第12話 ソロ冒険者のデッドヒート/蛇足
三日が過ぎた。
「ギルドナイトの噂、聞いたか?」
「ああ、聞いた聞いた。四班が『マークラント』の主力を壊滅させたらしいな」
「四班ってぇと『絶拳のバズーカ』がいるところか」
「やっぱ怖ェなぁ、あの真面目バカは……」
迷宮都市の冒険者達は、祭りの夜に起きた大立ち回りの噂で持ち切りだ。
しかし当の四班は噂とは関係なく、今日も職務に精励している。
――班長以外は。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夕刻、街の片隅にある酒場のドアが開く。
入ってきたのは、カブトだった。
この時間、狭い店内には不愛想な店主以外に客が一人だけ。
酒の匂いの漂う店で、カブトはその客が座るテーブルに相席する。
「待たせたかい? 俺は今来たトコだ」
「見ればわかりますよ……」
呆れ調子の先客は、私服姿のグレントだった。
向かい側に座ったカブトが、ケラケラ笑って話を始める。
「後始末、大変だったみたいだねぇ」
「ええ、どこかの趣味で冒険者をやってる方が無駄に引っかき回してくれたので」
「言いがかりオツ」
「せめて言わせてくださいよ。この三日、本当に大変だったんですから……」
グレントがグッタリとした様子で恨み節を披露する。
三日前の大立ち回りから、彼はずっとギルドの事務机に縛りつけられていたのだ。
「シャンティアが全力で走り回って壊した屋根の補修に関する補填の書類と、シャンティアが掘り抜いた坑道を塞ぐ予算に関する書類と、シャンティアが大立ち回りしたときに壊した建物の再建を経費でどうにかするための書類と――」
「全部、シャンティアちゃんじゃん」
「あいつに書類仕事は無理なので」
グレントは光が失せた瞳で、無表情にそう断言した。
「前に書類仕事をやらせたときは、大騒ぎになりましたし」
「何があった」
「字を書くのが嫌いだから、全部絵で描写しやがりました。全100ページ」
「超大作絵巻すぎる!」
真顔で説明するグレントに、カブトはこらえきれず爆笑した。
「色んな意味で逸材だな『絶拳のバズーカ』ちゃんは」
「いい子ですよ。バカですけど」
グレントは、なかなか趣深い物言いで、シャンティアを評した。
運ばれてきた蜂蜜酒を一口飲み、彼はほぉと一息つく。
「それにしても、やっと全部終わって休日が来たと思ったらカブトさんに呼び出されて、割と戦々恐々でこの店に来ましたよ、俺は……」
「何だよ~。三年前にギルドナイトの仕事手伝っただろ~」
「あれはあれで、思い出したくない記憶です」
カブトとグレントは他愛のない話をして、しばし盛り上がる。
運ばれてきたおつまみに手を伸ばし、話はひと段落したところで――、
「なぁ、グレント。ちょいとシャンティアちゃんを貸してくれねぇか」
と、カブトは彼らしからぬ真剣な面持ちで切り出した。
「二か月後に大きな仕事を控えててな。頭数がいるんだ」
ここで彼が言う『頭数』とは『大きな戦力を有する冒険者』のことだ。
それを正しく認識し、グレントは「はぁ……」と嘆息する。
「俺に直で頼んでくるくらいです。かなり大きな仕事なんでしょう。ですが……」
彼は、眉を下げて申し訳なさそうに首を横に振った。
「二か月後となるとギルドナイトを総動員した『大穴』攻略がある時期でして、シャンティアはすでに参加が決定しています。これは俺でも覆せません」
「あら~、それは残念……」
カブトは心底残念そうにつぶやき、天井を仰ぎ見た。
彼がこのような反応を見せるのは珍しく、グレントは妙に気にかかった。
「一体、どんな仕事なんですか?」
問われたカブトは、おつまみを口に放り込んで頬杖をついて答える。
「地獄を潰しに行くんだよ」




