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外様郷  作者: かろうじて
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16.帰宅




あの後、森津木さんにお神酒をかけられ、小鳥少年と二人がかりで背中と言わず、頭も足も全身を叩かれた。痛い。


「岩木、風呂に入れ。いいか、長湯は禁止。湯船はすぐに洗うんだ」


そう言って、風呂に突っ込まれ、洗濯もすぐに回された。温まる前に湯船から出て、体を拭き、湯船を洗う。お湯が僅かに黒くなっていてゾッとした。




風呂から出ると、小鳥少年と森津木さんが団子を食いながら、バインダーを覗き込んでいた。


「あ、出てきた」

「白玉団子、俺が作ったの!きな粉だよ、食べる?」


小鳥少年は返事も聞かず紙袋からタッパーを出している。

先ほどまでの殺伐とした空間とは打って変わって、和やかな空間に俺はすぐに飛びついた。


「貰う、貰う」

「岩木のお茶、勝手にご馳走になってるよ、ほら、早く炬燵入って。今、岩木の分も淹れるから」

カラスの行水だったから冷えてしまった体に炬燵の温かさがじんわり染みる。


座ると即座にお茶を出され、小鳥少年にタオルを取られて頭を拭かれる。え、なに。

「もう、岩兄ちゃん。早くお茶飲んで」

言われるがままに、お茶を飲む。


「しょっぱい」

「清めの塩入れたから、我慢して。染み込んでしまっているから吐き出さずに飲み込んで。

ほら、小鳥作の白玉食べて、口直し」


何が染み込んでいるかなんて怖くて聞けないけれど、黒くなった湯船の水を思い出して己の精神衛生上忘れることにした。白玉、おいしい。


「で、何があったか興味本位で聞いても良い?」


歯に衣着せぬ男らしさ、さすがです、森津木さん。

ぽつりぽつりと、アルバイトは無事できた事、帰り道で災難にあったことを話す。


舎長が出てきた下りで二人とも「うわっ」とドン引いた。


「舎長が出るくらいの騒ぎだったんだ。今頃手足が飛んでるだろうなぁ」

「いやまて、ことり、それよりも、へんななまえが」

「森兄ちゃん、折角人が流したのに、何で拾っちゃったの」


二人からの居た堪れない視線を感じる。

やめて。


「はあ、岩木。舎長は『ダイの』って言ったんだよね。

君を助けたのは、おそらく、言動からしても、ダイジョウと呼ばれている大物だ。しかも、多分、目をつけられた。


彼の者に子供だましのお神酒など効き目はないし、本気で狩られに来たらひとたまりもないと思う」


生暖かい微笑みを向けられる。


「「ご愁傷さま」」


やめて。二人でユニゾンやめて。




「さて、今日の話題も提供してもらったし、小鳥」

「あ、そっか。岩兄ちゃん、スマホの充電器、探してきたんだ。二つあったけど、どっちか使える?」


今日の話題扱いを受けたものの、スマホの話題になって持ち直す。


「探してくれたんだ、有難う、助かるよ」


充電器を受け取る。あ、これならいけるかも。いそいそとスマホを取り出し、充電する。できた!


「合ったみたいだね、良かったな」

「小鳥少年~、有難うな」


小鳥少年を抱え込み頭を強引に撫でる。


「あ、兄ちゃん、髪の毛ぐちゃぐちゃになる、ストップ待てって」


知るものか。さっきの仕返しだ。小鳥少年の静止も非難も聞き流して、気が済むまで撫でる。ああ、癒される。恐怖を上塗りできるまで、俺は小鳥少年の頭を撫で続けた。



「もう、岩兄ちゃん、もう!」


ボサボサ頭の小鳥がさえずっている。

語彙が少ない小鳥少年可愛い。


「もう、岩兄ちゃんにレシピなんて貸してやんねぇ!折角森兄ちゃんと、初心者用レシピ探したのに!」


え、やった。


「うわ、嬉しい。有難う、二人とも!」

「だから、貸さないって言ってるだろっ」

「ごめんな、小鳥少年。許して」

「もう、ズルイったらズルイィ~。えいっ」


腕の中から小鳥少年が渾身の頭突きを俺の顎にかましてきた。


「っ!」

「これで、チャラだ!はい、レシピ!汚すなよ!」

「君ら、見ていて面白いねぇ」



痛む顎をさすりながら、バインダーのレシピを見せてもらう。森津木さんと小鳥少年の手書きだそうだ。

森津木さんは分かるけど、小鳥少年も意外に丁寧に書いていて驚いた。


「あ、大根レシピある、やった」


今日の晩御飯は大根だ。家にある物で作れてほっとする。


「岩木、僕ら明日、食料品店に午前中に行こうと思っているんだけど、一緒に来るかい?」

「是非。あと、森津木さん。もう一つお勧めの無人販売所有るって言ってたじゃないですか。できればそこも教えてもらえませんか」

「じゃあ、朝一で行こうか。七時半に出よう」


何だかんだとしていたら、午後四時を回っていた。

大急ぎで大根の煮物を森津木さん監修のもと何とかして作り、作った大根を三等分して、二人に分ける。

昨日と今日、お世話になりっぱなしだからな。二人とも、笑って受け取ってくれたから、良かった。


二人を見送り、ガランとした部屋を眺める。

本来なら、この状態で昨日の夜を迎えねばならなかった筈。小鳥少年は俺のために強引に泊まってくれたんだろうなぁ、と苦笑する。小さい子にまで気を使わせてしまったなぁ。早く慣れないと。




この郷の、一人の夜。

戸締りをしっかりして、布団を引く。今日は疲れたからきっと早めに眠くなるだろう。

それでもまだ午後七時。


テレビやネットが無いと、暇を持て余すものだ、と一瞬思ったが、普段からそんなに見ない。

そうだ、夜は飯食って、風呂に入って勉強してたんだ。教科書ならある。勉強しとこうか。いずれ、生還した時に損にはならないはず。


この郷で勉強をする自分が滑稽に思えたが、数少ない『俺』と繋がるものだ。大切にしなくては。今持っている教科書を確認していると、簿記の教科書が出てくる。


ああ、そうだ。

だから電卓を持っていたんだ。学校の取り組みの一環で、選択自由授業で簿記を選んだんだ。


折角だし、今日は簿記を勉強しよう。珈琲を入れて勉強を開始する。



集中が途切れるまで勉強をしたら午後十時になっていた。歯を磨いて早々に布団に入る。暗闇が、落ち着かない。


森津木さんと小鳥のおかげで充電できたスマホから、音楽アプリを起動する。


ああ、ダウンロードをもっとしておけば良かった。適当に音楽を選び、再生する。

耳慣れただろう音楽が、部屋に満ちて、やっと少し安心する。


そのまま眠気に誘われて、二日目の夜をやり過ごした。


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