32.今日の話題
金曜日。
昨日作った練り切りを小鳥少年に渡すと、お礼にとお酒を貰えた。
小鳥少年の部屋の段ボールにある瓶から好きに選んでいいとのことだったので、三本同じ種類が有るどぶろく一本を選ぶ。
小鳥少年は不満だったらしく、「もう、えんりょ禁止っ」といいながら追加で二本の日本酒を渡してきた。有り難く頂戴する。
「岩兄ちゃんも、未成年だろうから、誰かにお礼であげるとかしても良いと思う」とアドバイスまでくれる。小鳥少年は良い子だ。
どぶろくはツバメにでもあげようかと小春に相談すると、大賛成らしく、「二人で一緒に有難うを込めてから渡そう、お兄ちゃん」と言ってくる。
最近小春の滑舌が良くなってきていて、めでたい事である。
管理舎で資料室のバイトをして、午後一時半に終了。
帰りにツバメに酒を渡すために事務室に寄る。
「あ、岩木君。この間はどうも有難うね」
事務室に入ると、コダマさんが出てきた。
合体後、俺の知るコダマさんの姿で会うのは初である。全体的に以前より小さくなってぼんやりと発光している。そしてつるっぱげになっている。一本も生えてない。
「まだどこかに、何体か隠れてるんだよね。もう探すより、日曜に山に行って吸収してこようと思ってるよ~。この冬に、髪の毛無いと寒くてやってられないよぅ」
あ、吸収するんだ。山で。何かを。
そして、髪の毛の有無の必要性って防寒だけなの。何だろう、励まされる気がする。さすがコダマさん。
「そうですか。日曜、天気だと良いですね」
「だから、お前は、言うこと違うっての」
いつの間にか、横にツバメが立っていた。
「ツバメ。ちょうど良かった。ツバメに用事が有って来たんだ。
これ、どぶろく。貰いものだけど、俺は飲めないからあげる」
「は?俺に?」
「ツバメに。小春がやたらと『ツバメお兄ちゃん可哀相』って同情気味なんだよ」
「「「ああ」」」
コダマさんと、いつの間にか来たセンジュさん、キョウコクさんが同意した。この郷の人、いつの間にか忍び寄ってくるな。
「おい、何でお前ら揃って納得してんの。
最近の俺の苦労は主にお前らが生産してんだけど、分かってんの?でもまあ、酒貰えるし、良いかって、これっ。鬼のやつらの幻のどぶろくじゃねーかっ、どうしたんだよ」
「あら、本当。鬼族は酒豪揃いだから、買っても間に合わなくて、自分たちで作り始めたのよね。
美味しいって噂だけど、鬼族が飲み干してしまうから、手に入らなくて」
「練り切りを作ったお礼にって貰ったんだ」
「岩木君、練り切りまで作るの?」
「今練習中です。全然上手くいかなくて。それでもいいからって言ってくれた人にどぶろく貰ったんですよ」
「お前、運が良いんだぞ、それ。でもおかげで俺もこうして酒を貰えるから、今日は良い日だなっ」
ツバメが初めて見るような全開の笑顔でどぶろくに頬ずりをしている。
「良かったな、ツバメ。で、一口分けてくれるんだろ?」
キョウコクさんの一言で、返事を待たずに三人は一斉に散って、コップを片手に瞬時に戻って来た。忍びみたいだな。
「仕方ねーな、一口だぞ」
上機嫌に酒を注ぐツバメに、勤務時間中なのに良いのかと聞くと、何で悪いのか逆に聞き返された。さすが人外の郷。
三人は一気にあおった。センジュさんさえ、一気だった。
「「「……」」」
「どうだ?美味いか?」
「噂通り、美味しいわ。しかも、これ。ツバメ、早く呑みなさいよ」
「言われなくても」
ツバメは酒瓶から直飲みをした。おお、これが酒飲み。直飲み初めて見た。
二、三口飲んでピタリと止まり、神妙な顔でこちらを向く。
「小春、これは、お前の仕業か」
「ツバメお兄ちゃん、いやだった?」
「いんや、心から感謝する」
何だ?小春が何かしたのか?一番解説してくれそうなコダマさんに視線を向ける。
「岩木君、分かってないままやったんだ。
このお酒、捧げられた人間の感謝を、守護する福童が増幅して、結構いい線の供物になってるんだよ。しかも、媒体が美味しいどぶろくだから、酒呑みなら大喜びの一品だね」
「で、これ、ツバメあての感謝だから、当の本人には効果覿面なわけ。
だから、ツバメは数口で呑むのをやめて、大事に持って帰ろうとしてるのよ」
「「させないけどね」」
ガタリと、周囲の事務員さんたちが立ち上がった。
皆、手にコップなりお猪口なりを持っている。
「皆の者、奪え!あれこそ我らの疲れを癒す百薬の長!」
「させっかよ!奪われるくらいならこの場で呑み干してくれるわぁ!」
「僕は今回、ツバメに迷惑かけたから、ツバメ陣営だね。『迷い道~』」
騒然となった事務室の扉をパタンと閉める。
よし、帰ろう。
「ツバメお兄ちゃん、幸薄そうだよね」
「小春、それ以上はいけない。言霊になる」
「あい」
受付で報酬を貰い、管理舎を出ようとすると入り口に布団を背負った寮メンバーの少年が立っていた。布団。毛布。良く背負えたな。何で背負ってんの。
少年と目が合う。目の隈凄いな、少年。
じり、と俺が後ろに下がり、じりっと少年がにじり寄る。
ロビーの中にいる人たちの視線が集中し始めたのを感じる。
少年が地を蹴り飛び上がった。
華麗に三つ折りついて手から着地し、背を丸めて勢いを殺しながら、膝をかばい、足の指先で着地する。
その形の完成形。つまりは 土 下 座 。
だがしかし、俺からは背中に紐でくくられた布団しか見えない。なるほど、布団一式は、土下座カバーか。かなり強い手の指をお持ちですね。
俺、土下座なんて初めてされたし、場所が公共の施設で、相手が布団背負った年下って、いきなり超上級者コースじゃない?
頼んでないよ?
少年は意を決したように、息を吸うと、静まり返っているロビーで、大きい声で用件を言った。
「今日、俺と、一緒に、寝てくださいっ」
や め て 。
少年、これ、分かってる?
俺が周りにどう思われると思う?状況考えて?
分かってるよ、お前、寝不足なんだろ?寮に夜な夜な郷の人達が行ってるらしいもんな?でもな、その言い方は無いよな?
場所ももう少しわきまえるべきじゃない?
これはない。ねえぞ、少年。
「あ、森津木さんいるよお兄ちゃん」
小春が顔を向けている方、錆びたブリキの玩具のようにギ、ギ、ギとゆっくり売店を見る。あら、まあ。とばかりに口に手を当てて上品に驚いている綺麗なお姉さんと。
………体を折り曲げてプルプルしている森津木さんが、居た。
ワア、今日ノ話題ヲ提供デキチャッタミタイデ、嬉シィー。




