↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外様郷  作者: かろうじて
81/98

81.思いやり




「あー。良いお風呂だった。幸せ。風呂上りに何飲む?って、ここ何があるのかな。

棚見たけど、緑茶の種類は豊富だったよ」


離れのお風呂は聞いた通りの檜風呂。俺たち三人で入ってもだいぶ広かった。小鳥少年曰く、人用の離れとはいっても鬼族の感性で作られているから、意外に広いのだそうだ。

そういや堀炬燵も下に足が届かなかったし、土間も作業用の机を二つ置いても狭いとは感じなかった。

母屋が広いから、つい比較して狭く感じるだけなのだ。


「さすがに玉露は申し訳なくて飲めませんからね。気兼ねなく飲めるものを探しましょうか。いやまあ、人様の家ですけど」

ほかほかと湯気を出している森津木さんが上機嫌に棚を漁り始める。


「お兄ちゃん。森津木さんが柚子のジャム持ってきてくれたでしょう?私、お湯で溶いたのが飲みたい」

「了解。俺はどうしようかな。白湯でも良いな」


茶葉の入っている缶を開けては匂いを嗅いでいた森津木さんが顔を上げた。


「小鳥、この茶葉何?ドクダミの匂いと、他にも薬草?の匂いがする」

うげ、と小鳥少年が呻いた。

「森兄ちゃん、しまって。それ。早く。それは体調が悪い時に飲まされる薬茶だよ。

苦いうえに、口の中にいつまでも味が残るし、木の根どころか乾燥した虫の殻が磨り潰されて使われているという恐怖の逸品なんだから」


「まあ、イナゴ食べることを思えばそれくらいは。むしろ、虫で良かったと思うよ。

分からないものや、分かりたくないものは本当に恐怖だから」


森津木さんの「人間が食べる食材」への信頼感は危険なにおいがする。

話題を変えよう。


「そういや、先にお風呂いただきましたけど、晩御飯何でしょうね。

小鳥少年、何か知ってる?」

「知らない。でも宴じゃなければ少し豪華な普通の食事だよ。もうそろそろ時間のはず」


「え、でもまだ五時過ぎくらいでしょ。ここの晩御飯って夕食なの?」

「冬なら日没から少し経ったらご飯の時間。夏なら五時の鐘から準備を初めて、体感で二時間後くらいから。ただし、ご飯の時間が長いよ。多分日付変わるまで食えや飲めやだからなぁ」


ああ、晩酌がメインではあるけども、それなりにずっと何かしらを摘まんでるのか。


「まあ、お茶飲みながら待ってればいいか。小春、ジャム取りに行こうか」

「待って岩木。お湯を沸かして匙とコップを持って行こう。そっちのほうが楽」

「そうか。そうですね」


ごそごそと準備をして堀炬燵の部屋に戻る。直床だから寒いかなと思ったが、うすーく伸ばした石?の上にすでに火が入っている火鉢が置いてあった。


「あ、この火鉢が有るってことは、もうすぐここでご飯だよ。いつもは大広間なのに、気を使わせちゃったみたい」

しょんぼりとした小鳥少年の頭をなでる。俺が撫でるのもおかしいけれど、仕方ない。


「なら小鳥、せめて台を拭いておこう。台布巾は土間かな」

「あ、うん。台布巾とお皿とか拭くやつ間違うだろうから一緒に行く。

岩兄ちゃんと小春はここで待ってて」

「いてら」


二人を見送って振り返る。

「で、カエデさん。何で入ってこなかったんですか」

縁側からのそりと出てきたカエデさんは両手にお盆とお櫃を持っている。


「あー。その。岩木、怒ってないのか。いや、違うか。小鳥の頭、撫でてくれてありがとな」

「俺が撫でたかっただけですよ。ほらカエデさん、寒いですからそっちの障子も閉めますよ。

早く中に入ってください」

「おう。邪魔するぜ」

「降ろしますね」


カエデさんの手に乗っているお盆とお櫃を慎重に降ろす。お吸い物があるみたいだから、傾けたら零れてしまう。お盆とはいっても、お重の大きい版みたいな物で、三段重ねられている。恐らく一段が一人用。お櫃は二段に重ねられている。米と、なんだろう。


