2話 授かる
俺は死にたくない。生きているときも漠然と考えていた死について。俺は確かにそれを体験してしまった。死というものは案外とあっけない。少なくとも車に轢かれて体が吹っ飛んだときは何が何だか理解できなかった。だか、意識のある今ははっきりと理解できる。あれは何度も経験するものではない。
「了解!そんじゃ転移するときに欲しい能力を一つ教えてくれ。転移特典ってやつさ。」
「いくつかの選択肢から選ぶんじゃないんですか?」
「おう!」
キリノは腰に手を当てて胸を張って答えた。心なしかドヤっと聞こえてきそうだ。しかしそうか、自分で選ぶのか。
俺はいくらか考える。漫画の能力、アニメの能力、必殺技で考えると燕返し、かめ〇め波。補助的な能力で言えば回復系、バフ系など。まず第一に俺は死にたくない。そう考えると回復系やバフ系なんかの後衛技は俺に合うように思える。しかし、それは前衛で戦ってくれる人がいて初めて成り立つものだ。そうそうそんな都合よく人を見つけれるとは思わない。
「なんだやけに迷っているな。」
「…そうですね。俺は基本的に死にたくないから前にでて戦いたくないんです。かといって後ろで補助的な行動に出ようと思っても前衛が必要である以上、前衛が見つかるまでは前に出て戦う必要があります。」
「なるほどな…。たしかに難しいな。けど要は自分は後ろで前の人の子を補助するってことだろ?ならそれを無理やり一つの能力で完結させたらいい。」
「そんなことできるんですか!?」
キリノはいくつか指を曲げ、うんと頷き出来ると答える。
「能力名は【運命共同体】。天使にリソースのすべてを捧げるせいでリソースを使った能力が使えないのが欠点だが、世界でも有数の力を持つ天使を前衛として置けて、自分の怪我は溢れるリソースが勝手に修復するから死ぬこともない。」
「何言ってるかわからない所もあったけど、そうとういいじゃないですか!…でもいいんですか?そんな能力を渡して。」
「この能力は確かに強いがいくつか欠点もある。人の子はリソースを使用した能力は使えないし、天使は人の子のリソースを常に使用するせいで精神汚染を受ける。」
「なるほど?でもそれならそんなことを受け入れてくれる天使がいるんですか?」
「一人いないこともない。」
そういうとキリノは足で床を叩き、声を上げた。
「『武器』はいるか。」
「なんですか?」
キリノが声を上げてすぐにその存在は姿を現した。それはキリノとは違い背が低く、しかし雰囲気はどこかキリノと似ている。明確に違う点はキリノの目には鋭い眼光があるのに対してその少女は逆に気だるげな眼をしている。
「こいつは私の部下。おもに武器の管理をしている天使だ。」
「えーとこの子がその?…あ、いや天使だから年上なのか。すみません。」
「?別にため口とか気にしないけど。疲れるだけだし。」
「とまぁ、こんな奴だから精神汚染なんかも気にしないだろう思って呼んだんだが…どうだ行ってくれるか?」
キリノは圧をかけるわけではなく、あくまで選択肢を武器と呼ばれる天使に委ねるように聞く。それに対して顎に人差し指を付けて武器の天使は少し考える。
「…まぁ、別にいいよ。ここにずっといても暇だし。」
「能力の中身的に結構苦労しそうですけ…苦労しそうだけど大丈夫?」
「別に苦労しないでしょ。」
へっと笑うように呟く。例えるなら社会をなめ腐ったようなガキだ。そう思うとそうとしか見えなくなってきたので俺は頭を振った。キリノは息をふっと吐くとこちらに顔を向きなおした。
「さて、決まりということでさっそく能力を授けるとするか。ちなみに人の子にはリソースが圧倒的に足りてないから結構消去するが大丈夫か?」
「よくわかんないですけど大丈夫ですよ。」
それが聞けて安心したと言わんばかりの笑顔を浮かべたキリノはゆっくりと目を閉じる。俺は能力を授けられと聞いてどんな感じで貰えるのか結構わくわくしていた。天啓のように与えられるのか、ゲームのようにウィンドウが出て与えられるのか、そんなことを考えていた。しかし、現実はだいぶ違っていた。
「能力【運命共同体】の作成を開始します。リソースの不足を確認。補正を10%減少させます。…成功しました。能力【運命共同体】の完成を確認。対象『武器の天使』を確認。リソースの不足を確認。補正を90%減少させます。…成功。リソースの不足を確認。必要最低限の情報以外の情報を消去します。……成功しました。リソースの不足を確認。個人情報の大半を消去します。……成功。リソースの不足を確認。身体能力の限定的消去をします。…成功。記憶の限定的消去を開始します。成功。『武器の天使』を対象に設定しました。」
無表情、無感情のような顔で機械的に言葉を発していたキリノは終わると同時にまたいつもの顔に戻った。武器の天使は少しムッとしていた。俺は突如頭からいろんなものがごっそりと抜け落ち、ゲッソリとくたばっていた。
聞いていないんですけど。
「すまなねえな。なにせどれをどれだけ消すかはあたしにも分からないんだ。しっかし、ここまで使うとはあたしも思ってなかったな。消したもん全部混ぜたら人ひとり出来そうだな。」
こちらを励ますように冗談めかしてキリノは言葉を選びながら伝えてくれる。まぁ、キリノもわざとではないし許すとしよう。異世界に行く以上、前の世界を覚えていても仕方ない割り切ろう!
「さっそく新たな生活頑張って!…と言いたいが基礎情報だけは決めて行くか。人の子と武器の名前、天使であることを隠す言い訳、能力を誤魔化す方法。くらいか?」
「…俺自分の名前忘れてんじゃん。」
「私にも名前付くんだ…」
再びゲッソリとなってしまう。よくよく考えると親の名前、出身地、友人や彼女のことまで忘れている。もう原型ないじゃん。ここまで忘れると逆に清々しくなり、死んだ時よりかは気分は沈まない。
それにしても名前か~。名づけようにも知識がないから事柄から名前が付けられない。ムラマサとかカッコ良くないか?…あれ?
「なんで村正のことは覚えてんだ?他にもエクスカリバーとかモーニングスターとか…。」
「それは武器の天使と共同体だからだな。武器の情報は必要だと判断したんだろ。」
なるほど。それなら話は早い。おれは武器の天使を見ながら適した名前を考える。できればかっこいいのをお願いと武器の天使も言ってくる。しかし、覚えているからと言って武器に詳しいわけではない。ただどこかで聞いたことがあった程度の知識だ。ない知識を絞って名前をひねり出す。
「じゃあ、俺はムラクモ。天使はアメノでいくかぁ~。」
「なんかその強引に決めたような決め方納得できないんだけど。」
すまないが俺には名づけの才能はないんだよ…。




