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網に乗せられた肉がジュウジュウと音を立て、香ばしい匂いが立ち上る。
佐藤先輩がトングで器用に肉をひっくり返し、
「金光くん!そこの野菜も焼いちゃって!」
と指示を飛ばす。
金光先輩は「おう!」と返事しながら野菜籠を持ち上げた時だった。
「それで?本当はどうなんだよ、金光」
高森先輩が突然、金光先輩の肩に手を置いた。
「うまくいったのか?」
一瞬の沈黙。
火だけがパチッと大きく火花を散らした。
「お、おい!」
慌てて金光先輩が野菜籠を取り落としそうになり、山下先輩がすかさずキャッチする。
「俺たちが気を利かせて、ふたりっきりにしてやったおかげだろ?」
「高森ったらすぐそういう方向に持ってくんだから。…でも気にはなるわねぇ」
「いくらヘタレとはいえ、さすがに告白はしただろ」
三者三様につめられ、金光先輩の頬が夕焼けと同じ色に染まる。
思わず目を逸らした先で私とバッチリ目が合ってしまい、すぐにまた逸らされる。
心臓が脈打ち始める。
キャンプ場で起こったあれこれを思い出す。
霧の中を走ったときの汗と寒さ、先輩にしがみついた時の体温と安心できる香り、そして守ると言ってくれた頼もしく低く掠れた声。
「おいおい、照れるなよ!俺たちがどれだけ協力してやったと思ってんだ!」
「恩返しの報告ぐらい聞かせろ」
高森先輩と山下先輩の囃し立てる声に、金光先輩は顔を真っ赤にしながら野菜を投げ込むように並べた。
「そういうんじゃない」
佐藤先輩が意味深な笑みを浮かべる。
「ふ~ん、でもずいぶん長い時間だったわよねえ。さしずめ、霧の中で彷徨う可憐な姫を勇猛果敢に救出する王子様といったところかしら」
「違います!!」
思ったよりも大きい声が出て、自分でもびっくりする。
先輩たちや美咲も手を止め、こちらを見ている。
私は、異様な羞恥に襲われ、全身から滴るように冷や汗が垂れる。
「私は姫なんかじゃなくって…だって、金光先輩は強子先輩と付き合ってるじゃないですか!?」
場には沈黙が落ち、佐藤先輩が箸を止めて片眉を上げる。
「うーん、ん?否定するの姫の部分?」
高森先輩が金光先輩の肩を小突いた指をそのまま空中でピタリと止めた。
「え?強子と付き合ってる?」
「付き合ってない!!」
金光先輩が顔を真っ赤にして否定する。
いつもより一段低く鋭い声に、高森先輩が思わず半歩引いた。
「どうどう」
「あいつとはただの幼馴染だ!お前らも知ってんだろ!?」
周囲を見渡すと、それぞれ、「まあ」だの「うん」だの煮え切らない返答に、金光先輩は更にヒートアップしていく。
え?付き合ってない?
思考がうまくまとまらず、ポカンとしてしまう間抜けな表情の私に向かって、
「付き合ったこともなければ、意識したこともない!大体あいつは俺みたいな駄目人間嫌いだと言っていたんだ」
気付けば、私の両肩を掴み、真剣な表情で訴える先輩。
そういえば、前世で映画は一度見ただけだし、明確に彼氏だと強子先輩が言っていたシーンがあったっけ?
それに、現世でも二人とも付き合ってるとは言わなかったし、恋人じゃないとすると、世話焼きの母親と反抗期の息子のような関係にも思えてくる。
それって、つまり…?
先輩の赤く染まる表情と、真剣な眼差しと、肩に伝わる先輩の体温に釣られるように、私の体温も上昇していく。
「待ってください、その話はおかしいです。だって、先輩は全然駄目な人なんかじゃありません。先輩は、文武両道で人徳もあって温厚篤実で老若男女から愛されてるんです!どうするんですか!女にだらしないっていう浮気性じゃなければ、先輩はただの完璧な王子様じゃないですか!」
一気にまくし立てて肩で大きく息をする私。
「…絢音?」
美咲が箸を地面に落として、目を丸くしている。
高森先輩が腹を抱えて爆笑しながら地面を転がる。
佐藤先輩が網を守るように仁王立ちして割って入る。
「金光君、絢音ちゃんに一体どんな印象植え付けてるのよ?」
金光先輩は私の肩を掴んだまま、石のように固まっていた。
夕焼け色だった顔はさらに赤みを増し、額には汗が滲んでいる。
「…えっ?完璧な王子様?俺が?」
その呟きが聞こえた瞬間、私は自分の口から出た言葉の威力にようやく気づき、ボンッという音が頭の中で弾けた。
「あ…あ…ちがっ!これは、その!そういう意味じゃなくて!」
必死に両手をばたつかせるが、言葉が出てこない。
「いやっ!とにかく!違います!そういうのじゃないです!」
私の混乱ぶりを見て高森先輩が笑いすぎて痙攣しだす。
金光先輩は俯きながらもゆっくりと肩から手を離した。
「…えっと、俺も絢音のこと、姫だと思ってる。だから、つまり」
ゴクリとつばを飲み込み、
「姫、結婚してください」
「早い早い」
「好きだ!結婚を確定事項として、付き合ってくれ!!」
沈黙が流れた後、一つため息を大きく吐いて、佐藤先輩が呆れたように呟いた。
「長かったわ」
「金光…ついに言ったな」
高森先輩は痙攣を抑えて感慨深げに頷く。
山下先輩は肉を網から拾い上げながら鼻をすすった。
美咲はそんな山下先輩に慌ててティッシュを差し出している。
金光先輩はまだ真剣な眼差しで私を見つめていた。
「絢音」
私の名前が呼ばれると同時に胸が熱くなった。
霧の中で繋いだ手の感触。
守ると言ってくれた声。
それが全て今この瞬間につながっている気がした。
「…私が卒業したら結婚しましょう」
小さく震える声で返事をすると、金光先輩は信じられないというように目を見開き、それから両手を広げて、万歳のポーズを取りながら、空に向かって叫ぶ。
「よっしゃああああ!」
そのまま抱きしめられ、ぐるぐると回転する。
それがおかしくて、笑ってしまう私に先輩も笑い出す。
焚き火がぱちぱちと音を立てて燃え盛り、橙色の光が私たちを優しく包み込んでいる。
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