「ただいまー。やっぱりカエデ兄ちゃん来てたんだ。話し声聞こえたから。

急いで机拭くから」

ぱぱっと机を拭いてお盆の中身を並べていく。

お櫃の下の段を見てみると、漬物数種類と餅。干し柿、干芋が入っている。


「あ、そっちは食べたりない時や、お茶請けようだから今は置いておいて」

なるほど。

「どうだ?足りるか?イマイチ森津木と岩木の食う量が分からなくてな。

確認してくるように言われてんだ」

机の上に並んだ夕食を見る。白米、吸い物、大根の煮物、魚の塩焼き、イカと青菜の酢味噌和え。魚は丸々一尾。


「十分です」

「僕はむしろ食べきれるか心配ですね」

小鳥少年の分は酢味噌和えの代わりにお浸しになっている。


「そうか。他に必要なものがなければ俺は戻るが大丈夫か」

特に思い浮かばないから大丈夫だろう。


「俺は大丈夫です。皆は?」

「僕も大丈夫かな」

「俺も大丈夫だぜ」


小春も何も言わないので良しとしたのだろう。

「じゃあ、後で温石持ってくるからその時に皿は下げる。端にでもよけといてくれ」

そう言ってカエデさんは母屋に帰って行った。


「では。頂きます」

「「「頂きます」」」

森津木さんの挨拶に全員で続いて食事を開始する。


「あ、美味しい。この焼き魚、美味しい」

お吸い物を飲んで、すぐに魚に舌鼓を打っている森津木さんの横で小春用に料理を取り分ける。

小春は口にしないが、多分肉よりも魚が好きだと思う。ただ、俺に肉を食わそうと普段は肉推しだ。だから魚料理の時は、いつもより多めに魚を渡す。


「凄い!お魚美味しい」

一切れ魚を食べた小春が歓声の声を上げる。

俺も一口食べてみる。確かに。身が引き締まっていて美味しい。今日の魚だと分かる美味しさ。これが水槽に入れてるやつだと、身がふんわりしてしまうし、絞めてから一日たってたりすると甘さが出てしまって俺は苦手である。

まあ、魚は一日置くという人もいるし、個人の嗜好だから色々だ。小春がこの焼き魚を殊更美味しいと思うなら、魚の嗜好に関しては俺と似たようなものなのだろう。なら食料品店じゃなくて、午前中しか開いてない魚屋で一回くらい魚を買って料理してもいいかもしれない。


「ご馳走だよねぇ」

ご飯を噛みしめて、ふう、と息を吐きながら森津木さんがこぼした。

「風呂も檜だったし、僕もう高級旅館に泊まりに来ている心地だよ」

確かに。風情のある離れの建物、立派な檜風呂、運ばれてくる美味しい食事。これはもう、旅館だ。


「なら、森津木さん。ご飯食べて一休みしたら味玉づくりを気合い入れて再開しないと。まだ半分も茹でてないですからね」

「もちろん。気合い入れるよ。っていっても、そんなに大変な作業じゃないけど。今日仕込めば明日の午後には渡せるから、夕食と八時には間に合うように頑張らないとね」


黙々と食べていた小鳥少年が顔を上げた。

「そういえば、俺、ここに泊まるときって朝ごはん食べない時が多いけど、明日何時に起きるの?」

あー。そういや聞いたことがあるな。鬼族の宴に出ると昼近くまで寝るんだっけ。そういや昔の人って二食?朝食が少し遅めだっけ。


「鬼族の人たちの朝食っていつごろ?」

「んー。バラバラだよ。朝の一番鶏が鳴いたら支度にとりかかるから、出来てから九時前後くらいまで。お昼は基本作らないから各自で余りものかな。ただし、朝一で仕事に出て食べてない兄ちゃんたちの分は予め取り分けてあるから、それ食べたら駄目」


お吸い物も出汁が利いていて美味しい。凄い美味しい。出汁が違う。

わかめと豆腐が入ったすまし汁なのだけど、シンプルなだけに素材の良さが引き立つ。

これきっと、俺が使ってるわかめじゃないし、手間暇惜しまず出汁作ってる。


「じゃあ、明日の昼食はどうするの?お兄ちゃんは昼食抜くなんてダメだからね」

「え、何の話。ごめん。話聞いてなかった」


小春が慌てて説明してくれる。

「明日の昼食がないかもしれないって」

「そうなのか。じゃあ、カエデさんに買い出しに行ってもらわないとな。大体の調理器具は今日運び込んだんですよね、森津木さん」

「うん。有るか無いか分からないなら自分たちで作ろうか。後で来るカエデさんに伝言しておけばいいだろう。明日、買い出しに行くからその時についでに昼食分も買ってこよう。

じゃあ、今のうちに献立決めとこうか」


夕食を食べながら明日の昼飯の献立を考える。


「大切なことから決めましょうか。米、どうやって炊くんです?」

「そりゃ、竈で炊くよ。あ、そうか。米炊いてたら同時にはおかず作れないし、おかず作ってたら炊いたお米が冷めちゃうのか」


パクリ、と酢味噌和えを口に運びゆっくり咀嚼する。

酢味噌っておでんのイメージしかなかったけれど、ふむ。これは中々癖がある。いつか焼酎を飲む日が来れば、甘さ控えめで自分で作ってもいいかもしれない。これは白みそかな。赤みそに変えればいけるか?


