わがまま
葵は咲真の様子が変なことに戸惑いながら答える。
「なんで、ここにって、私はお稲荷さ……情報屋shrine
さんに呼ばれて、ここに、」
咲真はばっと、絆音を見た。
絆音はすっと、目を逸らす。
その反応を見て、葵は何かを察したのか口を開く。
「えっと、あなたがお稲荷……情報屋shrine、さん?」
「はい。
津城絆音と申します」
「津城さん、
いえ、これはまた後で。
私がここに呼ばれた理由、と言うのは?」
「それは、その」
津城は咲真をちらちらと見ながら、もごもごと言い淀む。
「なんで、佐々木先輩を呼んだんですか?」
咲真に今一度問われたからか、絆音は歯切れが悪くし答える。
「私は、あなたはやはり、話すべきだと、おもったの
です」
(そもそも、死ぬということは先ほどの私の言葉で回避
できたはず、
それじゃあ次は根本から問題を解決しないと行けな
い)
「だからって!」
感情的な咲真の声を絆音は理性的に淡々と、だが芯のある声で遮る。
「では、咲真さん。
私があなたを止めることができたとして、
あなたは
明日から普通に働けますか?」
「それ、は」
「では逆に、今日はちゃんと働いていましたか?
今日はどうでした?佐々木葵さん」
絆音に問われ葵は考える時間もなくするすると、だがおそるおそる言葉を引き出す。
「今日、私のこと避けてた、よね?」
「……………………………………………はい。
気づかれて、いましたか」
咲真は観念したように笑う。
「そりゃあね、きづくよ。
咲真くんは私の冗談に冷たいけど、今日は冷たいって
よりかは、私と接触する機会を減らそうとしてた」
葵は誰が見ても作り笑いとわかる笑みを顔に貼り付けながら言う。
咲真はそんな葵を見て顔をこわばらせすぐさま頭を下げる。
「っ、!すみ、ません。
本当に、すみ、ませんでした」
「本当に、申し訳ないと思うのなら、
なんで、私を避けていたのか、言って」
葵は咲真に懇願するようにそう言った。
咲真は言えない。
「それは、」
言いたくない。
先輩と、今のまま関係でいたい。
先輩を傷つけたくない。
でも、これからいつも通り過ごせる確証がない。
色々な感情が咲真の頭の中で次々に湧いてくる。
その湧いたものが、思わず言葉として吐き出しそうになり、咲真は無理矢理それを押し込む。
結果的に咲真の口は動かな
「無理にとは言わない。
だって多分私に言いにくいことなんだよね?
でも私は、受け入れる」
咲真の無理に押し込んでいた色々な感情に
葵の“受け入れる“という言葉がストン、と綺麗に落ち、咲真はポロッと思わず言ってしまいそうになった。
“あなたの父親のせいで自分の人生が壊れた“という事実を。
「でも本当に、あなたを、傷つけてしまう」
咲真は泣きそうになりながら“断ってくれ“と念じる。
(これ以上、僕を説得させないで、僕は、僕は、)
絆音はそんな咲真の姿を見て、
(咲真さん、あなたはやはり……)
何かを思う。
「情報屋shrineさんから
“ご自身が傷ついても咲真さんとお話をしたいのならば
今から送る場所に来てください“
っていきなり連絡来たからね。
少しぐらいの、ね。
覚悟くらいはしてきたよ」
「もし、騙されてたらどうするつもりだったんです
か?!」
「その時はその時だねー。
私がなんで捜査一課にいるか忘れた?」
「そ、れは」
そう、
佐々木葵は少しタレ目で髪が長めのおとなしそうな女性に見えるが、
実は東京都のどこかの警察署の捜査一課での犯人逮捕率一位となった功績から警視庁捜査一課に配属されたという過去をもつ。
…………………つまり、何が言いたいかというと、月麦まではいかないがそれなりに動ける女性である、ということだ。
「…………私はさ、情報屋さんから連絡が来て、
咲真君がなんで私を今日避けていたのか、とか。
そういえば咲真君のこと何も知らないなぁ、とか。
色々話したいことができちゃったからさ、来た」
葵はそこで一区切りし、咲真に歩き、近づいていく。
そして距離が一メートルほどになったところで葵は咲真に目を合わせ、どこまでも優しい目で、顔で、
咲真にとって、あるいは、知った後の葵にとって残酷なお願いをする。
「咲真くん。お願い、これは私のわがまま。
私と話そう?
