鶯嬢
「姉さん、全員おわった」
月麦はお面を少しずらしこう言った。
〈カメラで見てるんだからわかってるって。それで怪我は?〉
「なぁーし!」
〈よし。それじゃ、その人たち縄で縛って、その場を離れて〉
「わかってるって。グレーならぬ、クリーンな警察のご登場ってわけでしょ?」
〈そう。それに月麦明日も学校なんだから、早く寝ないと〉
「はいはい。それじゃ帰っ!」
月麦は何かを感じたのか、咄嗟に身をかがめその場を離れた。
月麦がさっきまで立っていた床には、ナイフが突き刺さっていた。
〈どうしたの?新手の敵?〉
「そう。ちょっと待って」
〈わかった。気をつけて〉
月麦は絆音の言葉には言葉を返さず、笑みを返した。
そして少しずらしていたお面を戻し神経を研ぎ澄ます。
一瞬、倉庫街を静寂が包むが、すぐにその静寂を切るようにナイフが現れた。
月麦はそれを後ろに飛んで回避したが着地してすぐ右に飛んだ。
右に飛ぶ前の床にはナイフが三本刺さっていた。
(なるほど。最初の一本は囮。そして避けるであろうところに三本を飛ばす。
少ししか気をつけていなかったとはいえ、最初のナイフが投げられるまで忍び屋:lionが敵に気付かなかった。
つまりは……手練れ)
すると、
「なんでなんでなんでなんでなんでなんで当たらないの」
という少々低めの暗い若い女の子の声が響いたが、その後に
「ちょームカつくんですけど!」
とっても明るい声が響いた。
(ん?テンション違いすぎるんだけど?声同じだし、敵意向けてきてんの今のところ周囲に一人しかいないし、同一人物だよね??)
その声の主は隠れてナイフを投擲するのが無駄だと感じたためか月麦の前に現れた。
その顔は、緑色のコウモリの装飾がついたベネチアンマスク(マスカレードマスク)で見えにくくなっているものの、髪は、肩ほどのツインテールで黒色から緑色のグラデーション。前髪にはゆるキャラのようなピンをつけている。
服は緑と黒のフリルのたくさんついた可愛いもの。厚底の靴……所謂地雷系ファッションと呼ばれるであろう服装に身を包んだ、大学生ぐらいであろう女の子だった。
「フード、猫のような狐の面、現代版忍者のような服、あなたが、忍び屋:lion。
…………………………狙ってはいたけどつっよ!当たらないのもわっかるわぁ!」
(あ、わかった。この人少し喋ったらテンション上がってくタイプなのか。
だから、最初いっちゃ悪いけどメンヘラっぽく暗くなって間が開いたのちそれからギャルみたいに明るくなったんだ)
月麦が冷静に分析している隙に女の子はナイフを構えていた。
「私は怪盗集団、彩の怪盗、怪盗名:鶯。
………………………部下とか仲間からは鶯嬢って呼ばれてんのよねー。そう呼ぶの特別に許してあげてもいーよ!!!」
そう言い、鶯は不敵に笑い、月麦に向かってナイフを投げた。
「ここで死ななければ、ね」
〈鶯、やっぱりきたね〉
「どういうこと?」
月麦はナイフを避けながら鶯に聞こえないように絆音に問いかけた。
絆音は月麦が問うたことにより、独り言が聞こえていたことに気づき謝った。
〈ごめんね。邪魔した〉
「いや、全然いいよ。それより彼女について教えて」
〈わかった。
彩は盗む宝石の色ごとに部隊あってそれぞれに幹部がいるの。そしてその幹部名は色の名前によって決められ、怪盗と名乗ることができるのはこの幹部のみ。
鶯色は緑色つまり、彼女は緑色の宝石を盗む部隊の幹部、ってことになるから、〉
「精霊樹の髪飾りを狙っているのは貴女ですね?鶯嬢?」
月麦は絆音の言葉を引き継ぎ、女だとバレないように声をできるだけ低くして鶯嬢に問いかけた。
「その通り。
………………え?待って!忍び屋:lionが喋ったんですけど〜!!アガるわぁ!ってかめっちゃ紳士なんですけど?!」
すると鶯はなぜか武器を収めた。
「私はもうこれ以上、戦うつもりはない。
…………………だ、か、ら虫のいい話だと思うんですけど、矛を収めてくれると嬉しいっていうか〜」
「戦意のないレディに手は出しませんよ」
余談であるが、鶯のテンションがこんなにもアガッているのには訳がある。
忍び屋:lionは基本的に口を開かない。開いたとしてその声を聞いた者は必ず口封じをされる。
………………………忍び屋:lionについて思い出すのも嫌なほどに。
そして、月麦は身長が少し高い方ということもあって忍び屋:lionの格好をすると男性に勘違いされることの方が多い。
そのため月麦は勘違いを利用して口を開くとして声を喋れる限界まで低くして喋ることを姉から口酸っぱく言われているのだ。
忍び屋:lionの正体が月麦だとバレないように、女子高生らしく月麦が生活、するために。
「なぜ、貴女がここにいらっしゃるのですか?僕はただ、この世に蔓延る悪をほんの少し、退治していただけなのですが……」
月麦は絆音の指示通りに喋る。
「私は、ここに情報屋:shrineの関係者、主に忍び屋:lionが出るかもしれないから張り込みしてろって、上に言われたから、ここにいる。
…………………よかったぁぁぁ!!三週間っ!無駄にならなくて!」
(あたしを探すために、不確かな場所で三週間も張り込みしてたの!?上もなんというか、無茶振りじゃない?)
