4話 仕入れ
「で、いくらだ」
俺が聞くと、奴隷商は待ってましたと言わんばかりに笑った。
「金貨4枚」
「高いな」
「戦争奴隷だぞ? 指揮経験持ちで、その歳まで生き残ってる時点で当たりだ」
「片腕だが」
「だから4枚なんだよ。両腕残ってりゃ、もっと上だ」
まあ、それはそうだ。
ルード本人は会話へ入ってこない。
興味が無いわけじゃない。
値踏みされることに慣れてる顔だ。
檻の奥では、別の戦争奴隷がこちらを眺めていた。
包帯越しの片目だけが動く。
売買の話になると、周囲の空気が少しだけ変わる。
次に売られるのは誰か。
皆、無意識にそれを見ている。
「金貨3枚」
俺が言う。
「無茶言うな」
「片腕、年齢高め、戦争帰り。客選ぶ商品だ」
「兄ちゃんも選んでる側だろうが」
「だから値切ってる」
奴隷商は嫌そうに顔をしかめた。
「3枚半」
「3枚」
「おい」
「売れ残るぞ」
俺は通路を見回す。
戦争奴隷区画は人が少ない。
見に来る客自体が少ないのだ。
扱いづらいから。
通路の奥では、酔った傭兵崩れが檻を蹴っていた。
別の奴隷商が怒鳴り返している。
鉄格子を叩く音が、湿った通路へ何度も響いた。
「最近の客は、もっと分かりやすい商品を欲しがる」
俺は言う。
「若い女、従順、健康。そっちの方が回転は速いだろ」
奴隷商は舌打ちした。
否定出来ないらしい。
「……3枚と銀貨50」
「銀貨20」
「細けぇなぁ」
「商売だからな」
数秒、睨み合う。
先に折れたのは奴隷商だった。
「分かったよ。3枚と銀貨20」
「交渉成立だ」
俺は革袋から硬貨を取り出す。
奴隷商は素早く枚数を確認すると、腰の鍵束から1本抜き取った。
鉄格子が軋む。
「ほら、出ろ」
ルードはすぐには動かなかった。
少し遅れて立ち上がる。
思ったより背が高い。体付きも、痩せてはいるがまだ削り切れていない。
「逃げんなよ」
奴隷商が言う。
ルードは鼻で笑った。
「片腕でどこ逃げんだ」
「言うようになったな」
鎖が外される。
重い音が通路へ響き、その瞬間、周囲の視線が一瞬だけ集まった。
興味、諦め、無関心。
色んな目がある。
ルードは自由になった右手を軽く握り直す。
その動きが妙に自然だった。
まだ身体が死んでいない。俺はそれを見ながら口を開く。
「他にも買う」
奴隷商が顔を上げる。
「まだ見るのか?」
「さっきの獣人と、エルフ兄妹」
「あぁ?」
奴隷商が目を丸くした。
「まとめて買うのか?」
「フィンはいくらだ」
「銀貨80」
「高いな」
「耳が良いからな。山側の獣人は追跡と索敵が売りだ」
まあ、分かる。
あの反応速度は本物だった。
「兄妹は金貨5枚」
「そっちはさっき聞いた」
奴隷商は肩をすくめた。
「訳アリとはいえ、エルフは高いんだよ。魔術適性、長命、種族価値。市場じゃ、その肩書だけで値段が吊り上がる」
魔力不全込みでも、読み書きと計算が出来る時点で商品価値はある。
「合わせて銀貨50まけろ」
「お前さっきから値切ってばっかだな」
「このまま在庫として残しておくのか?」
奴隷商は盛大に溜息を吐いた。
「……分かったよ。まとめて買うならまけてやる」
銀貨まで含めれば、そこそこの出費だ。
だが、商品として見るなら悪くない。
フィンは山側適性持ち、ライノとミルノは読み書きと計算が出来る。
そしてルードは、辺境の地形と戦場を知っている。
バラバラだ。
だが、妙に噛み合ってる気もした。
俺達が通路を戻ると、周囲の視線が少し増えた。
獣人、エルフ兄妹、片腕の戦争奴隷。
まともな奴隷商なら、あまり選ばない組み合わせだ。
通路脇の奴隷商が、小さく笑う。
「変な買い方してんな」
「いつものことだ」
俺は適当に返す。
その横で、ルードが小さく鼻を鳴らした。
「……変な商人だな」
「よく言われる」
実際、普通の奴隷商ならもっと分かりやすい商品を揃える。
若い女。
従順な労働奴隷。
売り先が見えやすい商品。
そっちの方が安全だ。
だが、そういう商品は競争も多い。
利益も薄い。
掘り出し物ってのは、大体値崩れした場所に転がってる。
戦争奴隷も、訳アリのエルフも、噛み付く獣人も。
価値が無いんじゃない、まだ売り先が決まってないだけだ。
市場の出口が見えてくる。
湿った空気が少し薄くなり、代わりに外の潮風が入り込んできた。
鉄臭さの残る通路の奥では、まだ誰かが怒鳴っている。
レイヴァルトの奴隷市場は、今日も騒がしい。
その中で俺は、新しい商品達を連れて市場を後にした。




