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どうやら、ホラー映画のモブに転生したらしい  作者: 御仕舞
第一章 何がKに起こったか

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9/20

【霧の館の殺人鬼】


 まもなく上映が始まります。

お席にお着きください。

携帯電話はマナーモードに設定、または電源をお切りください。

上映中はお静かにお願い致します。



chapter . 1



 大学3年の強子は、映画研究会に所属している。

だが、強子が風邪を引き寝込んだ1年前のあの日、他のサークルメンバー6人がキャンプに行ったきり、帰ってこなくなった。

マスコミもsnsでも騒がれたが何の進展もなく、迷宮入りしかけている。

強子は友人たちと一緒に、騒ぎが落ち着いた今、金光たちが消えたキャンプ場に調査に向かうことにした。





chapter . 2



 キャンプ場への道は、車がやっと通れるほどの狭い道で、舗装もところどころ剥げ落ちている。

友人たちは強子ほど調査に思い入れがないため、各々はしゃいで、その様子に強子は小さく息を吐いた。


 駐車場に着くと、ほとんど車はなかった。

シーズンオフということもあるが、やはり事件の影響もあるだろう。

管理小屋は閉まっていて、休憩中の札がかかっていた。

管理人とも話せないとなると、調査は難しくなる。


 キャンプ場の入口からは湖が見渡せるはずだった。

だが、今日は霧がかかっていて視界が悪い。

湖の青色は乳白色の靄に包まれ、不気味なほど静かだった。


 恐怖心が湧き上がる一方で、どうしても金光たちのことが頭から離れない。

警察の捜索でも何も見つからなかったのに、素人の私に何ができるというのだろう。

それでも、ここで引き返したら一生後悔する気がした。




chapter . 3



 あんな事件があったにも関わらず、キャンプ場にはチラホラと利用者がいた。

人影を見て少し安堵する。


 霧が少し晴れてきた。

前方に湖面が見える。

その反射光の中に何か違和感があった。

目を凝らすと、水面近くに漂うものがある。

近づいてみると、それは使い古されたスマートフォンだった。


 水辺に膝をつき、慎重に拾い上げる。

画面は割れているが、背面には見覚えのあるステッカーが貼られていた。

『映画☆研究会』

紛れもなく金光たちのスマホだった。






chapter . 4




 湖畔にテントを設営し、夜が訪れる。

ちょっとした肝試し旅行のような気持ちの友人たちは、怪談話で盛り上がっているようだった。

その様子に苛立ちを感じながらも強子は、一人テントで眠りについた。


 ふと目を覚ます。

テントの中には強子一人で、まだ怪談話をしてるのかと呆れながら、テントの外に出る。

そこで違和感に気づく。


 霧が濃くなっている。鼻孔を突き刺す血の匂い。

振り返ると、複数の人影が倒れているのが見えた。

懐中電灯を向けると、それが奈々美と由香里であることがわかる。

二人とも地面にうつ伏せになり、ぴくりとも動かない。


 叫び声が喉まで上がったが、すぐに飲み込む。

気配がしたのだ。

耳を澄ませると、金属が擦れる低い音が霧の向こうから響いてくる。

近くの茂みに身を隠しながら様子を窺うと、男がやってきた。

背が高く、黒っぽい服に身を包み、片手には何か光るものを持っている。


 鉈だ。





chapter . 5




 茂みから飛び出した強子は全力で走り始めた。

背後で金属の引き裂かれる音が聞こえ、男が立ち上がり、追いかけてくる気配を感じた。


 管理小屋なら電話がある!

