裏の顔
咲真が階段を十四階まで登ると絆音が言っていた通り白木がいた。
「よう!さ、谷川くん、朝ぶりだな」
「はい。どうも、白木さん」
「…それじゃあ、行くか」
「ありがとうございます」
そう咲真が返すと、案内してくれる白木。
無言。
気まずくなったのか白木が口を開いたり閉じたりを繰り返していたが、意を決したように言葉を発した。
「方向音痴なんだってな!」
と笑う白木に咲真は不満気に小さい声で言った。
「……あんまり大きい声で言わないでください。気にしてるんですから」
「そ、そうか、すまん」
「いえ」
またもや、無言。
今度は咲真が口を開いたり閉じたりを繰り返していた。それに白木が気づき、咲真に問いかけた。
「どうした?何か聞きたいことでもあったか?」
「えっと、その、津城さんってどんな方なんですか?」
白木は少し考え、こう言った。
「津城はな、顔にあんまり感情が出ないだろ?」
「まあ、はい」
「だが、もちろん感情がないわけではない。むしろ慣れてくれば、誰よりも感情の起伏がわかりやすい。
あいつは、一見冷徹に見えて、優しい、いいやつなんだ。本当に。
だから、谷川くん」
咲真が白木の言葉を待って歩きながら白木に顔を向けると、白木は子を見るような目に“誰か”を映し、言葉を述べた。
「あいつは、優しいし、人一倍人情深いからあいつの、津城の味方でいてあげてくれ。今回の協力の時だけでいいから」
「わ、かりました」
「よし!それじゃ津城達もう来てるからとりあえず話そうか」
そう言って白木はいつの間にかついていた提監の扉を開けた。そこには“達”という言葉の通り、絆音の他にもう一人いた。
その人は、絆音と真逆で大人びた雰囲気に不釣り合い気味なセーラー服に身を包んだまま黙っていた。
人の印象を見た目だけで判断するのは良くないが、とても大人で、聡明な人に見える。
「さっきぶりです。谷川さん」
まずは絆音が口を開いた。
もう一人は黙ったままだ。
「……津城さん。言うかどうか迷っていたんですが、できれば、名前で呼んでいただけませんか?苗字慣れてないんです」
「了解いたしました。では咲真さんとお呼びします」
「ありがとうございます。それでその、そちらの方は?」
咲真が話を降ると絆音が反応した。
「あぁ、この子は交久瀬月麦。苗字は違いますが、私の妹です」
絆音が“妹”と言った瞬間、月麦は立ち上がった。
「あたしは交久瀬月麦。年齢は君より下だが、先輩だからな。交久瀬さん。もしくは月麦さんと呼んでくれてもいい!」
と踏ん反り返って言う月麦。……前言撤回。やはり人を見た目で判断するのは良くない。大人で、聡明ではなく、子供で、未熟であった。
咲真は月麦の言ったことを数秒がかりで理解したのちわなわなと肩を振るわせこう言った。
「なんで、僕が高校生に、さん付けしなしなきゃならないんだ?僕は少し協力するだけだ。
先輩と言っても上司なわけではないだろ。
僕は警察官だ。
交久瀬、それか月麦って呼ぶからな。どっちがいい?」
「はあ?なんであたしが後輩に呼び捨てされなきゃいけないのさ!ってか初めて会ったんだから自己紹介ぐらいしなよ!」
ヒートアップしていく二人とは真逆で絆音と白木は静かな戦いをしていた。どちらが仲裁をするかの戦いだ。
絆音は白木に視線を送った。白木も負けじと視線を送っていたが、絆音の圧に負け、“やっぱり俺が負けるのか”と言葉を漏らし二人の間に割って入った。
「まあまあ、二人ともそれぐらいで…谷川くん、とりあえず自己紹介しよっか。月麦ちゃんも、ちゃんと自己紹介するんだ。
ほら、谷川くん、自己紹介」
「僕の名前は、谷川咲真。年は二十四」
「ほら、月麦も」
絆音に言われて月麦は口を尖らせて言った。
「あたしの名前はさっきも言ったが交久瀬月麦。年は十七。この春、高三」
「「よくできました」」
絆音は背伸……少しかかとを浮かせ月麦の頭を撫でた。
白木の手が肩をポンポンと叩いた。
月麦も咲真も褒められて嬉しいが、子供扱いされているので少し複雑な心境に至っていた。
「それじゃあとりあえず座って話そうか」
「えっと、月麦?って呼ぶけど、少しは詰めてくれない?」
「やぁだね。警察官なんでしょ?そっちに座ればいいじゃん」
明らかに拗ねている。これは面倒くさい。
(どこまで子供なんだこの見た目だけは大人びた高校生は)
「それじゃさ、谷川くんは俺の隣座ろうか」
「はい。了解しました」
「それで?咲真って呼ぶけど、何すんの?」
「…それを聞きに来たんだ。それで津城さん、僕は何をすれば?」
「そうですね、心配しなくてもそれほど危険はありません。通常の業務とあまり差し支えありませんから」
「と、言いますと?」
「おそらく捜査一課と捜査二課である豪邸を守ることになると思いますのでそれに参加してください。というか私が手を回して参加させます」
「はい?」
咲真は、結論から言わず最初から説明してほしいと切実に思った。
「彩と言う海外で暗躍している日本発祥の、芸術品を盗むためならば、どんな手をも使う怪盗集団がいるのです。
私は白木さんに頼まれて、その怪盗集団の動向を探っていたのですが、どうやら日本の宝石を狙い始めたようなのです」
