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外様郷  作者: かろうじて
24/98

24.小春日和




小春が才能を覚醒させた。


「小春、凄い!」

「やったね、お兄ちゃん」


目の前にはフライパンで綺麗に膨らんだホットケーキ。

小春が、料理の指示を的確に出してくれたのだ。


「お兄ちゃん、もうちょっと混ぜて」

「お兄ちゃん、火が強いかも」

「お兄ちゃん、ひっくり返して良いと思う」


小春は天才だ。これは今後の料理にも発揮してもらいたい。



早速、食べてみる。ふんわりとして、甘くて美味しい。小鳥にも小さく切って食べてもらう。


「おいしい、と思う」

自信なさげなのは、まだ味覚が育っていないからだ。


知識だけは、元となった子供たちの全てを、霊となってからの年月をため込んでいるので俺よりずっと博識なのだが、経験が伴わない。

これから色んなものを、食べていけばいい。


ホットケーキが上手くいったので、次の目標を決めるべく、小春とレシピ本を眺める。

小春は銀さんに恩を感じているようなので、そのうち何かお礼をしたいみたいだ。しきりに「銀さん、好きかな?」と気にしているが、銀さんなら、小春が差し出せば何でも大喜びで食べると思う。






水曜日。

朝一で山の無人販売所で小豆を五袋購入してから、管理舎に向かう。


今日は銀さんに会ってから、受付に行こうと思うので、いつもより十五分早くアパートを出た。


「おはようございます、岩木です」

「どうぞ、入ってください」


舎長室の中には銀さんだけが居る。舎長はまだ来てないのか。


「おはようございます、銀さん。小春って呼び名を貰ったの」

「おはようございます、小春。素敵な呼び名を貰えましたね。

それに、とてもよく頑張っているみたいだ。偉いですよ」

「えへへ、ありがとう」


美形と少女は絵になるな。小春が嬉しそうで何より。


「岩木さん、約束の物ですが、腕輪も用意したのですが、代用品も用意しました。こちらの方がお勧めですね」


銀さんが黄色い石がついたチェーンのブレスレットと、ストラップを長くしたようなものを出してきた。

細すぎず、一カ所に小さめの黄色い石が付いているシンプルなデザインのチェーン。

これなら、俺でも違和感なく付けられる。


でも、もう一つの方が気になる。

「この、紐の先にガラス玉?石?が付いているものは何ですか」


「これは私が以前、装飾品として愛用していた雁木玉と言います。今回、小春に入ってもらう封具の素体としては最高の物ですね。


今となっては、見た目も地味ですし、目立たないでしょう。組紐も、蚕姫とツクロイさん渾身の傑作ですよ。


使い方は、腕に巻きつけて、平打ち中央の差し込み口が有る箇所に雁木玉を通して固定してください。

雁木玉を使わなくても、巻くときにねじっておけば、外れることもないでしょう」


銀さん大プッシュか。紐も、深緑をメインにした落ち着いた色合いだから、使いやすそう。


「こちらの、お勧めの紐の方にします。早速、付けても良いですか」

「ええ、もちろん」

つけやすいし、手になじむ。この紐、伸縮性まであるのか。この紐の長さなら、首にかけても良いだろう。


「小春、入れる?」

「あい」


すうっと入って、数秒したら出てくる。

「中に入ると、とても、安心するよ。居心地がいい」

小春も絶賛である。


「銀さん、とても良いものを有難うございました」

「銀さん、うれしい。ありがとうございました」

二人でお礼をいう。


「それは良かった」

「ところで、舎長は」

「舎長は九時以降に来られます。何か用がありましたか?」


「いえ、『岩木』が守り名だと知ったので、お礼が言えたらな、と。

今度、お会いできたときに伝えます」


「そうですか」

「有難うございました。じゃあ、これで。失礼します」

「またね、銀さん」

「はい。お二方とも、また」




小春と掲示板に向かう。

バイトは翻訳を受けた方が良いのかな。一応、電子辞書は持参したから、翻訳でも良い。


翻訳の依頼表を探す。


依頼内容:翻訳

 報酬  :詩集一枚に付き百円

 依頼主 :資料室管理者フミツキ

 備考  :報酬は最低額で記載。能力により増額。


これか。

依頼表を取り、計算の依頼表もとる。


もしかしたら、少年は警戒して三日ひきこもるかもしれないからな。受付で、理由を話して、指示が無ければ計算のバイトにしよう。




受付できいてみると、翻訳の方に行って欲しいと言われたので計算の依頼表を戻し、翻訳の依頼の手続きをする。

資料室の場所も分かるし、フミツキさんとの顔合わせも済んでいるので案内を断り、二階に上がると、若い女の子の声が響いた。



