7 . 物語はいつだってハッピーエンドで終わる
棺の中で繰り返される詩の朗読と何者かの叫び声と棺をひっかくような音を…耳に入れても、頭に入れないように…無言で私たちは棺を二人で何とか運び、そして…
気づくと私たちは湖畔に佇んでいた。
霧は晴れ、茜色の夕焼けがキャンプ場を照らしている。
「終わった…?」
膝から力が抜け、その場にへたり込む。
金光先輩が驚愕の表情で周囲を見回した。
「旧管理棟は…!?」
振り返るとそこには廃墟は無く、ただ背の低い藪が広がるばかりだった。
まるで最初から何も無かったかのように。
「ない…?」
金光先輩が藪を見つめて呟く。
廃墟は跡形もなく、ただ夕暮れの匂いが漂うばかり。
「何だったんだ、あれは」
「絢音!」
突然の声に振り向く。
佐藤先輩が全力で駆けてくるのが見えた。
「よかった!心配してたんだから!」
私の肩をぎゅっと抱き寄せる佐藤先輩の体温が温かい。
佐藤先輩は金光先輩を睨んだ。
「薪探しに行ったっきり何時間も戻らないなんて!絢音をどこに連れ回してたわけ!?」
金光先輩は肩をすくめ、苦笑いを浮かべる。
「報告はあとでな」
周りに他のメンバーも集まっていた。
高森先輩は呆れ顔で煙草を燻らせ、山下先輩は心配そうに何度も携帯を見ている。
「おいおい無断で長距離行軍か?」
高森先輩が皮肉っぽく言い放つ。
「心配させんな」
「ごめんなさい…」
私が謝ると金光先輩が割って入った。
「悪いな。いろいろ準備させちまって。俺が絢音を連れ回したから、こんな時間になっちまった」
金光先輩のフォローに私は胸が熱くなる。
皆の顔は疲れながらも安堵の色を帯びていた。
「美咲も心配させちゃってごめん」
目を潤ませながら、私に縋り付く美咲の頭を撫でる。
日常に戻ったんだ!
「ほんとだよ…!」
美咲の声が震えた。
私にしがみつく小さな手が小刻みに震えている。
「スマホが圏外になっちゃって連絡も取れないし…」
「ごめんね」
私は優しく美咲の髪を撫でた。
「金光先輩が助けてくれたんだ」
「ほう?」
山下先輩が鋭い目を向ける。
「金光が大活躍か」
全員が興味の入り混じった視線で二人を見つめている。
「絢音ちゃんがどうしてそんなにボロボロなのか教えてくれよ」
確かに私の服は泥だらけで破れ、頬には擦り傷が残っていた。
金光先輩の服も同様だ。
「金光先輩と一緒にちょっと迷子になっちゃって」
苦しい言い訳だったが、皆苦笑し合いながら、
「まあいいさ、無事なら」
「お腹すいたな、さっさと食べよう」
「もうペコペコよ〜」
疲れているはずの金光先輩も大きな声を張り上げて、
「よし!バーベキューだ!」
「ろくに準備もしてない迷子が仕切るなよな」
「絢音ちゃんと金光が遅れたおかげで最高の準備ができたぜ!」
「ほら」
佐藤先輩が伸ばした手を取ると温もりが伝わってくる。
「シャワー浴びてきな。泥まみれで気持ち悪いでしょ」
「ありがとうございます」
風が湖畔を撫でていく。
霧は完全に晴れ上がり、キャンプ場には笑い声が響いた。
→「金光先輩が助けてくれたんだ」K end へ
「迷子になっちゃって」2章へ