「サイ、ですか。聞いたことありませんね」
「お?ダジャレか?」
ニヤニヤする白木に咲真は“んなわけないでしょう”と軽く流す。
「それでその宝石を持っているのが“ある豪邸”だと?」
「そうですね」
「何を狙ってるんですか?」
「まだ、確定ではありませんが、世界でも類を見ない輝きを見せるエメラルド。別名、精霊樹の髪飾り。
あなたにはそれを守るために私、いえ私達に協力、お願いいたします」
「了解致しました。謹んでお受けいたします」
* * *
絆音達はその後少し咲真と話し、連絡先を交換した。(月麦と交換するときは二人とも微妙な顔をしていた)
「話は以上で?」
「はい」
絆音の言葉を聞いた咲真は立ち上がりドアへと向かった。
「それでは、僕はこれで失礼します」
「おう!またな!」
「また連絡しますので」
「はい」
二人は咲真にあいさつをしているが、月麦が何か言うことはなかった。
ガチャン、という金属音が響いて咲真が離れたことを確認したのち絆音は口を開いた。
「月麦、なんで谷川くんにあんな当たりが強いの?」
「だって、先輩だし、」
「本当は?」
絆音と白木にじっと見つめられ沈黙が気まずくなったのか月麦は不満げに口を開いた。
「……………咲真が、まるで昔のあたしみたいで、イライラした」
「よく言えました。月麦、明日って学校早かったっけ?」
「いや、別に明日は普通に学校だから、早くないけど?」
「白木さんは?」
「俺も明日は、そんなに早くないぞ」
「白木、そこは明日もでしょ?どーせ、みゆに任せきりなんだから、」
ぐうの音も出ない白木であった。
「それじゃ、さっき話したやつじゃないやつ、片付けようか」
「はーい!」
「へいへい」
* * *
深夜二十四時、ある倉庫街の片隅に一人の人影があった。
「姉さん、配置についたよ。それで?今から壊滅させる組織はどんな悪いコトしたの?」
その人影とは、月麦だ。
だが、制服とは異なり、服装は黒を基調とした忍者服のような格好で、フードを被り、月麦の裏の顔の代名詞である猫のように見える黒狐の面を被っていた。
〈違法薬物の取引〉
月麦の耳のインカムから絆音の声が響いた。
「え〜また取引?」
〈見張りと護衛もいるから気をつけてね。それじゃ見て何人いるか、制圧に何分かかるか、ぞうえ〉
「増援はいるか、でしょ?そのセリフ、何回聞いたと思ってるの?わかってるから、ちょっと待って」
月麦は目当ての倉庫が見えるあたりへ移動した。
「姉さん、倉庫の周りに、確認できるだけで六人。中はわからないけど多分そんなにいないと思う」
〈六人か〉
「増援はいらない。すぐに見張りは片付けるから」
そのお面の下で月麦は、笑った。獲物を前にした肉食獣のように。
そこには、夕方、咲真と話していたときのような未熟さはない。
「それじゃ、行くね」
〈気をつけて〉
「もちろん」
* * *
見張りの六人の内の二人が扉の前で見張りをしているとその片方が、欠伸をしてから聞いた。
「こんなとこで見張りなんて、ほんとにいるんすかー?」
「黙れ。上からの命令だ。俺たちみたいな下っ端は命令聞くだけでいいんだよ」
二人は黙ったところで異変に気づいた。一分おきに来るはずの連絡が来ていない。
二人は周りを警戒する。
すると、彼らの前に黒狐が音もなく、現れた。
「何もんだ?」
黒狐は答えない。
先ほど、欠伸をした方が黒狐に鉄パイプ殴りかかった!
黒狐はヒョイっとかわし、肘で思いっきり背中を殴打した。
「ぐあっ!」
男は倒れた。
黒狐はもう片方に近づいていく。
「や、やめ、」
尻餅をついて後退りする男に黒狐は無慈悲にも蹴りを入れた。
* * *
「ふぅ、姉さん。見張り、終わったよ」
〈了解。中には入れる?〉
「全員ぶっ飛ばしていいのなら」
〈許可する〉
「了解」
月麦は思いっきり扉を開いた。
中には取引をしているやつと、それぞれに護衛が二人づついた。
(合わせて四人か)
「何ものだ!?」
この問いにも月麦は答えない。
「やれ!」
その掛け声と共に護衛の四人が懐から何か黒いものを取り出し月麦に向けた。
(銃!?)
静寂な倉庫街に銃声が響いたが、月麦は無傷だ。咄嗟に姿勢を低くしその護衛達に向かって走り出していた。
回し蹴りをし一人を巻き込むように飛ばした。
「グハッ」
「がっ」
(残り二人)
月麦は懐から球状のものを取り出し、残っていた二人に向かって指で打った。
「ガハッ」
「ぐあっ」
月麦は取引をしているやつ二人に近づいていった。
「ま、まて!お前、忍び屋lionだな?」
月麦の足が、止まった。
「雇い主は誰だ?私が!雇われている倍の値段を出そう!だから私の命だけは!」
「いいや!私を助けてくれるならその三倍は出す!」
「なんだと!じゃあその五倍だ」
ギャーギャー言う二人に対して月麦は、
(醜い争い)
と言う感情と怒りが込み上げてきていた。
(あたしが忍び屋lionをしているのはお金のためじゃない。姉さんの手伝いをしたかったからだ!)
月麦は怒りのまま一発づつ叩き込んだ。
第五話読んでいただきありがとうございます!




