感情的な声
「それでは会議をはじめます。進行役は私、捜査三課の塚田が担当させていただきます」
目のくまをさらに濃くした塚田が説明する。
「あーと、捜査三課の責任者は、誰、なんだ?」
水本が言いにくそうに聞いたところ、塚田が口を開いた。
「少し、遅れて来ます」
「遅れる?」
水本が眉をひそめた。
「実は、三日前に窃盗…というか万引きがありまして、他の班もてんてこ舞いだったので向かったもので、それの、はい後始末をしています。
なので、あと数人はあと一時間ほどで来る、と思います」
「なるほどな、口を挟んで悪かった。それじゃあはじめてくれ」
「はい」
「まず、先ほど水本班と我々、捜査三課に同様の文章が書かれた紙が投げ入れられたことについて、です」
そう言って塚田はポリ袋に入った一枚の予告状を上へ掲げた。
「この予告状には、
今夜、色の輪が目当ての宝石と同じ色を冠する時刻に参る、と書かれており、おそらく、色の輪というのが時間に当てはめて十二色の色相環だと、考えております」
(しきそうかん?あれ?そんなのあったっけ?)
咲真は昔の記憶を引っ張り出すが、咲真は思い出せなかった。
「すみません…色相環って、なんでしたっけ?」
佐々木が口を開く。
「えっと、確か、中学校一年生で習うものなのですが、スマートフォンで“色の輪”か“色相環“と調べれば出てくるかと」
(………中学か、どうりで、知らないわけだ)
そんなことを考える咲真の隣で佐々木や、他の刑事はスマホを取り出し色相環について調べていた。
咲真も慌ててスマホを出そうとしたとき、佐々木が口を開く。
「あー。これですか!」
「そうです。
そして、目当ての宝石、はエメラルドですのでエメラルドは緑。そして、“冠する“というのと、一枚目の予告状の“深夜“というところから、緑が入っている午前一時から午前三時、の間に鶯は来るのではないかと、思いました」
塚田が説明をしている間、他の刑事達が調べ終わっていたため調べるタイミング………言い換えるとスマホを出すタイミングがわからなくなった咲真に佐々木がスマホをこっそり見せてくれていた。
「ほら、咲真くん。これだよ」
「ありがとうございます」
「いやー、私も忘れてたから、というか、咲真くんがスマホ出すタイミング逃したのも私のせいだし!」
咲真は色相環の画像を見たが、やはり、いまいちピンとこず、諦めて学ぶことにした。
「なるほどな。
筋は通ってる。とりあえず、俺だけでもいい。宝石の場所へ案内してくれないか?」
「わかりました〜。それでは上司が来るであろう一時間後にあなた方を案内させていただきます」
「わかった。んじゃあそれまで休憩でいいか?」
咲真はそういえば昼ごはん食べてないんだ、と意識をしてしまったため、とてもお腹が空いてきた。
「はい〜」
「捜査三課は食べたのか?」
「交代制なので各自で食べています」
「よし、それじゃあ悪いが捜査一課は休憩に入らせてもらう」
「了解です」
「塚田も寝ろよ」
塚田は乾いた笑いをするだけで返事はしなかった。
* * *
ここは捜査一課の待機室。
「うし!食べるかぁ」
「「「「「「「はい」」」」」」」
水本の呼びかけに応じて咲真達が返事をする。
そこからはわきあいあいと昼休憩が過ぎていく。
もうすぐあの会議から一時間が経とうとしたとき、ドアがノックされた。
部屋はすぐさま静かになり、全員、頭を切り替えていた。
「どうぞ」
「失礼しま〜す」
入って来たのはやはり、塚田だ。
「上司が来たのでお呼びに参りました」
「全員でもいいか?」
「はい。もちろん」
と、いうわけで水本班は先ほど会議をした捜査三課の部屋へ向かった。
* * *
同時刻、沢田邸を囲む森の中で一人の男が木の枝に座りながら飲料ゼリーを飲んでいるくたびれた白衣に下駄という一風変わった服を着た男がいた。
(ふひっ、依頼主からは好きに暴れていいって言われたんだけど、どう♪暴れてやろうかなぁ〜♪)
男は座っていた木の枝から飲料ゼリーを咥えたまま飛び降りたが、下駄だということを忘れそうなほど身軽に着地をした。
(やっぱりこっちは飽きないなぁ)
男は森の中へ消えていく。
その男は、身体中に歓喜の色を浮かべこの後に起こる惨状に思いを馳せていた。
* * *
「申し訳ありません。他の仕事の都合上遅れてしまいました。捜査三課、上野班の班長をさせていただいております。
上野博樹です」
そう言ってペコペコとする男はひょろりとした体型だった。
「いえいえ。お疲れでしょう。あ、私は捜査一課水本班の水本誠一です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。それでは早速、宝石の場所へ案内させていただきます」
