第15話:気づけば、任される側になっていた
変化は、ゆっくりと始まった。
最初は、小さな違いだった。
「朝倉さん、これもお願いできますか?」
頼まれる仕事が、少しずつ増えていく。
内容も、少しずつ変わる。
単純な作業から。
判断が必要なものへ。
(増えてるな)
そう思う。
でも、嫌ではなかった。
むしろ。
(ちょうどいい)
そう感じていた。
一つ一つの仕事に、意味がある。
考える余地がある。
工夫できる。
それが、楽しかった。
「これ、どう思います?」
相談されることも増えた。
最初は、戸惑った。
(私に聞くんだ)
そう思った。
でも。
「こうした方がいいと思います」
自然に答える。
理由も添えて。
すると。
「なるほど、確かに」
納得される。
その繰り返し。
気づけば。
(任されてる)
そう感じる場面が増えていた。
ある日。
上司に呼ばれる。
デスクの前に立つ。
「少し大きめの案件なんですが」
そう前置きされる。
「サポートに入ってもらえますか?」
提示された内容は、これまでより明らかに重い。
関わる人数も多い。
責任も大きい。
普通なら。
躊躇する場面。
でも。
「はい、大丈夫です」
迷いはなかった。
自分でも、少し驚くくらいに。
(できる)
根拠は、まだ曖昧。
でも。
これまでの積み重ねが、それを支えていた。
実際に入ってみる。
全体の流れを見る。
(……遅い)
最初に感じたのは、それだった。
作業が滞っている。
情報の共有が曖昧。
役割分担も不明確。
(だから進まないのか)
原因が、すぐに見える。
「ここ、まとめた方がいいと思います」
提案する。
最初は、少し戸惑いがあった。
立場的に、まだ浅い。
でも。
「どういうこと?」
聞かれる。
説明する。
整理する。
流れを組み替える。
すると。
「……それでいけそうだな」
一人が頷く。
そこから、一気に動きが変わる。
停滞していたものが、流れ出す。
作業が進む。
スピードが上がる。
「助かりました」
そう言われる。
何人にも。
(……そっか)
そのとき、はっきりと分かる。
(私、価値出せてる)
誰かに必要とされる。
でも、それは以前とは違う。
(ちゃんと“中身”で)
評価されている。
その実感が、胸に残る。
数日後。
さらに変化があった。
「この部分、朝倉さんに任せていい?」
確認ではなく、前提としての依頼。
「はい」
自然に受ける。
もう、遠慮はなかった。
(やるべきことをやる)
それだけ。
気づけば。
周囲の視線も変わっていた。
最初は“新人”を見る目。
今は——
(頼れる人を見る目)
それが、分かる。
昼休み。
同僚の一人が話しかけてくる。
「朝倉さんって、前どこで働いてたんですか?」
少し不思議そうな顔。
「家庭に入ってました」
正直に答える。
「……え?」
驚かれる。
「それでこのレベルなんですか?」
思わず、苦笑する。
(そう見えるのか)
自分では、まだ実感が薄い。
でも。
(確かに、前とは違う)
それは、はっきりしている。
午後の仕事に戻る。
椅子に座る。
画面を開く。
(もっとできる)
自然に、そう思う。
限界を感じない。
むしろ。
(まだ余裕がある)
その感覚があった。
(だったら)
もっと。
やればいい。
手を動かす。
思考が回る。
無駄を削る。
最適化する。
それが、楽しい。
(仕事って、こういうものなんだ)
初めて、そう思えた。




