半端者
絆音は咲真に向けて、二つ指を立てる。
「この世には、大きく分けて、二つ、
復讐の仕方
が存在します」
絆音は指を一本減らす。
「まず、一つめ、
その復讐相手に対して物理的に傷をつけること、
つまり、殺害などを指します」
「はい」
咲真は真剣な面持ちで絆音の話を聞いている。
「もう一つは、
マスコミや、SNSに情報を流し、
社会的に殺すこと、
を指します」
「物理的と、社会的、ですか」
咲真の顔は真剣そのものだ。
「まず、物理的に傷をつける方のメリットは、確実
に、その人物に傷をつけることができる点です。
そして、デメリットは罪に問われること、です。
それでは、社会的な方のメリットとデメリットは
咲真さん、わかりますか?」
急に話を振られた咲真は少々声を上擦らせて答える。
「えっと、!
物理的な方に合わせる、のなら、
メリット、は罪に問われない、ことで、
デメリットは、復讐したい人物の不特定多数の周り
の人を巻き込むこと、でしょうか?」
「お見事、正解です」
そう言いながら無表情でパンパンパンと手を打つ絆
音。
…………絆音には悪いが人形みたいで少し、不気味だ。
「ありがとう、ございます?」
「では、話は少し、いえ、結構逸れますが、ここで
一つ咲真さんに頼みごとがあります」
「はい?」
「あなたの抱えていること、まとまっていなくても構
いません。
どんなに時間がかかろうが、タイムリミットは朝礼
が始まるまで。
つまり、まだ、あと三十分は話せます」
「でも、僕もう結構話して、話すことなんて」
咲真は気まずそうに目を逸らしながら言葉を返す。
「あります。
心の奥底に必ず。
それをどうか一旦、吐き出してください。
私が吐き出せるように、問いも投げかけます。
そうすれば私が最後にする問いにも答えられるはず
です」
珍しく、絆音は熱意がこもった頼みごとをする。
(咲真くんあなたの思いを全部、全部、吐き出して。
そうしないと、多分あなたは一生このまま進めない)
「わ、かりました」
咲真はまだ、よく飲み込めてはいないものの承諾した。絆音の初めて見る熱意に押されたのだろう。
「じゃあその、質問をお願いしても、いいですか?」
「了解しました」
絆音は少し考えるそぶりをしていいのが思いついた、というように右上をチラと見てから咲真に質問をした。
「佐々木葵さんのこと、どう思ってるんですか?」
「え“?」
咲真の思考が、停止した。
咲真は今絶賛その人のことで悩んでいるのである。
どう返すべきかがわからない。
「すみません。言い方が悪かったです。
やさしいひと、なんですよね?
異性として見ていたりはするんですか?」
咲真の先ほどとは違うところの思考が止まり、舌をもたつかせながら答える。
「え?はい?
見てないですよ?なんで?」
「場の空気を和ませようと、思ったのですが、」
狙った結果ではなかったのか絆音の声はだんだん小さくなった。
「だからってなんで、色恋の話になったんですか?」
「………………月麦なら、こう言うかと思いまして。
私の周りにいる人で、社交的な人を探したところ、
おそらく、場を和ませる場合においては、月麦が適
任と」
絆音が言い訳っぽく答えた答えに咲真は納得する。
フリをする。
「あぁ〜、なるほど。
確かに、交久瀬さんならそう言いそうですね」
(多分、今の間的に交久瀬月麦じゃ、ないなぁ)
咲真は笑いながら自然に嘘をつく。
さも、“これが自分の本音“という風に、息をするように
演技する。
「………では、別の質問に行きますね。
咲真さん、
あなたはなぜ警察官になったのですか?」
咲真が“なんで今更“という顔で目を見張る。
絆音は咲真の演技を咲真自身の手で、壊させるために、咲真が自分の本音に気づくように、質問を投げる。
「そん、な、の、復讐のため、ですよ」
「本当に?ではなぜ今歯切れが悪いのですか?」
「これはっ!いきなり聞かれて、驚いたから、で、
なら!復讐以外っ!何が、あるって言うんです
か?!」
全てを見透かすような情報屋shrine目に咲真は狼狽する。
「それは、あなたが復讐をすることに対し、悩んでいたからですよ」
「はい?そんなわけ!」
絆音は勢いで咲真の言葉を無理やり遮った。
「咲真さん、あなたは逃げ出した後、
警察に保護されていますね?」
十数秒かの、葛藤と沈黙の後はい、と咲真が絆音に聞き取れるかどうかの小さな声で頷いた。
「だから、あなたは警察組織全体に復讐することを悩
んでいた。
でないと、私が“復讐相手を探しましょうか?“と持
ちかけた時に、あんなに即答で“いいんですか?“な
んて言いません。
本当に復讐心や憎悪に燃えている方であれば、
バカにされたと捉えてもおかしくないからです」
咲真は俯く。
「なる、ほど、
僕が、半端者だった、から、」
悔やむように言う咲真に絆音の眉がぴくりと動く。
「半端者、ですか。
それの何が悪いのですか?」
「え?」
咲真がおもてをあげる。
「ただ、優しいだけじゃありませんか。
それに、あなたが半端者であれば、私も半端者ですよ」
「、やさ、しい?」
咲真の目が丸くなる。
「僕が、?優しい?そんなわけ、ないじゃないですか」
信じられないことを聞いた様に咲真はふるふると首を振り、“そんなわけがない“と言い放つ。
本当は、何よりも欲しい言葉だというのに。
「だって!僕は復讐するために!」
咲真は今にも泣きそうな顔で絆音に訴える。
「人を傷つけるために!警察官になったんだ!