「銀さーーん。おはようございますぅ。


聞いてくださいよぅ。姫、昨日も一人で怖くて、眠れませんでしたぁ。男子の一人が、いきなり姫に掴み掛かってきてぇ…。


ルールを聞いてなかったみたいなんですけどぉ、それを姫のせいにしてくるんですよぉ。意味わかんなぁい」


舎長室から聞こえる甘い声。これが噂の自称、姫。


朝から押しかけるなんてアクティブだな。きっと快眠だ。あれが肉食系女子というやつか。

少年もルールを把握できたようで良かった。


銀さん、頑張れ。関わったら面倒くさそうなので、心の中で応援だけして、そのまま資料室に入った。




フミツキさんに電子辞書の使用許可を貰い、昨日よりも格段に速く作業が進む。

お昼はフミツキさんに誘われて、そのまま資料室でとることになった。


「電子辞書!なんと素晴らしいものでしょう。その板に、辞書が入っているなんて不思議なこと。午前中の作業も随分と進み、私の意訳が間に合わないなんて」


「役に立てたようで良かったです」


「それに、注釈が増えたのはとても喜ばしいことでございます」

「小春に、この資料室の辞書を引いてもらって、使えそうな記載が有ったら書いているんです」


小さい体で「んしょ」と辞書をめくっている姿は微笑ましかった。

小春にも引いてもらうのは主に名詞だ。その地方で特別な意味を持つ花とか、当たると嬉しい。


「小春ちゃん、ありがとう」

「お兄ちゃんと、お姉ちゃんの役に立てて、私もうれしい」


「そうだわ、岩木さんの訳で、この郷の書物愛好仲間の数人呼んで、それぞれに意訳をしてもらい、その差を楽しむ催しはどうでしょう。きっと、好評を頂けるのではないかしら」


「俺、責任重大ですね。頑張らないと」


「ふふっ、お願いしますね。

あら、そういえば、岩木さん。午前中に何枚訳をなされたのでしょうか」


「ちょっと待って下さいね。…三十六枚です」


「あら、大変!岩木さんの今日の報酬は一枚三百円。三十六枚だと一万円を超えてしまいます」


「駄目ですか?」

一枚当たりの報酬が大分増額されたみたいだ。これは嬉しい。


「一日の事務のバイト代の上限が一万円。御免なさい、うっかりしておりました。

今、完了届を書きますから、今日はもう終いといたしましょう」


「わかりました」


「明日も是非、来てくださいね。このフミツキ、心より待っているわ」

「都合が付けば、是非。今日は有難うございました」

「お姉ちゃん、ありがとうございました」




今日は早く上がれたので、食料品店のほかにも雑貨屋にも行く。


「岩木、来てくれたんだね!」

「シロさん、こんにちは。今日は食べ物を入れて配る容器を探しに来ました。あと、小春を紹介しに」


 小春はぴょこんとシロさんの前に飛び降りて綺麗にお辞儀をした。


「はじめまして。小春って呼ばれているよ。お兄ちゃんと一緒にいるの。よろしくね」


「わあ。噂の生まれたての子だね!会いたかったよぅ。僕は犬族のシロ。小春、愛される名だね。よろしく、小春」


シロさんの手にぴゅいっと乗って小春がはにかんで笑っている。

シロさんの尾がブンブンと嬉しそうに振られているから、どうやら相性はいいようだ。


「シロさん、肉球ポヨンとしてる、不思議。気持ち良い」

「毛並みだって自慢だよ!頭に乗ってよ」

「あ、本当だ」


ひとしきり、シロさんと小春がじゃれたあと、包装用品の食料用棚に案内してもらい、お目当ての品を買い込む。

思いの外安かったので、驚いていると、


「個人で包装用品、しかも食料品用を買うのはほんの一部だけなんだ。言ってしまえば、ほぼ迷い人だけだ。

迷い人の作るものには供物としての性質が多少あるから、郷の者は貰えたら喜ぶよ。


だから、この棚の物は仕入れ担当者の善意で仕入れ価格で入れてくれる。そしたら、店だって応えたいよね!利益取ってないよ。撫でて!撫でて!」


わっしゃわっしゃ撫でた。

シロさんの利益にならないなら、他の物も買おうと見て回ると小春が糸を欲しがった。


「お兄ちゃんが、学んでいる間、糸を結ってるよ。

結った飾りはお兄ちゃんが贈り物をするときにとかに、使えば良いよね。ね、糸欲しい」


それ結局、小春が俺の役に立とうとしているだけで、小春の遊び道具じゃない。まあ、買ったけどな。

シロさんに、それならこの糸だね!と勧められるままにどっさりと。せめて色を選んで遊んでもらおうと、全色カゴに入れた。


ついでにルーズリーフと糊と瓶のセットも買う。

シロさんは上機嫌で会計してくれて、小春に後であげて、と包装紙の切れ端や、和紙の切れ端などを小袋に入れてくれた。


有難うございますと、わっしゃわっしゃ撫でたよね。


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