叫びを聞いて、咄嗟に耳を塞ぐ。


 「うるっさいな、お前は関係ねぇだろ!さっさと失せろよ!」

 「失せない!直接的には関係ないかもしれないけど、私は役人だもの!貴方と向き合わなけりゃ貴方を失うだけよ!」

 「ほっといてくれよ、もう…。沢山失いまくって傷だらけで、こんな弱いところを見せまいと周りに隠して…。今の俺に、助けられる義理なんて存在しないんだよ…!!」

 「助ける義理は存在するわよ!貴方が存在しないって決めつけてるだけで、ちゃんとある!!私だって貴方のことをずっと考えてる。考えて考えて考え続けてる…!貴方は役所の長的存在だから、私と言う歳の差が少ない人間が声を上げることに意味はある!今の子供達じゃ寄り添ってあげられないことだってあるのよ…!だから私がいるの!絶対にここを動かないから!貴方の気が変わるまでね!!」

 「話が、通じねぇなぁ…ッ…!!」


 彼が歯を食いしばって泣くのを我慢しているのを、傘は知っている。

 だからこその怒りが、彼女の中で湧いている。

 過去の憎しみや悔やみを断ち切らなければ、彼がどうなるか、分かったものじゃないから。


 「そういう仕草も、弱いところも、全然貴方らしくない!前の冷たい態度だって、ずーっと気に食わなかった!一人で戦う時だってずっと苦しそうだった!私は本音をぶつけることをずーっと我慢してきたの!「あいつの事だからどうせすぐ忘れるだろう」とか、「私が口に出すべき事じゃない」とか、そう言って誤魔化してきたの…。でももう限界よ!頭に来たわ!正直にはっきり言うわ、隠し方がわざとらしいのよ!誰も自分の本心を知らないでいるように冷たく接して、悟られそうだと思ったら急に態度を切り替えて、それってただ自分を孤独にさせているだけなんじゃないの!?陥れてるだけなんじゃないの!?過去の仲間を無くしたことを思い出して凹む、それは分かるわよ。でも、それを理由に今の仲間を遠ざけようとするのは、違うでしょう!?ずっと抱え込んでも埒が開かないし、決別して切り替える事ができなきゃ貴方はどんどん苦しむ!どうせならこの場で全部吐き出して欲しいけど、難しいんでしょ?なら、切り替える努力をしてみなさい!誰かに頼る努力をしてみなさい!貴方はもう大人なのよ!?それぐらい堂々と余裕でかまさなきゃダメでしょうが!!この、変態野郎!!」


 傘の言葉が強く響いたのか、一瞬顔がビクッと動いた気がした。

 そして網津は、過去のことを思い出す。


 ─過去─


 「よーし、これから頑張ろ〜!」


 勇気を持って踏み出して、役所を作ったあの日。

 周りの仲間は自分よりキラキラしていた。

 力も容姿も姿勢も言動も何もかも、自分とは違って見えた。


 「大丈夫か!」

 「あんまり無理すんなよ!」

 「自分のペースでね。」

 「魔力使い過ぎに注意っ!!」


 いつも支えてくれて、助けてくれて。

 でも、その事で落ち込んだ時は。


 「何バカな事で落ち込んでんだ網津!俺たちに助けられてばかりで申し訳ないだ?バカなこと言ってんじゃねぇ!!俺は義務でお前のことを助けてるんじゃねぇ、お前を助けてやりテェっていう本気の気持ちで助けてんだ!迷惑だなんて思ってねぇ、寧ろもっと助けを乞えって思う!それぐらいお前のことが、大好きなんだよォ!!」


 ちゃんと叱ってくれて、しかもその時でさえ、優しさが溢れている。

 そんな人達の前でまた落ち込んでちゃ、今度こそそっぽ向かれてしまう。

 今の仲間は和気藹々で、昔の仲間より個性的だ。

 だから今度は、長である俺があいつらを支えてやる番だ。

 それをしっかり自覚しないで、なにが長だ。

 ふざけんなド変態野郎!


 自分をこれでもかと卑下して戒めて、傘の言葉を大事に頭にしまう。

 網津はそうしてやっと、自分を取り戻せた気がしたのだ。


 「はぁ、良かったぜ…。お前がドン底まで堕ちちまったら、俺が一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、その必要がなくて。ほんと、ほっとしたぜ。」


 目の前が突然、白くなり始めたと思ったら、網津の隣に現れたのは、過去の役所の長だった。


 「お、長…、ぁ──」


 また泣きそうになる網津。

 それを見てゆっくり近づき、網津を抱く長。


 「泣くなよ。お前、強くなったんだろ?」

 「─だって、だってっ…!目の前にっ、長がぁ─!!」

 「俺ばっかに構ってると、また傘って厄介な女に尻引っ叩かれちまうぞ?」

 「…それは、嫌だ。」

 「だろ?女の暴力は男の敵だっ!ってことで、前を向けよ。網津。真っ直ぐ生きて、俺たちの分まで、役所を盛り上げてくれ!!」

 「─分かった、有難う…!!」


 涙を流しつつも、白い世界と過去の長に別れを告げる。


 「頑張んなよ!網津くん!!」

 「負けんな網津!!」

 「網津さんは一人じゃないっ!!」

 「苦難に注意、網津っちファイトだよー!」


 他の役人の声も聞こえる。


 「我に勝ったからって、蛆虫みたいに泣き喚くのは御法度である。ちゃんと前を向くんだぞ網津!」


 マモンの声も聞こえる。

 そして、しっかり目を開いて立ち上がり、傘の方を向く。


 「きゅ、急になによ…。」

 「なぁ…、裸になったまま海入るとほんと気持ち良いぞ。」

 「改心した一発目の言葉がそれかいっ!!」

 「いたっ!脛蹴るなよBBAが!!」

 「はァ!?!?!?ふざけんじゃないわよ!誰がババアだってぇ!?!?!?!?」

 「じゃ、冗談だってぇ!!」

 「冗談になってないから!!」


 王都内に響き渡る和気藹々とした二人の声。

 住民達はひっそり笑顔に。

 強くなれた男の切り替えは、恐ろしいものだと感じる傘。

 楽しさだけが頭を支配している変態野郎こと網津。

 二人の関係はのちに、幸せなものになるであろう。

 私達でしっかり、見届けてあげよう。


 つづく

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