第4話:崩れる前の、最後の静けさ
朝から、少し体が重かった。
熱はない。
でも、どこか鈍い違和感がある。
(疲れてるだけ)
そう判断する。
実際、ここ数日は眠りが浅かった。
考えすぎていたのかもしれない。
朝食を用意する。
「おはよう」
「……ああ」
いつも通りの会話。
変わらない。
でも。
(少しだけ、楽かも)
そう思った。
期待していないから。
何も求めていないから。
心が、少し軽い。
「今日、遅くなる?」
何気なく聞く。
「分からない」
短い返事。
その直後。
スマートフォンが震える。
視線がそちらに向く。
凛花
「分かった、行く」
即答だった。
(早いな)
それだけ思う。
もう、驚きもしない。
「行ってあげて」
自然に言葉が出る。
「……ああ」
特に何も言わず、準備を始める。
その背中を見ながら、思う。
(優しい妻でいたい)
そう思っていたはずなのに。
(もう、どうでもいいかも)
そんな考えが、少しだけよぎる。
でも。
深くは考えない。
雨が降り始めていた。
ぽつぽつと、小さな音。
外に出る。
傘は、持っていない。
(すぐ止むかな)
そう思って、歩き出す。
体が、少し重い。
足元が、少し不安定。
(大丈夫)
そう言い聞かせる。
でも。
雨は、少しずつ強くなっていく。
視界が滲む。
足元が滑る。
(あれ)
バランスを崩す。
その瞬間。
世界が、傾いた。




