表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫に選ばれなかった私、人生をやり直したら才能が開花しました  作者: snow☆rabbit


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/12

第9話:もう戻らないために

朝は、驚くほど静かだった。


目が覚めても、しばらく動かずに天井を見ていた。


(変わったな)


少し前までなら、まず考えていた。


今日はどう機嫌を取ろうか。

何をすれば怒られないか。

どうすれば“ちゃんとした妻”でいられるか。


でも今は——


(何もない)


考える必要がない。


気にする相手がいない。


ただ、それだけで。


(こんなに楽なんだ)


小さく息を吐く。


ゆっくりと体を起こす。


まだ少しだけ、痛みは残っている。


でも、動ける。


それで十分だった。


キッチンに立つ。


一人分の朝食。


量は少ない。


手間もかけていない。


でも。


(これでいい)


そう思えた。


食べ終わったあと、テーブルを片付ける。


そのまま、椅子に座る。


目の前に置いたのは、一枚の紙。


離婚届。


昨日、取りに行ったもの。


(あっさりしてる)


そう思う。


紙一枚で、終わる関係。


でも。


(もう、終わってた)


そう考えると、違和感はなかった。


ペンを手に取る。


名前を書く。


朝倉澪。


少しだけ、手が止まる。


(この名前で、終わる)


そう思った。


迷いはない。


静かに、書き終える。


印鑑を押す。


それで、自分の分は終わりだった。


(簡単だな)


拍子抜けするくらい、簡単だった。


でも。


(これでいい)


それでいいと思えた。


次に、スマートフォンを手に取る。


求人サイトを開く。


(何ができる)


自分に問いかける。


すぐには答えが出ない。


でも。


(やるしかない)


それだけは、はっきりしていた。


スクロールする。


職種。


条件。


場所。


ひとつひとつ、目を通していく。


(これなら)


一つ、目に留まる。


事務職。


経験は浅い。


でも。


(できる)


なぜか、そう思えた。


応募フォームを開く。


入力を始める。


手は止まらない。


迷いもない。


(前に進む)


それだけを考える。


送信ボタンを押す。


小さな音。


それだけで、一歩進んだ気がした。


スマートフォンを置く。


次に考えるのは、住む場所。


この部屋には、あまり物がない。


まとめるのは簡単だ。


(出ていこう)


そう決める。


理由は単純だった。


(ここにいる意味がない)


思い出も。


未練も。


何も残っていない。


ただの“場所”だった。


立ち上がる。


クローゼットを開ける。


必要なものを確認する。


整理する。


動きながら、ふと思う。


(泣かないな)


あれだけのことがあって。


全部終わって。


それでも。


涙は出ない。


でも。


(それでいい)


無理に感じる必要はない。


悲しまなくてもいい。


怒らなくてもいい。


ただ。


(進めばいい)


それだけで十分だった。


部屋の中を見渡す。


静かな空間。


何もない。


でも。


(悪くない)


そう思えた。


もう、戻らない。


戻る理由もない。


戻りたいとも思わない。


(私は、私でいい)


その言葉が、自然に浮かぶ。


それだけで、足は止まらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