Who is it ?
今日は三月十三日昼前、つまり、決戦の日である。
沢田邸の門の前に着いた水本は、助手席についている車の窓を開け思わず、
「でけぇなこりゃ」
と呟いた。
「そう、ですね」
と運転席に座る佐々木は返す。
そうその家、いやお屋敷はとてつもなく大きかった。
沢田邸は山あいにあり、車で山を二十分ほど登れば着くのだが、まず門が大きい。
そしてその奥に見える白を基調とした西洋風の三階建てお屋敷ももちろん大きかった。
水本は車から降り大きい門の隣にあったインターホンを押した。
…………ちなみに水本班は水本を入れて八人のため十人乗りの車を使ってきている。車の中はそれなりに賑やかだ。
水本が少し待っているとインターホンから少し高齢───六十代後半ぐらいだろうか───の男性の声が返ってきた。
〈警察関係者のお方ですか?〉
「はい。警視庁捜査一課の水本と申します」
〈あぁ、水本様でしたか、これは失礼致しました。ただ今向かいますので少々お待ちください〉
「わかりました」
そこから待つこと数分、白髪が混じった灰色の髪、眼鏡をかけ、燕尾服、つまり執事服に身を包んだ六十代後半ぐらいの柔和な笑みを浮かべた老人が現れた。
「水本様ですね?」
「はい」
さま?と思いつつ、水本は答える。
「私、この屋敷で長年執事として務めさせていただいております。中島と申します。
本日はどうかよろしくお願いいたします」
と言って深々とお辞儀をする中島。
それに対応するようにお辞儀をする水本。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「それではまず、お車の案内をさせていただきます」
「はい」
それから車をお屋敷の駐車場(これまた大きい)に止めさせてもらい、水本班はお屋敷の中へ通された。
中島に案内され、少し大きめの部屋で待機していると部屋の扉が開いた。
「それでは、これから作戦の概要を確認させていただきます。捜査三課の塚田です」
それはやはり、説明係の塚田であった。
塚田にはここ数日あまり寝れていないのか目元が少し黒くなっていた。
「おう。よろしく頼む」
水本はタメでいいと言われているので何も気にせず普通に話す。
「と、言っても、捜査三課は警備を宝石の周りに数人配置して、出入り口を固めて、監視カメラの管理室が沢田邸あったので水本班はここか、今いる捜査一課の待機室、もとい仮眠部屋にいてくださいね〜。
あ、捜査三課の待機室、もとい仮眠部屋は別の部屋ですので訪れたい場合はお手数ですが中島さんか、捜査三課の人物にお尋ねしてください
宝石の場所はまた午後に案内しますのでご了承を」
「了解」
「あ、別にここのお屋敷の構造見ときたいとかあったら言ってくれればいいので〜」
「あの、塚田さん、寝てますか?」
水本が塚田に問いかけた。
目だけを見れば塚田は本当に眠そうだ。
「寝てる…はず、です」
「少し寝たらどうですか?」
「わかりました、では上司に報告して、仮眠の許可もらってきます………」
と言って去っていく塚田の背中はとても小さく、見えた。
それから少し経ち、水本、佐々木、咲真の三人は中島の案内で沢田邸の主に会いに行っていた。
他の水本班の人物は建物の構造などを見にいくように水本が指示している。
中島がある部屋の扉を三回、ノックし、扉の向こうへいる人物へ声をかける。
「奥様、警察の方をお連れしました」
「入ってください」
中島は片手で扉を開けもう片方の手で水本達に入るように促しながら、
「どうぞ」
と言った。
水本達はそれに従い、水本を先頭に部屋へ入って行った。
そこにいたのは、
