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外様郷  作者: かろうじて
23/98

23.守り名

今回短めです。




午後のバイトは問題なく終わった。

フミツキさんから「また是非来てね」と言ってもらい、レシピ本を借りる。


返却はいつでも良いそうだ。

パラパラめくると、俺でも作れそうなものが多くあり、次の休みに挑戦しようと思う。


帰りに食料品店に寄って四千円弱の買い物をする。もやしも買った。森津木さんと小鳥から借りたレシピ集にやけに出番が多いのだ。


「アンタ、迷い人のわりに、食費に金掛けるわね。店としては嬉しいけど。

雑貨屋のシロが、迷い人来なくて寂しいって、夕方になると遠吠えするから、今度寄ってあげてよ。

ね、私はチトセって呼ばれているわ。アンタと、そのちまいのの呼び名を、教えてくれる?」


郷の人から、初めて呼び名を聞かれた。これは、嬉しいな。


「俺は岩木って呼び名だよ。チトセって呼んでも良い?」

「いいわよ。岩木って呼ぶわね。良い守り名ね」


「お姉ちゃん、私は小春だよ。よろしくね」

「小春。可愛い名前ね。頑張ってるの、分かるわ。偉いね」

「えへへ」


「なあ、チトセ。守り名って何だ?聞いてもいいか?」


「あ、そっか、分からないか。お近づきの印に触りだけ説明してあげる。

守り名っていうのは、対象を守るために付けられた名よ。


言の葉には須らく力が宿るわ。言霊は分かる?

言の葉そのものに力が有るわけでは無い。

言の葉を紡ぐ者の想いが乗って、言霊となる。


人間だって、吐き出す言葉にはとても微弱だけど、力が宿る。


この郷の者なら、尚更ね。

乗せられる力が、重みが、人間とは比べものにならないもの。

言の葉の意味を知り、大切にする者はより効率的に力を乗せられるわ。


『岩木』と言う呼び名は、アンタにとっての守り名。


岩のように固く、重くあれ。

山とアンタを結ぶ字で土の属性でもある。


木のように根を下ろし、しなやかにあれ。

五行の一つでもある力ある言の葉。そのまま、木の属性ね。


土と木は本来相克。けれど、土が岩であることで山を挟み相生とまではいかなくても、相克を打ち消したのね。


『岩木』。

アンタが悪縁に流されないように付けられた見事な守り名。

完成された短い呪。

ましてや、郷の者がその名を呼ぶならば、そのたびに、アンタは守護を掛けられているのよ。


加えて『名』はその者の性質にも作用する。

舎長に願われ付けられた名なら、強力ね。アンタ自身が『岩木』に相応しい者になりつつあるのよ。


迷い人は通常、この郷に来て食欲が落ちるわ。己で作ってまで食べたくない。気力が無い。


どんどん食が細くなる者も少なくない。

でも、アンタ、初日からがっつり食料品買い込んでたでしょ。そしてコンスタントに買い物に来てるわね。


森津木ちゃんのおかげも有るんだろうけど、アンタの精神が異常に安定しているのも原因よ。

どんなに精神が強くても、慣れない環境、身の危険を感じる環境で、二、三日もしたら無理がたたるわ。


自分でも分かってないかもしれないけれど、アンタどんどん図太くなってるのよ。


一週間もしないうちに、こんなに気軽に買い物に来て、バニラエッセンスを買った迷い人はあんたが初めてよ。

まあ、初日に比べたら、痩せたけど、それも食欲がないんじゃなくて、食べ物が足りて無いんでしょう?」


「確かにベルト穴が一つ、小さくなりましたけど、パッと見で分かるほどですか」


「顔がこけたのよ」


自分の顔に手を当てる。実感はない。


「ま、いいわ。話を戻すわね。守り名については分かったかしら」


「分からないところも有ったけど、とても有り難いものだということは分かった」


「それで良いわ。

要は『岩木』という守り名が、アンタにとって、とても有利な札だということ。


アンタは舎長に感謝すべき。その幸運に感謝すべき。

日々の営みを、交流を大切になさい」


ああ、だから初日に銀さんが驚いたんだ。

森津木さんが言っていた。珍しく付けた守り名だって。


「少し、お喋りが過ぎたわね。じゃあ、岩木、小春、『また』来てね」


「そっかあ。なんか、嬉しいな。舎長に、皆に助けてもらっていたんだなあ。

うん、チトセ、教えてくれて有難う。また来るよ。小春と一緒に」

「うん、お姉ちゃん、『また』ね」




帰り道。

小春が小さく呟いた。


「言葉は、交わしてつなぎとめることも、できるの。私も頑張る。だから、返事をしてね、お兄ちゃん」


「返事をすればいいのか?バイト中とかは出来ないこともあるだろうけど、そん時は休憩まで待っててくれな、小春」


「あいっ」


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