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夫に選ばれなかった私、人生をやり直したら才能が開花しました  作者: snow☆rabbit


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第7話:あなたは、そのままでいいのよ

退院してから、数日が経った。


体の痛みは、少しずつ引いていた。


日常に戻れる程度には、回復している。


でも。


(どこにも戻る気がしない)


その感覚だけが、残っていた。


部屋の中は静かだ。


必要最低限の家具。


音も、気配もない。


(ちょうどいい)


そう思う。


何もないことが、こんなに楽だとは思わなかった。


机の上に、小さな箱が置いてある。


祖母の遺品だった。


ずっと、開けていなかった。


開ける理由がなかった。


でも。


(今なら)


そう思った。


ゆっくりと、手を伸ばす。


箱は軽い。


ふたを開ける。


中に入っていたのは、古い手紙だった。


封筒の表には、見慣れた文字。


「澪へ」


(……おばあちゃん)


胸の奥が、わずかに揺れる。


手に取る。


紙は少し黄ばんでいる。


大切に保管されていたのが分かる。


ゆっくりと、封を開ける。


中の紙を取り出す。


震えは、ない。


ただ、静かに読み始める。


『澪へ』


最初の一行。


それだけで、懐かしさが込み上げる。


『元気にしていますか』


『あなたは昔から、少し無理をしすぎるところがあるから』


そこで、ふっと息が止まる。


(知ってたんだ)


祖母は、何も言わなかった。


でも、全部見ていた。


『ちゃんと笑えているか、少し心配です』


その一文で、胸の奥がじんわりと熱くなる。


(……笑えてたかな)


自分に問いかける。


答えは、すぐに出なかった。


『もし、誰かのために頑張りすぎているなら』


『少しだけ、休んでください』


ゆっくりと、呼吸をする。


(休む)


そんな発想は、なかった。


ずっと。


頑張ることしか考えてこなかったから。


『あなたは、そのままで価値がある子よ』


その一文を読んだ瞬間。


視界が、歪んだ。


(……あ)


初めて、感情が動く。


胸の奥が、強く揺れる。


『誰かに選ばれなくても』


『誰かに認められなくても』


『あなたの価値は、変わらない』


(ちがう)


これまで信じてきたものと、まったく違う。


『無理に愛されようとしなくていい』


『あなたは、自分で選んでいいの』


その言葉が、まっすぐに届く。


(私は……)


ずっと。


選ばれることばかり考えていた。


愛されるために。


必要とされるために。


自分を合わせて。


削って。


我慢して。


(全部、いらなかったんだ)


その事実が、遅れて心に落ちる。


『澪が幸せでいることが、一番大事です』


『それだけで、おばあちゃんは嬉しいです』


そこで、文字が終わっていた。


しばらく、動けなかった。


手紙を持ったまま、視線を落とす。


(……なんで)


どうして、もっと早く読まなかったんだろう。


どうして、気づかなかったんだろう。


(私は、間違ってた)


その認識が、はっきりと浮かぶ。


誰かに選ばれないと価値がない。


そう思い込んでいた。


でも。


(違う)


そうじゃない。


涙が、ゆっくりと頬を伝う。


ぽたり、と落ちる。


一滴。


もう一滴。


止まらない。


声は出ない。


でも、確かに泣いていた。


(ああ)


ようやく、分かる。


(私、ずっと我慢してたんだ)


気づかないふりをして。


見ないようにして。


全部、押し込んで。


(苦しかったんだ)


その感情が、一気に溢れ出す。


しばらく、泣き続けた。


時間の感覚は、なかった。


ただ、涙だけが流れていた。


やがて、少しずつ落ち着く。


呼吸が整う。


視界が、戻る。


手紙を見つめる。


(……おばあちゃん)


小さく呟く。


(ありがとう)


その一言が、自然に出た。


胸の奥に、温かいものが残る。


さっきまでの空っぽとは違う。


(私、どうしたい?)


自分に問いかける。


今度は、逃げない。


(終わらせたい)


はっきりと、そう思った。


あの関係を。


あの場所を。


全部。


(やり直したい)


誰かのためじゃなく。


自分のために。


(私の人生を)


ゆっくりと立ち上がる。


手紙を、大切に畳む。


箱に戻す。


(大丈夫)


今なら、そう思える。


(私は、私でいい)


その言葉が、しっかりと胸に残った。

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