三十二.五話 深淵の底に眠る新たな出会い
―王都「パルテール」にて―(視点:三人称)
「はぁ⋯、あの者達は実に魅力的な力を持ってはりますな。ワイのこの腕で独占したい程ですわぁ。」
王都に立派に聳え立つ城の天井に、紫一色に染まった和服を着ている、前髪に花柄の飾りをつけた長らしき人物が、下で起こった光景を眺めて見ていた。
「ワイは特殊なスキルは持ってる。だがそれだけで、あんな俊敏に動くことなんてできんさかい。ほんま羨ましいったらありゃせんわ。独占できんならせめて、手駒にすることぐらいはさせて欲しいなあ〜。」
恍惚に浸っているその者の前に、謎の黒い影。
どうやら、長の者の部下のようだ。
「―お、来なさったか。今街の状態はどうなんか、早速聞かせてもらっても⋯?」
「承知しました、ではお伝えします。現在「花乱柄町」では、侍と忍者による内乱が起きています。」
「またやっとんのやな、意地の張り合い。ワイはそれやめて平和に行きましょ言うたんに、それを無視するとはいい度胸や。」
町のある南東に身体を向け、睨みを利かせるが、部下にそんな所がバレてはいけないと思い、すぐに部下に目を合わせた。
「情報、おおきにな。綾はん。」
「いつもの事ですよ、お気になさらず。」
部下の名前は早高綾。
忍術の使い手であり、護衛や情報伝達を得意とするクノイチ。
長である稲宮鶴雅とは、恋愛関係にある。
だが、まだ婚約はできていない。
「それにしても下の者たちは、非常に専念されたスキル技を使ってらっしゃいますね。」
「嗚呼、そこが魅力なんよ。綾はんも分かってはるな〜。」
「私もあそこまで自由奔放に戦ったことはありませんのでね…。興味深いと思うのは当然の事ですとも。」
扇をザッと広げて、優雅に微笑むクノイチ。
その美しさに、鶴雅はいつものように惚れる。
「あらまぁ、照れてらっしゃいますの?」
「そ、そんなんじゃあらへんよ…!そんな下心、綾はんに見せびらかすはずが、あらへん…。」
「強がらなくてもいいんですよ。この忍びの前では、砕けていても…、いいんですよ…?」
「そんな事言われたら、もっと惚れてまうがな…。」
2人はそっと顔と身体を寄せ、唇の抱擁を交わす。
下の打撃、斬撃の音を聞きながら、一瞬の刹那でさえも包んで…、二人だけで……。
─王都から少し離れた歓楽街─
「〜♪」
「……」
「〜♪♪」
「………」
「〜♪♪♪」
「…ごめん、ちょっと止めていいか。」
ライブハウスらしき場所で、青白い長髪を靡かせた女と、半分が茶髪でもう半分が白髪というチャラさが際立った髪色を見せつける男が、歌の練習をしていた。
女は汗をかきながら必死に歌っていて、美声に嗄れが混ざるようになった。
それをよく思っていない男は音楽を止め、女にグッと詰め寄った。
「君さ、本当に歌手になろうと頑張ってんの?明らかに嗄れてるんだけど。さっきまでの美声が台無し。一体どういうつもり?」
「す、すみません…。私なりに努力した気ではいたんですけど……。」
「努力した結果嗄れたって?馬鹿じゃないの!?僕のギターが台無しになるからすぐ治して欲しいんだけど!」
「…!ど、努力します……。」
ライブハウス中に響くような怒鳴り声を上げる男に、女は動揺を隠せない。
自分のためにやっているのか、私のためにやっているのかがわからないから、怒られないようにするにはどういう行動をすればいいかもわからないし、私はそんなに歌が上手いわけでもない。
それでも私を選んでくれたのはどうしてだろう。
彼女の頭には、その疑問だけが深く頭に残った。
「(僕は、どうすりゃいい…?ギター一本でやっている中、熱中し過ぎている気がする。自分のスキルに翻弄されて、彼女を傷つけて…。本当にそれでいいのか…?そうするのが正解だと本当に言えるのか…?わからない。僕はどうすりゃいい?ギスギスしたこの状況を打破して、彼女と共に自由気ままに歌うには…、演奏するには……、一体どうすりゃいいんだ…?)」