だからさ、いい加減私に吐き出してよ。大丈夫。
絶対に、私はあなたを責めたりしない」
「わか、りました」
葵の目と、顔を見て咲真は葵を信じることに、決めた。
決めて、しまった。
そんな二人を見て、絆音は静かにスマホを取り出し、誰かに何か、メッセージを送ったのち、二人に歩み寄る。
「ここじゃなんです。別の場所へ行きませんか?」
「確かに、それでどこへ行くんですか?」
葵が問いかえす。
「例えば、
まあとりあえず行きましょうか」
「「はい」」
咲真と葵は絆音についていく、辿り着いたのは、道路だった。
絆音はそこにある一台の車へ迷いなく向かいドアを開けた。
「白木さん、寝てないで起きてください」
そして倒した運転席で気持ちよさそうにぐーすか寝ている白木を容赦なく起こす。
「ぁ?津城?」
「はい、糸繰咲真さんと佐々木葵さんもいますよ」
「え?!」
白木がガバッと起き上がった。
「うわ〜、まじじゃん」
「連絡したはずなんですが?」
絆音が白木を白い目でみる。
白木は少し慌ててスマホを取り出し絆音からの連絡を見ると、
「うわ〜、まじじゃ〜ん」
先ほどと同じ言葉を、さらにおちゃらけて答えた。
「とりあえず、咲真さんと、佐々木……葵さん、乗ってか
らどこ行くか考えません?」
「やっぱり怪しい、、?」
はっ、と葵は口に手を当て、目が懐疑的になるが、そこは咲真がこの人は警官だと、言ってなんとか、説得させた。
そんなこんなで絆音は助手席へ。
咲真と葵は後部座席にそれぞれ収まった。
「んで、
わざわざ俺のとこ来たってことはどこかに連れてけ
ってか?」
「ごめいさーつー」
「面白くなさそうな棒読みやめれる?」
「とりあえず、咲真さん、佐々木葵さん、」
白木を完全スルーし、絆音は助手席から後ろの二人の方を見る。
「私の家か、警視庁ならどちらがいいですか?」
((なぜその二択……??))
いきなりの質問に咲真と葵の気持ちが重なった。
「おーい、二人困ってんぞー。
そんでナチュラルに俺無視すんなー」
白木が、咲真と葵に助け舟を出すが、ナチュラルに絆音に文句も言う。
「わ、私は別にどちらでも構いませんけど」
「僕も別に、どっちでも、」
「そんじゃこっから近い絆音の家にするぞ!
な〜んで、連れてくの俺なのに俺にはなんも聞かない
んだよ」
白木が警視庁に戻るのがよほどめんどくさいのか強引に絆音の家に向かおうと言う。
「二人が良いのならそうしますが」
「構いません」
「私もいいです」
「んじゃ決まりだなー。
そんじゃ行くぞ、全員シートベルト閉めてるよ
な?」
「はい」
「は、い」
「津城も返事しろー」
「隣を見ればいいでしょう?」
「暗くて見えねぇから聞いてるんだろ?」
「してますよ」
「それじゃあ出発すんぞ」
「「「はい」」」
白木は三人の返事を聞き車を発進させる。
少し走った時のこと、絆音が口を開く。
「そう言えば、佐々木葵さん、あなた私に何か聞きたいことがあるんですか?」
「え?!な、なんで、わか!」
「そんなにちらちら私のこと見てたらわかりますよ。
それに、
先ほどもまた後で聞くとかなんとか、言っていた
でしょう?」
「あぁ、すみません、、」
「いえ、それで聞きたいこととは?」
葵は少し下を向き、言いにくそうに、だが、知りたいと言う顔で聞く。
「津城さん、って情報屋shrineさん、なんですよ
ね?」
「はい」
「その、あの、」
もごもごと口をもつれさす葵だが、吹っ切れたようで勢いで聞く。
「ご年齢って、聞いても良いものですか?!」
「………………………別に、構いません、けど」
津城が少しそっぽを向いたのを白木は見餌に群がる魚のように見逃さず、チャンスとばかりに煽る。
「言わないのか?
あ、もしかして俺が言った方がいいやつか?」
白木の煽りを受け、絆音は口を開く。
「………二十七、です」
「「え?!」」
話半分に聞いていた咲真も声を上げて驚く。
「私の、一個上、?!」
「僕の、三つ上、?!」
「驚いたろう?」
白木は笑いながら絆音を冷やかす。
「これ以上何か言うなら、次の依頼ギリッギリまで粘り
ますけど?」
「それだけはやめてくださいお願いします」
冷たい絆音の声に流石にヤバいと思ったのかハンドルを持つ腕を少し震わせ、汗をダラダラ流しながら謝罪をする。
こんな今までのやりとりを見て咲真と葵は、今一度気持ちが重なる。
((この二人めちゃくちゃ仲良いな!))
* * *
「おーい、着いたぞー。
津城ー
咲真くーん、
えーと、佐々木さーん?
とりあえず津城は起きろよー?」
「おや、おはようございます。白木さん」
津城はまだ眠そうなしょぼしょぼした目をこすり、あくびをしながら起きる。
「おや、じゃねーんだよ。
人が運転してる横で気持ちよさそーに寝やがって」
「それを言うなら白木さんも寝てたでしょう?
今日は泊まっていきますよね?」
「そうに決まってるだろー?
もう運転は明日の俺に任せるから。
とりあえず、この佐々木さん起こして連れてってく
れ。
俺は咲真くん起こして行くから」
「わかりました」
早く寝たい、などとボヤきながら白木はシートベルトを外し車から降りて後部座席のドアを開ける。
「咲真くーん、津城の家着いたから起きようかー」
「は、い」
まだ半分夢の国の住人ではあるものの咲真は簡単に起こすことができた。
「ほら、降りてー、そうそうそう、んじゃ津城に着いて
いきなー」
「はーい……」
咲真はまだおぼつかない足取りで絆音の方へ向かう。
「津城ー、頼んだぞー」
「はい」
深夜、十二時ほど、夜になると寒さがすこしやってくる三月。
白木は、先ほどまで咲真が座っていたところに手を置き、
「さてさて、
この出会いが吉かはたまた凶か」
(いや、まあ。
少なくとも、今は大吉か)
「これが、続くことを願っては、いるんだがな、」
そう、言っていつもと違う、なんともいえない笑顔を白木は、浮かべた。




