17.日曜日
今回短めです。
翌朝、七時半に家を出て、森津木さんと一緒にもう一つの無人販売所に向かった。
もう一つの無人販売所は、アパートから北上して三十分の道のり。山々が連なる麓に、山の恵みを中心に置いているらしい。
「今の時期だと、銀杏とか。銀杏良いよね、臭いけど。茶碗蒸しとか一気に豪華になる」
森津木さんはウキウキである。
片道三十分だと一人で行くには怖い道のりだ。道中は田畑が広がり、穏やかな畦道だけど、逆に人目も無い。次に来るかどうか思案していると、道の横にある大きな二つの石が目に入った。
「あ、運が良いね、ドウソウさんがいる。」
森津木さんは石に寄って行く。
「おはようございます、ドウソウさん。良い天気ですね。僕ら二人、山の無人販売所に向かっています」
「む、森津木、お早う。隣の若いのは迷い人か。難儀なことよ。ふむ、二人で無人販売所に行きたいのだな。
ここで出会うも、何かの縁。よかろう、背を押してやろう」
石が喋った。
しかも微妙に跳ねている。
「わ、有難うございます。岩木、送ってくれるって」
「え、あ。有難うございます。岩木と言います、よろしくお願いします」
「なんと。岩の守を掲げたか。
おおう、嬉しや。かような縁、寿ぎよ」
二つの石が道の左右に移動して、三度跳ねると畦道が微かに光り始めた。
「行こう、岩木。
この道は招きの道。すぐに無人販売所に辿り着くよ」
森津木さんに促されて、光の道に足を踏み入れると、一歩で景色が変わった。
「ドウソウさんの道は安全で直通。出会えたら運が良いよ」
目の前に無人販売所がある。
そういや最初に石が喋るとか言ってたな…。RPGでお馴染みのワープとか、そんな感じか?
「あ。親芋が有る。岩木、この親芋美味しんだよ。
ホクホクになって、出汁と相性がいいうえ、冷めても美味しい。小鳥も大好き。二個しかないけど、両方、僕が買ってもいいだろうか」
里芋っぽい大きい芋を大事に抱えて聞いてくる。
「どうぞ、どうぞ」
「ありがとう、煮っ転がしを作ったらお裾分けするからね」
森津木さんは他にも銀杏を一袋買って、俺はエノキ一山とみかん五袋と柚子二袋を買った。みかんと柚子は、森津木さんと小鳥にも分けるつもりである。
帰りも驚きの送迎で、あっという間にアパートに近い畦道に着いた。お礼を、と思ってドウソウさんに話しかけようとしたら。
「あ、その石、今は空だよ。ドウソウさんは降りていない。
ドウソウさんは、石に降りているだけで、石が本体じゃないから。
気まぐれに石に降りてきては、田畑を見回り、道の守りをしてくれる。
基本見守り属性だから、滅多に姿を見かけない。出会えたら、運が良いってことだね。
別に石じゃなくても良い筈なのだけど、石が気に入っているのか、僕が見かけるときは、いつも石に降りているね」
お礼を言いそびれてしまった。仕方なく、ドウソウさんが入っていた空の石にみかんを二つお供えして、お礼を呟く。
結局、無人販売所の場所は正確に分からなかったが、あの道を約三十分真っすぐ歩けば着くよ、という森津木さんの言葉で解決した。
小鳥少年と合流し、今度は三人で食料品店に向かう。
朝早い時間なので、住宅街からの視線は一つもない。
「ごめんください」
「はーい、何をお探しですかって、噂の迷い人じゃない、一昨日ぶり」
「噂?」
「あまりに美味そうで昨日子供たちがオイタをして、高みの見物してた奴らも一網打尽。
制裁対象者が多すぎて、昨日は夕方から薬売りが火を噴きながら調合室に向かったってさ。しかも大物ひっかけたんだってぇ?」
「うわあ…。美味しそうって。引っ掛けたって、ええぇ。異議あり」
「僕ら、買い物に来たので、見て回ってもいいかな。気に入ったなら、岩木は置いていきますから」
「俺を生贄にしようとしている人がいる、小鳥少年助けて」
「岩兄ちゃん、ふぁいとー」
「やる気のない応援、いただきましたー」
「一緒に連れて行っていいわよ、特に気に入っているわけじゃないから」
「そう?じゃあ岩木、行くよ」
「何それ、ひどい」
三人でワイワイ言いながら買い物をする。
嗜好品コーナーで小鳥少年がファミリーパックのチョコレートの前から動かなくなってしまったので、俺と共同出資して半分こすることにした。
他にも日本酒と強力粉、蜂蜜などをカゴに入れる。
「岩木って、甘党だよね、初日に買った小麦粉も使って、ホットケーキでも作る気だろ?」
「甘いもの、好きなんですよ。ここでどうやって補給するか、死活問題です」
「そこまで」
「えっ、岩兄ちゃん、ホットケーキ作るの?俺のも、俺のも作って」
「おう、人様に食わせることができるものが作れたらな。当分無理だ、気長に待っててくれ」
「えー、失敗作でも、食べるのに」
結局、二千円弱の買い物をした。支給金とバイト代の残金が二万六百円になる。
これは、バイトを定期的にしないと、生活できないな。ケチャップやマヨネーズは後回しになってしまっているし。
アパートへの帰り道。
だんだんと苦手意識が出来上がりつつある。
まだ午前中なこともあって、突き刺す視線は感じなかったけど、昨日の今日だ。体が強張ってしまう。
「岩兄ちゃん、手え、繋いで引っ張ってー」
小鳥少年が返事も待たずに手を繋いでくる。
引っ張って、という割に、全く体重を乗せてこない。
昨日の少女は、消滅してしまったのだろうか。俺に、手を伸ばしていた少女は。
繋いだ小鳥少年の手は暖かい。
何だか泣きそうになって、慌てて思考を切り替えた。




