娘と使用人
16になった。
床まで金の刺繍が丁寧にされた赤色の婚礼衣装。そこには龍、鳳凰や牡丹、が彩られている。紅蓋頭を被り、優雅に一周回ってみせる。ふわりと回る様子はさながら百合の花。周りの大人はごくりと唾を飲み込んだ。娘は胸の前で拳をもう一つの手で包む。
旦那様は使用人に耳打ちする。ぼそっと低い声で。
「証拠となるものをもってきなさい」
「はい……」
使用人が手を差し出す、娘はその手を取り、龍神の住処へ一歩踏み出した。共に登っていく。横並びで。しゃらんしゃらんと心地の良い服が左右に揺れる。
使用人が立ち止まり、娘は半歩先へ進む。
使用人が言った。
「兄様、やっぱりやめませんか」
娘は答える。
「やはり僕らは双子だ。誰も気づかなかった」
「わたし」
ひらりと布をつまみ上げ娘は振り返る。顔にかかる布が宙を舞い、奥にある目が怪しく光る。
「僕は美しいだろうか」
「兄様」
「フーマオ、せめて兄として守らせてはくれないだろうか、お前には生きててほしい」
「それはわたしも、同じです!!!」
くしゃっと顔にシワが寄る。
「兄として少しは格好つけさせてほしいんだ、いままで何もできなくて本当にすまなかった。」
ここを出て、自由になるんだ、とフーマオの頭にポンッと手を置く。幼い頃の16年は大きい。だけどまだやり直せる。この村を出て、お前を1番に大切にしてくれる人と幸せになるんだ。お前は幸せになるべき人間だ。と。
やだ、と泣いても、できない、と泣いても、兄はずっと微笑んでいた。泣いているようにも見えた表情でわたしだけを瞳に宿して。
いかせまいと掴んだ腕を兄は指を一本一本はがしてしまう。額をとんっとツボを突かれる。足の力が抜けてふらふらと、しゃがみ込んだ。そして、額にそっと唇が触れた。愛の言葉を囁いて。
子どもみたいに泣き喚き縋り付く。いかないで、わたしもいく…連れてって!!!兄はその言葉に首を横に振った。布を被り裾を靡かせながら遠ざかっていく。
遠くに行ってしまう兄の背中を見続けることしかできなかった。兄は最後にもう一度振り返り、笑った。
その時、初めてわたしは生まれてこないほうがよかったのかもしれないと思った。