そんな僕が優しい?そんなわけがないでしょう?!」
咲真は激昂する。
絆音はどこまでも、冷静に咲真を分析する。
顔に纏った氷のような、だが、どこか暖かい目線で。
「それがあなたの抱えている心の奥底にあるものです。
あなたは、まだ、優しくありたいと、思っている。
でも、復讐、人を傷つけるために、警察官になった、
あなたは、
自分が人に優しくされる資格も、する資格もないと、
思っているのですか?」
「えぇ!だって、その通りでしょう?
人を傷つけるために、人を守るべき組織に入った僕
に、
そんな資格」
「あるに決まっているでしょう!」
絆音の氷が、少し、割れた。
「っ!?」
これまで聞いたことのない絆音の大声に咲真は吃驚する。
「ならば、あなたは、どうしようもない悪人がいて、
その悪人が目の前で今すぐ医者に見せなければいけ
ない状況ならば、どうしますか?」
絆音はさっきよりはボリュームを落としたがその声はいつもよりは遥かに大きく、感情的だ。
「そんなの罪を償わせる、ために助けますよ」
「それがたとえ、復讐相手だとしても?」
咲真は言葉に詰まる。
「……えぇ、一瞬、迷うと思いますが」
その言葉を聞き絆音が言葉を紡ごうとした瞬間、咲真の口が開く。
「でも、その場合、
僕は、生きることが地獄だと、知っています。
簡単に楽にするわけないじゃないですか」
それを、乾いた顔で笑いながら言った咲真。今度は絆音が言葉に詰まる。
「ほら?僕は優しくなんてないでしょう?
それとも、まだ、僕が優しいと思うんですか?」
「私は、それでも、あなたは優しいと思いますよ。
だって、あなたは佐々木恭介さんが復讐相手だと、分かったとき、あなたは佐々木葵さんのことを真っ先に信じた。
それに、私と別れ、仕事を終えたその足で佐々木恭介さんに会いに行くつもりでしょう?」
図星だった。
咲真は今日、会いに行こうと思っていた。
それで、佐々木恭介が自分が嵌めた後輩の子供だと、知ったら、娘と親しいと知ったら、どんな顔をするのか、それを見に。
それで、そのあとは、思いのままに。
「そしてその後、死ぬつもりですよね?」
「やっぱり、そこまで、バレてますか」
はは、と咲真は企みがばれた、悪ガキのように歯を見せて笑う、だが、悪ガキのような元気はない。
「しなせて、くださいよ。
僕は、こうするために、復讐するために今の今まで
生きてきたんですから」
咲真の顔から笑みが消え、絆音に懇願する声が震えている。
「死ぬと分かっている人を見過ごすほど、情報屋shrine
は甘くはないですよ」
絆音は目を伏せそれに、と続ける。
「私が復讐の方法を提案しても頑なにどうするか言お
うとしなかったことから、初めから死ぬつもりだっ
たんですよね?」
「えぇ」
その時の咲真の微笑みはびっくりするほど、美しく、綺麗なものだった。
「物理的と社会的のどちらかを選べず、結果的に自分
の命をかけて世間に任せる、こんな半端な計画しか
思いつかない僕は、
まさしく、半端者でしょう?」




