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どうやら、ホラー映画のモブに転生したらしい  作者: 御仕舞
第一章 何がKに起こったか

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6 . 呪われた儀式


 息が詰まった。

先輩がいなかったら、恐怖で泣き崩れて、立ち上がれなかったに違いない。

飛びつくように先輩に抱きつく。



「大丈夫、動物の骨だ」



 金光先輩はコアラのように抱きついてきた私を安心させるために、わざとらしいほど明るい声でそう言って、優しく私の頭を撫でた。



「ずずずz頭蓋骨」

「猿やゴリラの骨だ。きっと猟奇趣味の芸術家が住んでいたんだな。あれは狂気に陥った故の芸術作品だ」

「…違うんです」



 気付くのが遅すぎた。

ここが映画の中だから作り物のように感じて、先輩も登場人物の一人に過ぎないって思い込んでた。

でも、映画の中だとしても、今現在私たちが生きていることは本当だ。

私の精神の恒常性を保とうとした結果につき合わされて、先輩をこんなところにまで連れてきてしまった。

先輩はここがどれほど危険かもわかってないのに!



「ごめんなさい、先輩。芸術家なんかじゃない、ここには殺人鬼がいるんです。そいつは過去に自分を裏切り、別の男と逃げた元妻を甦らせたかったんです。元妻を愛していたからこそ、裏切りが許せず、間男だけを殺すつもりが、間違えて一緒に殺してしまった。元妻を甦らせるための黒魔術に手を出し、多くの犠牲者を出したのに、どれだけやっても元妻は甦らない」

「絢音…?」

「先輩…やっぱり私できない…どうしよう、私のせいで皆死んじゃう…」

「落ち着け、絢音」



 金光先輩は戸惑いを隠せない様子で私の背中をゆっくり撫でる。

その指が微かに震えているのを私は知っていた。

先輩だって怖いはずなのに、それを表に出すこともせず、私を心配させまいと慰めてくれる。

人間の出来が違いすぎる。


だからこそ、私だって、私だって!

できることをやらなきゃ!



「…そうだ、元奥さんの骨」



 私は辺りを見渡し、魔法陣中央の朽ち果てた棺に釘付けになった。

映画の中で、強子先輩はどうやって生き残ったのか。



「棺!」



 金光先輩が訝しげに首を傾げる。



「殺人鬼の元奥さんの骨が入ってるんです!」



 なぜ興奮しているのか、理由もわかっていない先輩を他所に、安全地帯の先輩の腕の中から出て、無我夢中に走る。

たった数十歩の距離が遠くに感じられる。

靴底が砕けた煉瓦を踏み鳴らす。

戸惑った金光先輩に腕を掴まれる。



「ちょっと待て!急に走ると危な…」



 その時床下から乾いた音が響いた。

まるで巨大な歯が軋むような音。

私も金光先輩も凍りついたように動きを止める。


 カツン…カツン…


 硬い何かが床を打つ音。

足音ではない。

まるで何かを杖がわりにしているような、そんな…。

霧がさらに濃さを増し、建物の梁がギシギシと悲鳴を上げる。

音は徐々に近づいてきていた。



「…どうしよう」



 突如として、霧のヴェールを裂いて青白い影が浮かび上がった。

黒いコートを羽織った男。

右手には錆びた鉈。

左手には血塗れの何か。

脳が認識を拒否している。



「下がれ!」



 金光先輩は私を庇いながら後退する。

そんな先輩の勇姿に後押しされるように、恐怖を押し殺す。

そうだ、映画ではどうしてたか。

脳内の映像を高速再生する。


『ゆっくりおやすみなさい』


 映画終盤、強子先輩が元妻の骨を棺に入れたまま墓標に戻すシーン。

それによって世界の断層は修復され、霧は晴れた。



「そうだ!蓋!蓋を閉じなきゃ!棺の蓋を!」



 叫びながら朽ちた棺の蓋に飛びつく。

おっも!

鉄枠が腐食していて簡単に動かない。



「貸せ!」



 金光先輩が代わって蓋に手をかけた。

霧の中の影がゆっくりと接近する。



「何だっけ何だっけ…!」



 映画の場面が蘇る。

殺人鬼は、生前に日記帳に書いていた甦りの呪文を完成させるつもりでいた。

私はポケットからスマホを取り出し、録音アプリを開く。

そのまま、棺から先輩の手を離し、スマホを渡す。



「持ってて!」



 戸惑いながらも、固まる先輩の手にスマホを押し付け、私は、ご丁寧にも魔法陣の近くにあった机の上の日記帳を開く。

目的は最後のページ!



「『汝の愛こそ我が罪なり!』」



 震える涙交じりの情けない声。

だけどその台詞を口に出した途端、霧が猛烈に渦を巻き始めた。

条件は揃っている、死者と見知らぬ生贄たち。

殺人鬼の影が激しく揺らぎ、口元がカタカタと音を立てる。



「『夜ごとに亡骸を抱きしめる』」



 言葉が進むたびに魔法陣の光が暴走し、床の血文字が蒸発するように消えていく。



「『永久に共にありと誓い』」



 カァァァン!!


 耳を劈くような金属音と共に殺人鬼が輪郭を取り戻してきていた。

青白い肌。

割れた瞳孔。

血まみれのコートを纏った男の姿。


 私は最後の一節を噛み殺す。

背後で咆哮が響いた。

床板が粉砕される音。

だが魔法陣の反応は衰えない。

殺人鬼の手が届く寸前、棺の横を通り過ぎる瞬間に最後の言葉を叫んだ。



「『死すらも我らを阻みはしまい!』」



 一瞬の静寂。

霧が逆流するように収束し、屋敷全体が爆発的な光に包まれた。


 私は先輩の手からスマホを奪い取り、棺の中に放り込む。

肉体を取り戻した殺人鬼が望むのは、同じく肉体を取り戻した奥さんだろうからだ。

殺人鬼が何かを叫びながら、その後を追うよう棺に吸い込まれていく。


 ウオーーーッ!


 先輩と一緒に共に全体重を乗せて、棺の蓋を閉める。

同時に魔法陣の光が乱反射し、床の血文字が赤黒く脈動する。

そのまま、光は棺の中に収束するように消えていった。








【日記帳を渡す】(bad end 2∶閉じられた世界で)

→【スマホを渡す】



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