50.個人依頼
商店街のアルバイトを引き受けるよ、の回。飛ばしても大丈夫です。
アパートに帰り、シチューを作る。これは晩御飯用だ。
昼御飯をどうするかなと考えていたら、小鳥少年が訪ねてきた。
「へへ、焼きそば買ってたんだけど、そろそろやばいから、一緒に食べてくんない?
年末にも食べたけど、数日は経ってるし。今森兄ちゃんが野菜とか、焼き始めてくれたからさ」
喜んで五号室に付いていった。森津木さんに聞くと、塩焼きそばだそうだ。
多めのキャベツ、干し貝、むき海老。先日市で小鳥少年が分けてくれた海の幸を入れるそうだ。
それならと、俺のところに冷凍イカが有るので提供する。小鳥少年がおずおずと、「実は、二週間くらい前の、卵がまだ六個あって…」
森津木さんに目玉焼きを作ってくると伝え、小鳥少年に卵を持ってくるようにお願いする。
フライパンを熱していると、小鳥少年が卵を持ってきてくれたので三個割入れてコショウをふり、水を入れて蓋をする。
残り三個は茹で卵にでもしておこう。折角の焼きそばが冷めるのは嫌なので、茹で卵は森津木さんの台所で作らせてもらうことにする。
フライパンの火を止めて少し蒸し、三つに切ってから皿に乗せて五号室に戻る。
茹で卵のお願いをすると、二つ返事で引き受けてくれる。森津木さんが盛り付けた焼きそばに目玉焼きを乗せて完成だ。
空いた小鍋に再び水を張り、卵を入れて火にかける。昼食が終わるくらいには出来ているだろう。
「「「頂きます」」」
小春用の皿に、少しずつ乗せる。目玉焼きは黄身と白身の境界の所を切り取り、上に置く。喜んで食べ始めた。良かった。お気に召したようだ。
三人で食べていると、五号室の部屋の扉が上品に叩かれた。
「こんにちは、森津木ちゃん。チトセよ。今いいかしら」
森津木さんは迷いなく開ける。
「はい。明けましておめでとうございます、チトセさん」
「おめでとう。あら、アパート組勢ぞろいで美味しそうなもの食べてるのね。六号室の部屋の前からも良い匂いがしたし」
作りかけのシチューだな。
「昼ごはん中だったのね。失礼したわ。
森津木ちゃん、今日、商店街の連中で飲み会するのよ。料理作ってくれない?出来るだけで良いの。報酬は一時間五千円。材料はこちらで用意しているわ。まあ、限られた材料で、っていうことになっちゃうのだけど」
「へえ。良い話ですね。喜んで」
「そこの二人も、手伝わない?
帰りは森津木ちゃんがいれば安全だろうし、商店街を敵に回したら酒も買えなくなるもの。誰も手出しはしないと思う。
岩木は一時間二千五百円。
小鳥君は料理できる?苦手?じゃあ一時間千五百円でどう?売れ残りの手土産付けるわよ?」
「「やります」」
時間なら空いているし、時給も破格となれば受けない理由は無い。余り料理が出来るわけでは無いけど、小春がいれば何とかなるだろう。
「商談成立ね。場所は商店街の居酒屋。
厨房にあるものは自由に使っていい。時間は好きな時に来て、好きな時に上がって構わない。
けれど、時給だからね。入るときと上がるときは私に声を掛けて。私は居酒屋の入り口に陣取っているわ。
報酬は、次回、食料品店に来た時に渡しても良いし、私が後日届けても良い。どうする?」
「僕は次回食料品店に行ったときで」
「俺も」森津木さんの言葉に同意を示す。小鳥は少し考えてから
「森兄ちゃん、俺の分も受けっとっておいてくれない?当分買い出しの予定は無いんだ」
森津木さんはさして考えるわけでもなく「うん。分かった。いいよ」と了承する。
「じゃあ、小鳥君の分は、森津木ちゃんに一緒に渡すわね。
うちの営業開始もいつからか分からないけど、日曜日には一旦開けようかなと考えてるの。
午前中だけかもしれないから、その日に来たらどうかしら。他に質問は?」
森津木さんが口を開いた。
「人数はどれくらいですか?」
「商店街の人数は四十九。けど、飛び入り参加はいるだろうから、居酒屋の収容人数の七十人と考えて。酒は持参するし、隣の酒屋から随時調達するから無視していいわ」
「開始時刻は?」
「回覧板が回ったときは日暮れからだったんだけど…。気の早い連中はもう呑み始めているわねぇ」
おっと、これはすぐに行ったほうが良さそうか?