「あら?先ほどの刑事さんとは違う方が来たのね〜」
と柔和な笑みで座って微笑む四十代後半か、五十代前半ほどの女性だった。
まずは水本が丁寧に、お辞儀をしながら自己紹介を始める。
「私は捜査三課に協力要請を受け協力させていただく捜査一課の水本です」
「佐々木です」
「谷川です」
咲真と佐々木は水本に続いた。
「私はこの屋敷の三代目の主、沢田和佳子と申します。
本日は我が屋敷の宝のためにこんなところまでご足労いただきありがとうございます。
怪我をしているとはいえ、座ったまま返事をしてしまったこと、お詫びしますわ」
「いえ、そのまま楽な姿勢で構いません」
水本の返事に沢田は笑みをさらに深めこう言った。
「ありがとうございます。どうぞお座りください」
「いえ、私たちは挨拶に来ただけですのですぐに出て行きます。どうか、休んでおいてください」
水本は沢田の提案を丁寧に断った。
「そう、ですか。それでは、また夜にお会いしましょう」
沢田は少し眉を下げ残念そうに微笑むがそれを気にしないふりをして水本は返事をした。
「はい。それでは失礼します」
沢田は水本に声ではなく、微笑みを返した。
水本はそれを出ていくことへの肯定と受け取り一礼をして部屋から出た。
咲真と佐々木も水本に続き礼をし水本に着いていった。
部屋に戻った水本は肺の中にあった息をすべて出す勢いで息を吐いた。
部屋には誰もいなかったため、まだ誰も戻ってはいないのだろう。
「あ“ぁ~、なんでかしこまるだけでこんな疲れてんだ?俺」
「なんか、わからなくもないです」
「そうですか?私はあんまり疲れませんでしたけど」
「佐々木は、そうだろうな、」
─────現在時刻は十二時前、少なくとも、あと五時間ほどは何も起きないだろうと、水本が部下に“飯食べれるやつから食べとけ”と、言うために部下にスマホで連絡しようとした時だった。
一枚の紙が部屋の中心あたりにドアの下の隙間から投げ入れられたのは。
「「「!?」」」
一瞬三人は固まったがそこは班長、水本がすぐさま指示をした。
「俺が拾う!お前らはドアの外!」
「「はい!」」
水本の指示で我に返ったのか咲真と佐々木はすぐに扉へ向かった。
が、そこには誰もいなかった。
そして水本はきちんと手袋をつけその紙を拾った。
そこには、
今夜、色の輪が目当ての宝石と同じ色を冠する時刻に参ります
鶯
と書かれていた。
「とりあえず、鶯ってヤツはもうこの屋敷に潜り込んでるってことだな」
水本がボソッと呟いた言葉に佐々木が反応した。
「そのようですね、それと扉の外にはいませんでした」
「だろうな。それじゃあ俺は捜査三課に報告してくる。その間に他の奴ら集めといてくれ」
「「了解しました!」」
水本はため息をつきながら捜査三課へ向かった。
「それじゃあ俺出ます。なので先輩はここで他の人たちが帰ってきたら連絡ください」
「おっけ〜い」
………………咲真が進んで屋敷を歩き回るのは理由がある。それは、絆音の指示であった。
なんでも、“一人で屋敷を歩き回れる時が来たら下見でもしておいた方がいい”とのことだ。
たしかに、咲真には下見がなければ、この大きい屋敷では迷うというなんとも情けない自信がある。
だが、咲真は外よりは建物の構造を覚える方が得意で、幸いなことにこのお屋敷は廊下に特徴的なものが多く置かれていたり、壁にかかっているため、覚えやすかった。
すると、咲真のスマホから電話の着信音が鳴った。
(先輩かな?)
と思って電話相手を見た咲真はギョッとした。
なぜなら表示された名前は先輩ではなく絆音、だったからだ。
(噂をすればなんとやら、かな?)
