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どうやら、ホラー映画のモブに転生したらしい  作者: 御仕舞
第二章 怪物の園

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5 . 呪いを知る者


 私の背中はびっしょりと汗をかき、気持ち悪い。

だから背中を柱から離して、頭だけを少し出した。

夕陽に照らされた通路を、学園祭のチラシを片手に持った高森が悠然と歩いてくる。



「た、たかもりぃ」



 その姿が普段通り過ぎて、緊張の糸がぷつりと切れた。

腰が抜けたようにへたり込んでしまう。



「何してんだお前?」



 高森はチラシを片手に、ずかずか近づいてきたと思うと、グリグリと私の頭を乱暴に撫で回す。

私は手をなんとか外そうと藻掻きながらも、



「さっきの電話はなんだ、先輩を敬え!」

「は、はなせぇぇぇ!このセクハラ魔人!女たらし!」

「絢音は口が悪いから、男たらせねえだけだろ」

「はぁああ?!ビッチになる気はねえから、たらせなくても困らないんです〜!私と結婚する人にしか、大切な純潔は渡さねえんだよ!高森には絶対やらん!」

「いらね〜〜〜!!!重すぎ束縛メンヘラ女の純潔とか、金もらってもいらねえ!」

「そんなこと言っていいの?!将来結婚できるかも怪しいけど、お前が托卵されたら自業自得で嘲笑ってやるかんな?」

「俺こそ、お前が浮気されて、相手殺したら刑務所の面会に差し入れ持ってってやるよ!大好きな卵ボーロをな!」

「ありがと!!」

「ふ、2人とも!!」



 美咲が半泣きで飛び出し、高森の腕にしがみついた。

その拍子に地面に落としたチラシが風に舞い上がる。



「触んじゃねえよ」



 高森が美咲を振りほどき、チラシを拾いあげるのを横目に、警戒しながら周囲を見渡した。

植え込み、木陰、噴水の影。

化け物の痕跡は完全に消えている。

あれだけ執拗だった追跡者が忽然と姿を消すなど、あまりにも都合が良すぎないか?



「これ、何のチラシか分かるか?学園祭のチラシのゲラだ。実行委員じゃない奴には見せられねえけどな」

「うっざ。さっさとどっかいっちまえよ」

「絢音ったら!…高森先輩にいてもらったほうが良いんじゃないかな…?」



 チラッと美咲は高森を伺いながら、私に囁く。



「人がいるところまで一緒にいてもらえば、あの化け物も出てこれないんじゃないかな?」



 確かに、他者の目があるところには、ろくろ首は出てこないはず。

でも、チラリと高森をうかがう。

私たちの話を聞いているだろうに、素知らぬ顔で何を考えているんだか。

大体、私は女たらしが、大っ嫌いなの!

その女たらしに借りを作るなんて。

私は警戒心を緩めず高森を睨んだ。


 だけど高森は意に介した様子もなく、皺だらけの紙を私に見せてくる。



「そんな睨むなよ、ったく、しょうがねえな。お前だけ特別だ。他の奴らには内緒にしろよ」



 そう言って、突然私の肩に腕を回し、引き寄せる。

服越しに感じる体温と、何かお洒落な男がつけそうな少し甘みのある香水の匂いに腹が立つ。

馴れ馴れしい触れ方に、全身の毛が逆立つような不快感が走った。


 反射的に身を捩るが、意外に強い力で固定されてしまっている。

高森はそんな抵抗を面白がるように、さらに顔を近づけてきた。

ゲラを見せるだけなのに、内緒話をするように顔を近付けられる。

目の前数センチの位置でニヤつく顔。

美咲の短い悲鳴が聞こえた気がした。



「逃げろ」



 その言葉は、高森の唇の動きから音となって耳に届いた。

間近にある高森の顔は、いつも通り甘ったるい笑みを浮かべ、私を揶揄っているみたいなのに。

その茶色い瞳だけが異質だった。

笑みを浮かべる口元とは裏腹に、瞳は真剣そのもので、鋭い警告を含んでいた。


 反射的に美咲を見る。

彼女は困惑した表情で私たちを交互に見ているが、高森の言葉は全く聞こえていないようだ。

私の心臓が早鐘を打つ。

どういうこと?

今思えば、あの化け物との遭遇から高森が登場するまでのタイミングの良さも不気味だった。


 不意に、なぜか山下先輩の冷たい声が頭の中で再生された。


『情も過ぐれば仇となる』



「絢音、俺はお前のことを特別に思ってるんだぜ?」



 その瞳は依然として真剣だった。

唾を飲み込む。

高森を信用できる要素は皆無に等しいが、私には高森が嘘を吐いているようにも、嘘を吐く理由もないとわかっていた。


 どこまで私たちの状況を高森が把握してるかは分からない。

でも高森が私を思って忠告しているのと、私だけに聞こえるように忠告したのには理由があるはずだ。


 それでも、この異常な状況で美咲を孤立させるわけにもいかない。



「…ありがとう」



 私は囁き返した。

高森の目が僅かに驚いたように見開かれたが、私が逃げないことを悟ったのだろう、甘い笑みは子供の我儘を許すような苦笑に変わった。

そして彼はそっと肩から腕を離した。



「よし、行くか」



 高森は私の手を強引に掴み、



「実行委員の働く姿でも見せて、先輩としてもっと敬えるようにしてやるよ」







一人で逃げる(bad end 4∶死に絶えた世界で)

→逃げない



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