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夫に選ばれなかった私、人生をやり直したら才能が開花しました  作者: snow☆rabbit


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第11話:静かな部屋で、初めて自由を知った

引っ越しは、驚くほどあっけなかった。


段ボールは、五箱だけ。


衣類と、最低限の生活用品。


それから、少しの本。


それだけで、これまでの生活は収まってしまった。


(少ないな)


そう思う。


もっと何かあった気がしていた。


思い出も。


積み重ねも。


でも。


形にすると、これだけだった。


業者が帰り、ドアが閉まる。


部屋の中に、静寂が落ちる。


ワンルーム。


広くはない。


でも。


(十分だ)


そう思えた。


部屋の真ん中に立つ。


何もない空間。


音も、気配もない。


(……静かだ)


耳を澄ます。


何も聞こえない。


誰かの足音も。


ため息も。


機嫌をうかがう気配もない。


ただ、自分の呼吸だけ。


(こんなに、楽なんだ)


その感覚が、ゆっくりと体に染みていく。


これまで、無意識に気を張っていたことに気づく。


音を立てないように。


空気を乱さないように。


余計なことを言わないように。


(全部、いらなかった)


そう思うと、肩の力が抜けた。


窓に近づく。


カーテンを開ける。


外の光が、部屋に差し込む。


少しだけ眩しい。


窓を開ける。


空気が入れ替わる。


冷たい風が、頬に触れる。


カーテンが揺れる。


それだけで、十分だった。


床に座る。


背中を壁に預ける。


視線は、何もない部屋の中心。


(ここから、始める)


その言葉が、自然に浮かぶ。


不安は、少しもなかった。


ゼロからのスタート。


普通なら怖いはずなのに。


(戻らない)


その決意の方が、ずっと強かった。


過去に。


あの場所に。


あの関係に。


戻ることは、もうない。


(だから、進むだけ)


それでいいと思えた。


少しして、立ち上がる。


段ボールを開ける。


必要なものを取り出す。


一つずつ、場所を決める。


小さな作業。


でも。


(全部、自分で決めてる)


その事実が、妙に心地よかった。


誰かの顔色をうかがう必要もない。


正解を探す必要もない。


(私が決める)


それだけでいい。


スマートフォンを見る。


求人サイトを開く。


昨日送った応募の返信は、まだ来ていない。


(まあ、そうだよね)


焦りはない。


(やることはある)


他の募集も見る。


条件を確認する。


選択肢を増やす。


一つに依存しない。


それだけで、気持ちが安定する。


(大丈夫)


根拠はない。


でも、そう思えた。


しばらくして、ふと手を止める。


静かな部屋。


自分一人。


(……私、ちゃんと生きてる)


その実感が、ゆっくりと広がる。


誰かのためじゃなく。


評価のためでもなく。


(自分のために)


それが、こんなにも自然で。


こんなにも軽いものだとは思わなかった。


小さく息を吐く。


「……よし」


誰にも聞こえない声。


でも、それでいい。


もう、誰かに聞かせる必要はない。


そのまま、もう一度立ち上がる。


(やること、やろう)


その一歩は、小さかった。


でも確実に、“前”に進んでいた。

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