「なら鍋が便利かな。朝にご飯炊いておいて、締めに冷えたご飯入れて温める?」

「もういっそのこと、煮込みうどんとかで良いんじゃないですか。うどんじゃなくても麺にすれば楽だと思うんですけど。もしくはカレーとか」


「うーん。それなら、うどんにする?カレーは危険な気がする。鼻が良い者たちなら母屋にいても嗅ぎ付けるだろうから、下手すれば僕らの分がなくなる」


「あ。俺、味噌煮込みうどん食べたい。味噌づくりを手伝わせてもらっててさ、この離れに小さな壺だけど味噌があるんだ。使ってよ。味噌なら匂ってもそんなに気にされないと思う」


期待に満ちたまなざしで俺と森津木さんの顔を見た小鳥少年は最後に小春に見て

「あ。小春。味噌うどん、服汚れるかな。危険?」

「大丈夫だよ、小鳥お兄ちゃん。服は自分で自在にできるから、汚れたら綺麗に戻せばいいの。お兄ちゃん、森津木さん。私も味噌煮込みうどん食べたい。ニラがいっぱい入ってお肉も入ってるやつ」


小春と小鳥少年にリクエストされれば、俺と森津木さんに否やはない。

「じゃあ、明日の午前中に材料を買いに行こう。先にうどんの材料を届けてもらうから、岩木と小鳥は先に麺づくりに取り掛かかっていてくれる?」

「分かりました」

「はーい」


豪勢な食事を食べ終えて、食器を洗うために土間に移動する。

あれから作業台と荷物がさらに増えている。だよな。稲荷ずしの米を冷まさなきゃいけないから、場所とるよな。増えている荷物は段ボール数個。これでまだメインの食材が入ってないことを考えると凄い量だ。カエデさん頑張ったな。


さて。森津木さんが洗ったものを、小鳥少年が拭いていく。俺は横で残ったお櫃のご飯をおにぎりにしていく作業だ。

茶請けに入っていた漬物を小さく切り、混ぜ合わせて塩で結ぶ。小鳥少年曰く「お米残ってるなら、おにぎりして欲しい。そのまま呑んでいる兄ちゃんたちのツマミになるから」とのことだったので、半分以上残ったご飯をせっせと結んでいく。


粗方握り終えたところで、「お櫃洗うから」と森津木さんがお櫃を回収していく。

おにぎりは小鳥少年が用意してくれた皿の上だ。


火鉢を土間に運んできて、そのまま味玉づくりを再開する。

半熟の卵の殻剥きは小鳥少年の失敗率が高かったので俺が担当することになった。

ゆがきながら、火を調整するのが小鳥少年担当。ちなみに俺は火加減がちっとも出来なかった。付け込みタレを作ってゆで卵を入れていくのは森津木さん担当だ。まあ、森津木さんは割と手薄になるので、俺と小鳥少年の手伝いを合間にしてくれている。


「あ、そうだ。金曜の朝食は、味見の必要があるから不要なこともカエデさんに伝えておかないと。で、金曜の昼ご飯どうする?僕、お礼を管理舎に運んだら、必要道具を調理室から借りているから、それも返して、洗い物を調理室でしてくる。やっぱり洗剤使いたいしね。

 それからアパートに行ってキッコウ柊見てくるよ。その後になるけど、食料品店で何か買ってこれるよ。

それとも、明日の買い出しで一緒に買っちゃう?冬だし、肉と魚以外の食材なら常温で置いておいても平気だと思うし」


そうか。カエデさんの負担も減らさないと。

なるべく、予定を立てておいて、いつ必要になるか伝えないとカエデさんも身動き取れなくて日常生活に支障が出るんだ。

釜の前でしゃがんで火を見ている小さな背中を見る。多分、俺のこの離れの生活はそう長引くことは無いのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。