「後片付けは?」
「お願い、と言いたいところだけど、実際無理ね。厨房で使った調理器具と、既に下げたお皿はお願い。使用中のものは放っておいて構わない。
厨房も掃除する必要は無いわ。どうせ、あなたたちがいなくなったら、皆入るだろうから」
「僕たち三人以外の厨房で動く者は?運んでくれる者はいますか?」
「残念ながら、あなたたち三人だけ。当初は豆腐や練り物で良いって話だったの。
でもせっかくなら、ちょっと料理を摘まみたいってことになっちゃって、当日にこうして私が彷徨っているわけ。運ぶ者もいないわ。
出来た料理はカウンターに置いてくれたら、近くの者が取っていくし。他には?」
「僕からはこれ位かな」
「俺、少し。チトセ、厨房にフォークとキッチンペーパーと食料を直に入れて揉めるビニール袋とかはある?」
「分からない。確認して、無ければ用意しておく。フォークは一つあればいい?」
「ああ。よろしく頼む」
「あ、待って。チトセ、岩木が甘いものを作っても良いなら、泡だて器とか、バニラッセンスとかは持参していいの?」
「甘いもの?作れるなら作っても良いけど。調理道具もそうね、泡だて器は無いかも。
必要な調理道具は持ってきて。バニラエッセンスとかの使ってしまった食材は報酬受け取り時に言ってくれたら現物支給するわ」
ん?俺は甘味も作るのか?
他には?とチトセがきくが、特に思い浮かばない。これぐらいで良いだろう。
「じゃあ、私は帰るわ。三人ともよろしくね」
「「「はい」」」
小春がチトセお姉ちゃんまた後でね、と手を振ってチトセをお見送りする。
「小鳥、岩木、食べ終わって、後片付けをしたらすぐに行かないか」
「「分かった」」
食堂は商店街の入り口から三件目。
三人で食堂に入ると、入り口の横の机にチトセとシロさんが座っていた。
「!森津木、小鳥、岩木、小春!わあっ。会いたかったよう。撫でて、撫でて」
立ち上がって、尾を振りながら頭を差し出してくるシロさんを、わっしゃわっしゃ撫でながら挨拶する。
「明けましておめでとうございます、シロさん」「おめでとう、シロさん」今年も良い毛並みですね、シロさん。
「あ、岩兄ちゃんズルイ!俺も撫でるっ。シロ、明けましておめでとなっ、今年もよろしく」
小鳥少年に場を譲るとすぐにじゃれ始めた。
小鳥少年の場合はシロさんに抱っこされながら頭を撫でるスタイルだ。
「シロさん。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
森津木さんも挨拶をしたところで、チトセがシロさんをしばいた。
「尾を振るなら、外に出てよ。酒に埃が入っちゃうじゃない。
三人ともよく来てくれたわね。厨房は奥よ。案内するわ」
厨房は意外に広くきれいだった。
チトセは薪を置いていい場所、外の薪の場所、ゴミ捨て場、ゴミ箱、布巾等の場所を教えてくれる。
「火は、今私が付けるわ。妖力で点けた火は、ほとんど薪を使用しないから。じゃあ、あとはよろしくね」
森津木さんと、まずはご飯を炊いてしまおうという話になる。
下ごしらえの時間に竈を空けておくのは勿体ないからだ。米をつけておく時間が無いが、焼き飯になりしてしまえばいい。
森津木さんと米を研ぎながら、メニューの確認だ。
「俺、すぐに唐揚げを作ろうと思ってるんですが」
「分かった。じゃあ、僕は煮物を作ろう。一種類火に掛けたら唐揚げに沿える葉物の準備をしておく。千切りなどが必要ない場合は小鳥に任そう」
「そのまま、野菜の素揚げでもします?」
「食材をもう一度確認しようか。小鳥、鍋に水を沸かしといて」
「はあい」
お釜二つ、ご飯をかける。
「はじめちょろちょろなかぱっぱ~」
小鳥少年が何やら不思議なことを言いながら、火の加減をしてくれる。そういや俺、米炊くときの火加減なんて知らないな。任せておこう。




