25.おやつの時間
食料品店で蜂蜜の補充などをしつつ、アパートに帰る。
もう、帰り道はそんなに怖くない。
戻って来たら部屋着に着替えて、買ったものを仕舞う。紙の切れ端の入った小袋が出てきたので小春に渡した。
「シロさんが、小春にって、くれたんだよ」
小春は首を傾げ、中を開けて確認する。
「!」
中に紙の切れ端が大量に入っているのを見て大喜びで飛び跳ね始めた。
「うれしい。ね、お兄ちゃん、うれしいって凄い」
小春可愛い。可愛いって凄い。
森津木さんと小鳥の部屋に行くと二人とも在室していたので三時におやつを食べに来てくれと声を掛ける。
二人とも喜んで行く、と返事をもらった。
「小春。森津木さんと小鳥にホットケーキを焼くぞ。手伝ってくれるか?」
「あいっ」
先に、柚子ジャム作りにとりかかる。
小春がレシピを見ながら指示してくれるのでスムーズに事が運んで楽である。途中、種を入れる袋が無かったりしたので、直に入れたりしたが、問題ない。
食べるときに避ければいいだけだ。
森津木さんが時間より早くやって来た。
「匂いにつられて、来ちゃったよ。あれ、岩木?痩せた?」
「少し。今からホットケーキ作りますんで、少し待っていてください」
「小鳥、呼んでくるね。暇つぶしの会話に付き合ってもらおう」
午後二時五十分。
ホットケーキが焼きあがる。小春のおかげで、綺麗なホットケーキだ。
ジャムはまだ、煮込んでいる途中だが、少量だから切り上げてもいいかな。
お湯で割って、夜に飲んでも良さそうだ。味見をしてみると、少し苦いが、まあ許容範囲だろう。
小春がしきりに種を気にするので、全て掬い出した。
お皿に移して、蜂蜜とジャム、バターを入れた小皿を付ける。ナイフとフォークは二人分までしかないから、俺の分は包丁で切って、箸だ。といっても、コンロ数とフライパンの関係で、同時に二人分までしか作れない。
森津木さんと小鳥には温かいうちに先に食べてほしいと伝える。
「あ、美味しい。岩兄ちゃん、美味しいよ、これ」
「そうか、良かった」
「僕、この柚子ジャム好きだ。しまったな、この間、岩木に貰った柚子、全部もう使っちゃった」
「森兄ちゃん、早いよ。何に使ったの」
「柚子のしぼり汁でポン酢。皮はお吸い物。残りの皮と種はお風呂に入れた」
「そんな使い方も有るんですね。でも、ポン酢か。いいな」
「しぼり汁なら、お酢代わりにもなるよ。普通のお酢よりまろやかな味になる。酢の物もまろやかに。稲荷寿司とかも僕は好き」
「よし、今度また柚子見かけたら買おう」
「俺は柚子湯にするから、それまで取っておくつもりなんだけど、何だかもったいない気がしてきた。森兄ちゃんの陰謀だ」
俺と小春の分も出来上がり、席についてガヤガヤと過ごす。食後に柚子ジャムのお湯割りも振る舞ってみると結構好評だ。
俺には少し苦いので蜂蜜も落とした。ちなみに、やっと納税について聞くことができた。結果としては無いそうだ。良かった。
「管理舎でお世話になった人たちにも、ホットケーキを差し入れようと思うんですけど、冷めたホットケーキって失礼になります?」
「大丈夫だと思うけど。明日なら調理室に僕もいるし、昼に作って、出来立てを持って行けば?」
「え、森津木さん、調理室に居るんですか」
「言ってなかったっけ。そうだよ。僕は指名依頼で調理室を使っていることが多い。
ツクロイさんが被服室を占領しているように、僕も調理室を占領しているね」
初耳。
明日、配るつもりだったので、迷うことなくお願いする。
「じゃあ明日は、材料を持っておいで。調理器具は調理室の物を使えば良い。
調理室に連れて来られるメンバーは、連れ込めばいいし。連れ込めないメンバーは配るしかないけど」
「明日の朝、八時半から九時までの間にタネを作って置いておいても良いですか」
「良いよ」
「よし、小春。銀さんにもお礼ができるぞ!」
「やったあ!頑張ろうね」
「おう」
「森兄ちゃん、岩兄ちゃん、話は終わった?」
「おう」
「んじゃ、俺、小春に聞きたいことが有るんだ」
「なあに」
「岩兄ちゃんの食生活について」
「よし、僕もとても気になっていた。全力で聞こう」
なんで。
小春により引き出された情報で二人にギャンギャン怒られた。
食事の量が足りていないとか、一日二十品目は無理でも、十品目は食え、だとか。森津木さんはまだしも、小鳥少年にまで怒られてショックである。
「小鳥少年~。何だよ、そんなに怒るなよ」
「あ、やめて、岩兄ちゃん、骨が痛い。抱き付かないで」
手酷い拒絶である。
森津木さんは森津木さんで、何故か小春に言い聞かせを始めた。
「いいかい、小春。岩木は一週間もしないうちに、明らかに痩せている。顔はこけてしまっている」
「チトセのお姉ちゃんも昨日言ってた」
「へえ。で、岩木は食事の量が足りていない。
甘いものが好きで、食後に摘まんでいるようだけど、岩木くらいの成長期の食事量というのは、信じられないくらい、多いんだ」
「そうなの?」
「ああ。ご飯が茶碗に一杯とか、足りないね。
茶碗山盛り二杯は食べさせないと。いいかい?小春たちが生きた時代よりも、今の時代の多くの農作物の栄養価は下がってしまっている。糖質はその限りでは無いけれどね。
栄養価が下がった分、多く食べないと。岩木は人間だから、栄養が足りないと段々と弱って、病気になりやすくなったりするしね」
「お兄ちゃんが、病に?」
「そうだ、冬だからね、風邪もひきやすい。
ましてや、この郷において人間は狩られる側。心労も重なって倒れるかもしれない」
「臥してしまうの?」
「可能性はあるよね。さらにそんな状況が続くと、死んでしまうかもしれないよ」
「!?お兄ちゃんが!」
「だから、小春が岩木を守らないとね。
一日三食。しっかりと食べる。今のご飯一杯に吸い物、おかず一品とかでは駄目だよ」
「どれくらい食べればいいの」
「お肉にお魚、お野菜だって、葉野菜、根菜とあるだろう。果物もね。満遍なく食べなくては。
小春が把握している食事とは、大分違う。今は肉も食べるし、判断は付きにくいだろう。
今、資料室でバイトしているのだろう?資料室にある、一番新しい栄養について書かれた本を、読んでご覧」
「明日、おねがいする。かならず」
何やら、刷り込みが行われている。
小春が、使命に燃えた目をして顔つきが凛々しくなった。可愛い。
「よし、小春、頑張れ」
森津木さんも、一仕事しました、みたいな顔で頷くのやめて。ポンポンと俺を叩いていた小鳥が声を上げる。
「岩兄ちゃん、腹回りも細くなってるぜ。小春、気合入れてかかれ」
「がんばる!」
「で、岩兄ちゃん、この手のケガどうしたの?外で付けたなら、よく無事だったね」
「管理舎で、ちょっと」
「なになに、面白そうな気配がするよ、森兄ちゃん!」
「そうだね。ちょっと話してよ」
結局、血をまき散らさなかった小春凄い、という評価がついて、小春の株がうなぎ上りになった。




