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外様郷  作者: かろうじて
90/98

90.本日は晴天なり




 一月三十一日、水曜日。午前九時五十分。

キッコウ柊に別れの挨拶を済まし準備万端でツバメを待っていた俺は、ガヤガヤと近づいてくる集団の気配に愕然としつつ、アパートの前に移動した。


「どういうことだ、ツバメ」

喧騒の先頭にツバメたちがいた。いつもの事務メンバーだ。


「わ、悪ぃ。昨日居酒屋で聞かれちまって」

「おはよう、岩木君!昨日ねー、居酒屋でお喋りが過ぎちゃってね。あはは、こうなっちゃったんだよ」


しどろもどろのツバメとは違い、あっけらかんとコダマさんが説明をしてくれる。

アパートの前にはツバメが引き連れてきた郷の者たちが溢れかえっている。


「私たちはツバメと岩木君の勝負に関わる気は無かったのだれけど、これだけ数が膨れるとオイタをする者も出てしまうかもしれないから、見張り役をしてあげようと思って」


小首をかしげおっとりとセンジュさんが笑う。


「待って。待って。もしかして、この人たちって、見に来た冷やかしじゃなくて参加者だったりする?鬼が多すぎない?いじめか?

しかも、どう見ても、居酒屋の収容人数超えてない?え、回転早いね?」


「ねー」

コダマさんが笑顔で相槌を打ってくる。その柔らかい緑の発光が場違いな癒し効果を発揮してくる。あー、落ち着く。そうだ、とりあえず落ち着こう。


「だから、岩木君。もう少し制約を細かく決めることをお勧めするわ。ツバメも悪いと思っているから、了承済みよ。といっても、酔っ払い相手だから、付けれても三つまでね」


「お兄ちゃん、よく考えてきちんと決めよう」

肩の上の小春が若干険しい顔で言ってくる。うん、そうだな。

にしてもこの集団、酔っ払い集団だったのか。居酒屋にいたなら、たしかに朝まで飲んでそうだけど、凄いな。


「岩木の安全と、他に何かあるか」

ツバメが促してくる。

「安全だと解釈違ってきそうだから、心身ともに傷つけないってのにして欲しい」

「そうだな。心身ともに傷つけないで。あとは移動速度があからさまにこっちが早いから、どうする?」


昨日の段階だと、飛ばないってだけだったけど…。チラリと群衆を見る。

足が六本くらいある人がいるんだけど…。逆に蛇の同体で足が無い人もいる。で、足が無くて飛んでいる布だっている。


「難しいな。小春、何か思いつく?」

困ったとときは、周りに聞いてみる。ここは一番親身になってくれる小春に聞いてみた。


「お兄ちゃんと同じ条件の移動手段しか使ってはいけない、とかどうかな」


同じ条件の移動手段?


「あら、小春ちゃん、賢いわね。」

「それって、俺は飛べないから、飛ばない。手足は二本ずつしかないから使用する本数も同等。他の突飛な移動手段も使えないってことだよな?」

「あい」


移動速度が早そうな獣系とか、脚力が自慢の人たちもいるだろうけど、そこはもう仕方ないか。足早いからお前は鬼ごっこ参加できないとか、言えないしなぁ。


「じゃあ、それで」


結局小春の案が分かりやすく、不満も出にくいだろうし、落としどころだろう。


「後は、形勢に大きく響く能力も使用禁止にしておいたほうがいいんじゃねぇか。

判断は俺らがすることになるけど」


キョウコクさんからも援護をもらえた。そうだな。うん。それなら、俺の足を凍らせ足りとかもできないだろうし。


「そうですね。それも追加で。あと、気になったんですけど、この飛び込み参加の人たちは何で参加してきたんですか。俺が郷に残ってもあまり関わりが無いと思うんですけど」


「そりゃあ、供物狙いだろ。聞かれた場所が居酒屋ってのも悪かったな。

ほら、前に居酒屋で森津木たちとバイトしただろ?居酒屋にたむろしてる連中は、味を占めたやつと、地団駄踏んだ奴が多いから」


つまり要因としては『俺がツバメを餌付けした』状態を作って、『居酒屋アルバイト』で味を占めた者と地団駄踏んだ者たちを生み出して、『今までありがとうのお礼』でツバメに帰りますよ告知をしたことでツバメが思い詰めて?『追いかけっこ』を言い出した。

それを居酒屋でポロリと漏らして、他の郷の人たちに嗅ぎ付けられてこうなった、と。


ツバメだけを責めるには、何ていうか、俺の行動に因るところも大きいんだよなぁ。


「岩木、話の途中で悪いけど僕と小鳥はゴール地点で待つことにするから先に行くね」

「岩兄ちゃん、応援してるから。ゴールで待ってるから、勝ち逃げだぜ!」


俺と事務メンバーの会話を聞いて、二人はさっさと特等席に移動することにしたようだ。

小鳥少年の応援が心に沁みる。


「岩木君。そろそろ始めた方が良いよぉ。ここにいるのは言い換えれば酒飲みたちで、今は朝だからねぇ。気の良い連中だけど、あまり待たせると機嫌が悪くなるから好戦的になっちゃうよ?」

「よし。じゃあ、始めましょうか。十五秒のカウントはコダマさんお願いしますね」

「任せて!」

「最初に制約をかけるわね」

珍しく、やる気のセンジュさんが声を張り上げた。


「はーい皆―、今日の遊びの説明と制約行くわよー。

先ずは説明ね。遊びは追いかけっこ。場所はこの迷い人の住処より御山まで。岩木君が一歩でも御山に入れば岩木君の勝ち。岩木君を捕まえたまま五つ数えられたら鬼の勝ち。いいわね?

コダマ、キョウコク。センジュが審判になるからよろしくね。


じゃあ制約よ。迷い人相手だから、楽しく遊ぶためにも大目に見てね。


今より遊ぶは鬼ごと。逃げる者は迷い人の岩木君。追うは今より伝える制約を受ける者。この制約はこの鬼ごとのさなかの制約。

一つ、迷い人の心身ともに傷つけないこと

一つ、迷い人と同じ条件の移動手段のみとする

一つ、形勢に大きく響く能力は使用禁止とする


さあ、制約を受け入れ駆ける者はツバメの後ろについて」


ツバメがアパートの入口に移動すれば、元より十字路付近にたむろしていた者たちがツバメの方向を向く。どうやら全員参加らしい。


「『制約を破るものには報いを』。さあ岩木君、用意はいいわね」


冬の郷の空は白みのかかった青。まあまあの晴れ。

小春が肩で体制を整える。

アパートから御山まで。田畑の中のあぜ道一本。隠れるところもないと来れば、マラソンのようなもの、だと良いな。


「三、二、一、開始っ」





後ろでコダマさんのカウントが聞こえる。十五秒の間になるべく離れておくべきだ。

殆ど、全力で駆ける。

後方で鬼たちが一斉スタートを切った気配がした。


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