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夫に選ばれなかった私、人生をやり直したら才能が開花しました  作者: snow☆rabbit


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13/20

第13話:それ、普通じゃないですよ

初出勤の日。


少し早めに会社へ着いた。


ビルの前で立ち止まり、深く息を吸う。


(大丈夫)


そう言い聞かせて、中に入る。


受付を済ませ、案内される。


オフィスの空気は、どこか整っていた。


人の動き。


音の流れ。


すべてが、一定のリズムで回っている。


(こういう感じか)


少しだけ安心する。


席に案内される。


「今日からよろしくお願いします」


軽く頭を下げる。


周囲も、それぞれ軽く応じる。


過度に踏み込んでこない距離感。


それが、今の澪にはちょうどよかった。


最初は、簡単な業務からだった。


資料整理。


データ入力。


スケジュールの補助。


「分からないことがあれば、すぐ聞いてくださいね」


先輩がやさしく言う。


「はい」


素直に頷く。


実際、最初は確認しながら進める。


流れを把握するために。


一度やる。


二度目で、理解する。


三度目には、もう迷わない。


(こういう順番か)


頭の中で、処理の流れが整理される。


無駄な手順が見える。


(ここ、まとめられる)


自然に手が動く。


処理速度が上がる。


一つ終わる。


次。


さらに次。


気づけば、周囲よりも早く作業が終わっていた。


「もう終わったんですか?」


隣の席の人が、少し驚いた顔をする。


「はい」


普通に答える。


「……早いですね」


その言葉に、少しだけ首を傾げる。


(そうかな)


自分では、特別なことをしているつもりはなかった。


ただ、効率よくやっているだけ。


それだけのつもりだった。


別の日。


少し複雑な資料を任される。


「これ、少し時間かかるかもしれないので、無理しないでくださいね」


そう言われる。


「分かりました」


受け取る。


内容を確認する。


情報が多い。


でも。


(整理すればいい)


頭の中で、構造を組み立てる。


優先順位をつける。


不要なものを削る。


必要なものだけ残す。


(こうすればいい)


手を動かす。


集中する。


時間の感覚が、少し曖昧になる。


そして。


「終わりました」


資料を提出する。


まだ、あまり時間は経っていない。


「え?」


先輩が目を見開く。


「もうですか?」


「はい」


資料を受け取る。


その場で、目を通し始める。


数秒。


沈黙。


さらに数秒。


「……これ」


小さく呟く。


「すごく整理されてますね」


驚きと、少しの戸惑いが混じった声。


「見やすいですし、抜けもないです」


「本当に初めてですか?」


その問いに、少しだけ考える。


「はい」


正直に答える。


嘘ではない。


でも。


(そんなに違うのかな)


まだ実感がない。


その日の終わり。


上司に呼ばれる。


デスクの前に立つ。


「この資料、あなたがやったんですね」


「はい」


頷く。


上司は、少しだけ黙ってから言った。


「……想像以上です」


静かな声。


でも、その言葉には重みがあった。


「正直に言うと、ここまでできるとは思っていませんでした」


まっすぐに見られる。


(評価されてる)


その実感が、遅れて胸に広がる。


「ありがとうございます」


自然に言葉が出る。


照れでも、遠慮でもなく。


ただ、受け取る。


それができた。


デスクに戻る。


椅子に座る。


少しだけ、息を吐く。


(……あれ)


ふと、思う。


(私)


これ、普通にできてる。


それだけじゃない。


(ちゃんと、できてる)


むしろ。


(評価されてる)


その事実が、じわじわと広がる。


これまで。


自分が何かを“できる”と思ったことはなかった。


誰かに必要とされるために動くことはあっても。


自分の力で評価されることは、なかった。


(初めてかも)


そんな感覚だった。


ふと、手を止める。


キーボードの上に指を置いたまま。


(……私)


もしかして。


(できる側だった?)


その考えが、頭をよぎる。


すぐには信じられない。


でも。


今日一日の出来事が、それを否定しなかった。


(分からない)


まだ、確信はない。


でも。


(もう少し、やってみよう)


そう思えた。


それだけで、十分だった。

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