「それで?なぜ僕を探していたのですか?」
「宝石の持ち主に送る前に、名乗ってもう情報がバレているのならば正々堂々、貴方達に言えと“上”に言われたから。
それでは、次は月夜が綺麗な晩にお会いいたしましょう」
そう言って鶯が立ち去ろうとした時だった。
「逃しませんよ。顔があまり見えなくても、貴女が美しいことはわかります。
そして僕は貴女のような美しいレディをみすみす逃すほど紳士ではないんですよ」
と月麦は一瞬で鶯に詰め寄り腰に手を回し、顔を近づけ、もう一つの手で鶯の手に触れた。
「あ、」
鶯の顔がみるみる赤くなっていく。
「逃げたいですか?」
と鶯の耳元で月麦が囁くともう声が出ないのか鶯は真っ赤な顔でコクコクと頷いた。
「そうですか。それは残念……キレイな月夜の現場で月に負けず劣らずキレイな貴女と会うことを楽しみにしておりますよ」
と言って月麦が手を離すと、
「は、はひ」
鶯はなんとも情けない声を出し、顔のみならず全身を赤くさせたまま煙玉を床に叩きつけ、煙が晴れた時には……………もちろん鶯の姿は消え失せていた。
一枚の紙を残して。
本当にその場を離れたことを確認したのち、月麦はその場にしゃがみ、盛大にため息をついた。
「姉さん、なんで口説けなんて言ったの?」
〈それは、まあ、後で説明するから、〉
「お面がなかったらあんなっ、あんな甘いセリフ言えないし、」
どうやら甘いセリフを言っていた月麦の方もお面の下は真っ赤だったようで、
「あっつ…」
とお面を少し浮かせ、その中に風を送るように手で仰いだ。
(差別とかじゃないけどさぁぁ!女なのに男のふりして口説くの、き、緊張したぁ、もうやりたくない……)
〈落ち着いたら適当なところで着替えておいて。律翔か白木さんに車で迎えに行かせるから〉
「りょーかぁい」
* * *
一方、鶯はというと、倉庫街を抜け、怪しまれないようにベネチアンマスク(マスカレードマスク)を外した状態で夜の街の隅にいた。
そして壁にもたれかかり、懐からタバコの箱を取り出し火をつけ、一服したのち心の中で叫んだ。
(なんで俺、女の姿だったとはいえ敵に惚れたんだよぉぉぉ!いや、ま、アレは仕方ない。うん!仕方ないんだ!
……………………次の現場で会える、よな?)
とか乙女チックな思考を邪魔するように鶯のスマホから着信音が鳴った。
鶯は表示されている名前を見て乙女らしからぬ大きな舌打ちをした。
「はーい、切るぞー」
〈いや、待て待て、切るなよ“鶯ちゃん”?〉
「俺はただ女装が趣味で好きな男。だから、
………………………嬢は許しているが次、ちゃんつったら警察に突き出すぞ。ゴラ」
乙女の姿はどこへやら。
〈おーこわいこわい。それで?忍び屋:lionは現れたのか?〉
「おー。
……………結果から言うとさっき会ってきた。つか喋ってきた。そんで口説かれた♡」
〈まてまてまてまて、は?、“口説かれた”の言い方惚れたのか!?お前が?!いや、とりあえずボスに報告してこい。話はまた聞く〉
「言質とったからな。しっかり聞けよ」
電話の相手は言質の“げ”あたりで電話を切っていた。
「アイツ切りやがった。よし、延々聞かせてやる。っと、その前に」
鶯はボスに電話をかけた。
「もしもし、ボスですか?俺です。鶯です」
〈怪盗名鶯か。種まきは終わったか?〉
「はい、ボス。完璧に」
〈なら、いい。日本で行う久しぶりの任務だ。ぬかるなよ〉
「御意!それでは失礼致します」
鶯は電話を切った。
そして
(忍び屋:lionが男だろうと女だろうとどっちでもいいが、女だったらうれしぃなぁ。
まあなんにせよ、次の盗みが俄然楽しくなってきた♪)
一枚の紙にはこう、書かれてある。
3月13日
深夜沢田邸にて
宝石の名の通り緑の名を冠する頃に 精霊樹の髪飾りをいただきに参ります。
鶯
第六話読んでいただきありがとうございます!次回からは沢田邸編が始まりますので読んでいただけると嬉しいです!
申し訳ありません。四月十八日十八時十六分頃編集いたしました。