そこから、屋敷の階段を降り、地下へ向かった。
「ここ地下なんてあるんですね。流石というべきかなんというか」
と咲真が呟くと、隣の佐々木がそれに反応した。
「そうだね〜」
他の面々もそんなことを言っているので話していても問題ないはずだ。
「ここの中です」
「こりゃ、また、立派な」
水本がまたもや素でぼやくのも無理はない。
そこには、一階分の高さを埋め尽くすようなデカい、金庫があった。
「この金庫破るつもりかよ、鶯ってやつは」
「そのようですね」
「まあ、安全っちゃ安全か。あー、上野さん。ご案内ありがとうございました。上野さんはこの後どうしますか?」
「私はもう少しこの現場を見ていこうかと」
「なるほど。では私はここに残らせていただいても?少しお話したいことが」
「水本さんも、でしたか。もちろん構いません。
それでは、他の方々は夜に備えて仮眠を取るなりしてください。塚田くんも、無理させてごめんね。寝てきて」
塚田に申し訳なさそうに言う上野。
「いえ、それではお言葉に甘えさせていただきます」
そう答える塚田の表情などから塚田が上野のことを慕っているのがわかる。
そして水本班の水本以外の人物は塚田とともに上へ戻った。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「はい。それでは失礼します」
吉田が答える。
なぜなら、吉田と坂本は水本班が作られたときから水本の部下をしているからだ。
そして、吉田が答えるのは、まあ、適材適所、と言うやつであろう。
「それじゃあ寝ようか〜」
吉田が号令し、咲真達は各々が眠りについた。
全員が寝たことを確認し、咲真はむくっと起き上がった。
そしてそのまま、廊下へ出た。
咲真は廊下に出て誰もいないことを確認し、スマホを取り出し電話をかけた。
相手はもちろん、絆音である。
「水本班は寝ています」
〈そうですか。それでは、少し早いですがあの部屋へ行ってもらってもいいですか?〉
「了解です」
咲真は一回で一生懸命覚えた道を辿り………少し逆方向へ行きかけたが、致し方あるまい。
そして、咲真は絆音のナビのおかげもありその部屋の前へ着いた。
〈それでは中に入ってくだ〉
「なにを、しているのかな?谷川咲真くん?」
咲真の耳に、絆音の機械越しの言葉ではなく、現実の、塚田の声が、聞こえた。
〈……………やはり、気づかれていましたか、〉
機械越しの絆音の呟きは咲真の耳には届かなかった。
「なぜ、ここに?」
「え〜、その質問、そっくりそのまま返すけど?」
声を震わせながら言う咲真に塚田は穏やかに、でも、確かに、少しの冷たさを含んだ声で聞く。
「それで、そのスマホは、誰と繋がっているのかな?」
(どうする?どうする?事情を説明する?いやでも、バレないように、って話だっただから津城さんが僕を見捨てる可能性も捨てきれない。どうしよう。どうし)
パニックになっている咲真の耳に届いたのは、しっかりとした、淡々とした絆音とは真逆の感情的な、声だった。
〈ちょっと!しっかり!こちとら他のプランもあるの!ちょっと失敗したくらいでパニクってるんじゃない!〉
月麦だ。
それを理解しただけで咲真はなぜかはわからないが、平静を取り戻した。
「塚田さん。ちょっと話してもいいですか?」
「まあ、はい」
「どうすれば良いですか?」
〈携帯を塚田さんに渡してください〉
「了解しました」
「塚田さん。電話の相手からお話があると」
そう言って咲真は携帯を塚田に渡した。
それをくまのある目を細め塚田は受け取った。
塚田は電話を受けとり、相手が誰かわかった瞬間、細めていた目をこれでもかと大きくした。
「は?!!?」
その後、話はすぐに終わり塚田は咲真に、携帯を返した。
そして、気まずい空気が流れた後、塚田が口を開く。
「その〜、疑ってごめんなさい」
「いえ!全然!怪しいことしてた自覚はありますし」
深々とお辞儀をした塚田に咲真は慌ててフォローを入れる。
「それじゃあ、忍び屋:lion入れる?」
「そう、ですね」
その後、咲真と塚田は部屋の中へ入り、その部屋の窓を開けた。
すると、その瞬間現代版忍者のような服を着た月麦、いや、忍び屋:lionが現れた。
「これが、忍び屋、」
「こんな格好してるんだ」
塚田は忍び屋がいることに驚き、咲真は月麦が現代版忍者格好をしていることの方に驚いていた。
そんなこんなで時は進みもうすぐ、午後十一時半。
もうすぐ予想予告時間まであと、一時間半を切る。
全員が気を引き締めていた、その時、森から盛大な、盛大な、爆発音が聞こえた。
第九話読んでいただきありがとうございます
五月九日(土) 六時三十分 編集いたしました。




