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繋がりの果て-堕ちた聖女と断たれた聖女-  作者: 寡猫


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3話:誰かがいたはずなのに

 村の住人ではない、知らない女性。

 本当に人なのか不安になってしまうほどに、たまに輪郭が振れている。


「あなたは誰ですか……?」


 私の問いに、女性は少しだけ目を細めると口を開く。


「私は……誰だろうね?」


 そう言うと、女性は村の広場へと視線を向ける。

 揺れる何かを見つめると、口元を歪めた。


 その歪んだ表情は、私の不安を駆り立てる。

 もしかしたら、そう思うと、つい聞いてしまう。


「あの広場の何かは、あなたの仕業ですか?」


 女性はこちらを向くと、腰に携えた剣へと手を置く。


「そうだね」


 そう答えると同時に、女性は剣――細剣を抜いた。


 私はとっさに女性に手を向ける。

 人に向かって使う時が来るとは思っていなかった。


 私の足元に闇が広がる。

 それが手元へと集まると、細い糸のように女性へと伸びていく。

 捕まえるための魔法。相手の動きを止めるための、ヴェストリアではありふれた魔法。


 けれど、黒い糸は女性に触れると同時にほどけていく。

 まるで、繋がる先がないみたいに。


「……あ」


 霧のように消えていく魔法は、女性の姿を遮ってしまう。


「私には効かないよ」


 その言葉が聞こえた時には、剣先は目の前にあった。


 ……何かが切れた気がした。


 ……。


 斬られたはずなのに、不思議と痛みはない。

 そう思った時、私は目を閉じていることに気づく。


 目を開けたら、剣先を突きつけられているかもしれない。

 だからと、このまま何もわからないままでも怖い。


 暗闇の中で、リゼリア様の姿が浮かぶ。

 少しずつ離れていくように、小さくなっていく。

 思わず目を開くと、女性の姿は見えない。


 そんなはずはないと、周囲を見渡しても、どこにも見当たらない。

 目の前まで迫っていた剣先は、私を斬っていたはずなのに、傷もない。

 だから、私が見たものは、偽物だったんじゃないかと疑ってしまう。


 まさかリゼリア様を狙っているのか、そう思った私は振り返る。

 でも、女性の姿はなく、変わらず座っているリゼリア様だけが見える。


「あの人は、何だったんだろう?」


 一瞬の安心感と、残る疑問。

 広場にある、揺れる何かが、唯一の手がかりだろう。

 女性の目的がなんだったのか、それを確かめるためにも、私は広場へと向かうことにする。


 再び、リゼリア様を背負い、広場へと近づく。

 一歩、また一歩と近づくたび、揺れる何かが人の形をしていると、わかってくる。

 その中に、一際、惹かれるものがあった。


「……お母さん?」


 ただ無意識に出た言葉だった。

 母の面影なんてない、ただ人としての輪郭だけを持つ、揺れる何かなのに、そう思ってしまった。

 だからなのか、手を伸ばした私は、不思議といつものように、母に接そうとしてしまう。


 手が触れようとしたと同時に、揺れが大きくなる。

 そして、少しずつ、ほどけていくように、光の粒となって散り始める。


「待って!」


 掴もうとした手を避けるように、広がり続ける光の粒。

 手の中には、なにもない。

 一気に込み上げてくる感情に、思わず泣きそうになった時だった。


 光の粒が一斉に散っていく。

 舞い上がり、一面、無数の光の粒の中で、私の考えが止まった。


「……私はなんで泣きそうになったの?」


 わからない。

 周りにあったはずの、揺れる何かもなくなっている。


 思い出せない。

 目の前にあったはずの、きっと大切だったであろう何かが、なんだったのか。


 それでも、心の奥底に重く、のしかかるものだけが確かにある。

 悲しいと言う感情はあるのに、その理由が、わからない。


「私は何を失ったの?」


 この村で生まれ、育ち、生活してきたことを、しっかりと覚えている。

 リゼリア様と過ごしてきたことも、記憶にある。

 それなのに、何かが抜け落ちたように、空白の何かが存在している。


 私はリゼリア様と、ふたりで生きてきたわけじゃない。

 きっと誰かいたとはずなのに、本当にいたのかがわからない。


「家に行けば、何かわかるのかな……」


 今まで過ごしてきた場所なら、何かわかるかもしれない。

 そう思った私は、リゼリア様を連れて、家に向かうことにした。

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