彼女の目の届かない所で、自分の不甲斐なさに泣き崩れている男。
名前は関口飯祢、音楽のスキルに長けているヒーラーが得意な人物。
そして、歌手の名前は花原優梨、歌のスキルに長けているヒーラーが得意な人物。
二人の関係は非常に最悪である。だが、心の中では互いに互いのことを考えて悩んでいる。
そして、この二人は名前が違っているだけで、元は兄妹の関係である。
しかもその事を、二人は一切知らないでいる。
─別の街のライブハウスでは─
「……」
「ねぇ、あいつ何やってんの?」
「知らない。くねくねしたり変な動きしてるだけだから、目立とうとしてんじゃない?」
「……」
「音楽、聴き慣れない曲ばっか。」
「歌歌えよライブハウスなんだから!!」
「……」
「褒めて貰いたいとか、甘えてんじゃねぇよ!」
「お前の変な動き見てちゃキリねぇよ」
「辞めろそんな動きすんの!」
「「「「「Boooooooo!!!!!!!!」」」」」
呆れるほどのブーイングが聞こえる。
呆れるほどの罵詈雑言が耳に入る。
頭が痛い、身体が痛い。
自分のやりたいことがこれなのに、ズバッと否定されて。
彼女は次期に、人が大嫌いになった。
「おい、俺の前であの動き、やってみろよ。」
「スタイルだけはいいからな〜、スタイルだけは!」
その動きを披露するも…。
「オラァっ!オラァっ!はははっ、無様な顔に変わっちまったな笑」
「お〜い後ろの女子〜?こいつ嫌いだろ?最近開発された「カメラ」ってやつで残そうぜ笑」
「いいじゃ〜ん!派手にやったねぇ笑」
身体はボコボコにされほぼ動けず、彼女を嫌っていた女達は技術の進歩によって生まれた「カメラ」というものを使い、淫らな写真を撮りまくる。
「や、やめて…。」
そう訴えても…。
「やめるわけないじゃん笑 楽しいんだから笑」
「楽しいことずーっとやって何が悪いの?」
ヘラヘラしている女子達に散々貶され、自分を奮い立たせることもできない。
そしてライブハウスで活動した影響で得た物は、汚らしいゴミばかり。
金銭も何も入ってない。
「私はこれから…、どうしていけばいいのさ…。」
誰にも自分の夢を認めてもらえず、ヘロヘロになったままスラム街のような場所にある自分の家に戻り、布団も敷かずに地べたで眠る。
彼女の名前は美奈川優菜。この世界では珍しい、ダンスの知識を持つスキル無しの少女。
心は廃れ切っており、誰かの助けを求めているように見える。
─現実世界と異世界の狭間の空間─
「さぁ、会議をしようではないか。彼女にスキルを与えるか与えないか。」
「そんなことに会議を開く必要性がどこにあるというのだ、わしはやらんぞ。」
「お前は馬鹿らしい否定をするな。私は面白いからやろうと思うぞ。」
「別にどちらでもいい、議会を開くも開かんも、貴様の自由じゃ。」
「そう言うと思っていたよ、では始めよう。」
真ん中の火を囲うように繋がれた机が堂々と置かれている。
そして東西南北それぞれに、髭の生えた厳かなる老人が四人鎮座している。
どうやら、神聖なる会議を始めるようだ。
「あーあ、また始まっちゃったよこれ。あの頑固男達のおかげで向こうに通れない。もうさ、世界のどうこうとか別に気にしなくても良くない?どうしてそこまで気にしちゃうのか本当に意味がわからないんだけど。」
醜い会議を見て、独り嘆く青髪の少女。
彼女の名は「ヴェルナーゼ」、会議の管理者であり神聖魔法を使う人物の一人。
文句を言おうとしても、権力の強い四人はすぐに自分を殺してくるだろうから、なかなか言えない。
ヴェルナーゼは所詮、人間なのだから。
この者達が、いずれ隆真と出会す重要人物だ。
隆真の仲間となる者は、この中に果たしているのだろうか。
今後にご期待頂きたい。
つづく