濃霧の中で方向感覚を失いかけたが、建物を見つけ、ドアノブに手をかけた時、凍りつくような違和感が走った。

鍵が掛かっていない。

管理人が不在なら施錠されているはずなのに。


 思い切って強子が扉を開けると、室内は鮮血の海。

壁際には無残な姿の老人が横たわり、頭部から大量の出血をしている。

強子たちが来る前から殺されていたのだ。

防犯カメラ越しに、殺人鬼が近づいてくるのが見えたので、強子は再び駆け出した。





chapter . 6




 霧が濃くて前が見えないため、強子はがむしゃらに走るしかなかった。

時折霧のどこからか断末魔の悲鳴が聞こえ、それが友人の悲鳴なのか、それともチラホラいた別のキャンプ利用者たちのなのか。


 強子は泣きながら、恐怖に喘ぎながら、日中見た湖に出ていた。

そのまま湖の周りを走っていると、突然廃墟が現れる。

崩れたレンガ造りの壁と、蔦に覆われた窓枠。

屋根は半分以上崩れ落ちていたが、骨組みだけは残っていた。


 強子は、その屋敷に見覚えがあった。





chapter . 7





 映画研究会の部室で見た、金光の自主製作短編映画【霧の館の殺人鬼】。

映画好きである金光は、特に白黒映画のファンで、自分で白黒の短編映画を作成するまでの熱の上げようだった。


 1960年代を舞台に、殺人鬼が人々を屋敷に呼び込み、次々と殺していく。

その後も、霧は未来と過去を繋げ、『殺人鬼はお前のところにも…』というありきたりなオチの映画だった。

映画好きを標榜している割にひねりもなく、単純なストーリーで、金光なりにこだわりはあっただろうが、強子は駄作だと断言した。

それに対して、金光はいつもの笑顔を浮かべていたが…。


 舞台となった朽ち果てた洋館が、まさに目の前に立っていた。


 残念ながら強子に考える時間は与えられていない。

強子が屋敷の中に入り、懐中電灯を向けると、そこには円形の模様、複雑な魔法陣が描かれていた。

中央には黒い木製の棺があり、蓋がわずかに開いている。

棺の傍らには古びたノートがあり、強子は震える手でページを開いた。


「(文字が滲んで見えない)年●月15日


ついに完成した。この儀式こそが、時空を超えて愛する者を呼び戻す方法。

失った彼女を、甦らせることができる。贄となる人間たちがやってきた。運命を感じる。今度こそ成功させよう」


「失敗」

「失敗」

「失敗」「失敗」「失敗」「失敗」「失敗」「失敗」「失敗」「失敗」「失敗」「失敗」「失敗」「失敗」…


 強子は愕然とした。

これは単なる失踪事件ではなく、儀式による殺人と蘇生魔術だった。


 窓の外で轟音が鳴り響いた。

棺の傍らに座り込み、強子は打ちひしがれた。

金光たちを身勝手にも贄にした儀式は失敗したのだ。

そう考えた瞬間湧き上がってきたのは激しい怒りと憎悪であった。





chapter 8





 一矢報いたい。

強子は憎しみに燃えながらも、怒りに我を忘れないよう、頭を必死に回転させた。


 そして強子は思いついたように棺の中を覗き込む。 

細く折れた大腿骨に、砕けた小さな鎖骨。

これらは明らかに女性の遺骨だった。

そして驚くべきことに、棺は人ひとりの遺体を入れたにしてはあまりにも軽かった。


 強子は慎重に棺を担いで廃墟の裏手へと回った。

霧の中、石畳がわずかに残る小道を進むと、そこには数本の十字架と簡素な石碑が並ぶ小さな墓地があった。


 一番新しそうな墓標には、かすかに読める文字が刻まれていた。


『愛しい妻、あやねの眠る場所』


 強子は深く息を吐き、棺を墓穴の前に置いた。

墓地の一隅、まだ新しい土が盛られた一角に、すでに人が入れるほどの穴が掘られていた。


 強子は躊躇わなかった。

棺を慎重に穴の中央へ置く。


 その時、突然強烈な霧が渦巻いた。

視界が白く染まる中、かすかに聞こえる女の声。


『…きて…ここ…』


 強子は震える手で土を掬い上げ、棺の上へとかけていった。

少しずつ穴が塞がれていく。

最後の土を放り投げた瞬間、霧の中から轟音が響いた。

廃墟の方向から悲鳴と衝突音。

強子は自分の車へと向かうために足早に墓地をあとにした。


「ゆっくりおやすみなさい」

『…ありがとう』


 昨日までキャンプ場を覆っていた霧が嘘のように晴れ、澄み渡る湖面が黄金色に輝いている。

強子の目には涙が浮かんでいたが、それは悲しみの涙ではなかった。

長い悪夢から醒めた安堵に近いものだった。


 車のエンジンをかけると、バックミラーに映った廃墟は消えていき、全てが悪夢のように消え失せた。

後に残ったのは、感傷とやるせなさだった。

強子は結局誰をも取り返すことはできなかった。


 国道に出ると、普段は賑わう観光バスが湖岸道路を走っている。

季節が変わるころには、何も知らずに訪れる人々で再び賑わうことだろう。


 アクセルを踏み込むと、強子はスマホを取り出した。

画面には割れた「映画☆研究会」のステッカー。

彼女はそれをそっとポケットに戻した。


「さようなら、みんな」


 最後に呟いた言葉は、霧とともに消えたキャンプ場の記憶と共に、彼女の胸の奥深くに沈んでいった。


 






・エンドロール後、観客たちのざわめきと共に





 廃墟へと戻った男は、魔法陣の真ん中に置かれた、新品同様の棺に入った遺骨を見つめ、静かに微笑む。

そのとき、夜の闇を裂くように、複数の気配と話し声が近づいてきた。

迷い込んだ贄がやってきたのだ。


「大丈夫だ、すぐに元に戻してやる。俺が絶対に絢音を守るって約束しただろ?」






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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。文章からほんのりとした静かな怖さは伝わってきました。これからも楽しみにしています。 そしてこのタイミングで星5をつけさせていただきました。 引き続き応援します。
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