「はい、咲真です」
〈津城です。今一人ですよね?〉
「…………そうですけど、え?もうこのお屋敷のセキュリティに潜入してるんですか?」
〈えぇ。そうしたら咲真さんが一人でしたのでこれ幸いと電話をおかけした次第です〉
絆音は悪びれもせず答える。まあ、そうだろう。なんせ絆音は情報屋:shrineなのだから。
「それで?なぜ電話を?」
〈ある場所、というところに案内しようと思いまして〉
「……………要するに?」
〈その場所にいく時だけは迷わないようにしたいです〉
「やはり、そうですか」
咲真は諦めと、少しの恥ずかしさを混ぜたため息をはいた。
〈では案内します〉
「はい、」
そこから咲真は絆音の案内により、二階の部屋の扉の前へ着いた。
「ここですか?」
〈はい。この部屋の窓を開けてもらえればいいです〉
「わかりました」
〈ではまた連絡しますので。失礼します。…………くれぐれも背後には気をつけてくださいね〉
「もちろん」
そう言って電話を切った咲真の背後を静かに見つめるものがいた。
「………………」
その人物は咲真が電話を切ったことを確認し、その場を、後にした。
「あ、先輩たち探さないと、」
咲真は当初の目的を思い出し、スマホを見ると、佐々木から“あと二人、多分迷ってるから見つけて〜“という連絡が来ていたので、“了解“と文字を打ち、送信をタップし、スマホをしまった。
少しした時、咲真は先輩二人を見つけた。
「あ、吉田先輩と坂本先輩、こんなところで何を?」
吉田一虎は気さくな性格で背も小さく、見た目から優しそうな雰囲気がプンプンしてるが、坂本安吾はそれと逆でガタイがよく、寡黙な性格だ。あと、目つきが警察とは真逆のヤのつく職業に見える。
いや、名前逆じゃない?、と咲真はこの二人の顔と雰囲気と名前を聞いた時真っ先に思ったことだ。
このまるで対照的な二人は仲が良い。
「いや〜、ちょっと迷っちゃってねぇ」
「あー、やっぱり」
「で、俺がきても俺ですから戦力にはならない可能性が高いですよ」
「だろうな」
ここまで沈黙を貫いていた坂本が口を開いた。
「すみませんねぇ。方向音痴で」
咲真がいじけたように言うと坂本が少しおろおろした様子で、
「すまん。そんな傷付けるつもりはなくて、だな」
と言う。
それを見て笑う吉田。もうめちゃくちゃだ。
(あぁ、どうしよう?戻れるかな?)
「とりあえず、戻りましょうか」
「はい」「おう」
「ま、迷いますよねー」
「だな」
「中島さん探そうかぁ」
「ですね」
「お呼びしましたか?」
ぬっと現れた中島に咲真と吉田は
「「うわぁっ!!」」
と声を出して驚いたが坂本は声が出ないほど驚いたようで体だけがビクッとした。
「実は、その迷ってしまいまして。時間がよろしければ、案内していただきたいのですが」
「そうでしたか、もちろん、ご案内させていただきます」
「「「ありがとうございます」」」
中島の案内により無事戻ることができた三人は中島に改めてお礼を言い、別れた後、誰が部屋の扉を開けるかで揉めていた。
……………………なぜなら佐々木か水本あたりに怒られるに決まっている。
その結果、先輩命令には背けず咲真が扉を開けることになった。
「ただいま戻り、ましたー」
咲真は意を決して扉を開ける。
そこには仁王立ちをしている水本がいた。
「「「すみません。遅れました」」」
三人はすぐさま一列に並び頭を下げた。
その姿勢により水本班ため息を軽く一つつき、こう言った。
「まぁ、いい。迷ってたんだろ?んじゃ対策会議はじめるぞ」
「「「はい!」」」
* * *
会議は進む。
だがその裏でほくそ笑むものがいた。
もちろん。鶯だ。
(まったく、みんななぁんにも気づいてねぇんだから。それと警察少なすぎ。
まあ?showの成功確率が上がるんだからいいか)
水本の話の通り鶯は屋敷の中に忍び込んでいる。
さてさて最後に笑うのは警察か鶯か………
「ふひっ、雇われ科学者の出番ですよねぇ?ふひひひ」
はたまた、外野の邪魔者か……
who is it?
第八話読んでいただきありがとうございます!




