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RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第二章

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第二十一話 課題

「ロゼリア小隊に伝令!前進!」


リシアの命令が届く。


それを聞いたリゼットは、すぐさま剣を掲げた。


「よーし!行くよ!」


前方には、敵中央。


ここを押せば、左右で生まれた優勢をさらに広げることができる。


リゼットは大きく息を吸った。


「ロゼリア小隊、突撃ー!」


「おおっ!」


明るく、力強い号令。


それに応えるように、ロゼリア小隊が一斉に駆け出した。


勢いのまま敵中央へ迫り、その前線へぶつかる。


「押せー!」


リゼットの声が響く。


兵士たちが次々と敵へ剣を振るう。


だが。


「……っ!」


止まった。


勢いよくぶつかったはずのロゼリア小隊が、敵の前衛を押し切れない。


それどころか。


敵兵たちはロゼリア小隊の突撃を正面から受け止めながら、ほとんど隊列を乱していなかった。


「まだまだ!押すよ!」


リゼットが声を上げる。


ロゼリア小隊も前へ出ようとする。


剣と剣が激しくぶつかり合う。


何度も。


何度も。


だが、敵の前線は崩れない。


一人を押しても、その後ろから別の兵士が支える。


僅かに間が開いても、すぐに別の兵士が埋める。


想像していた以上に。


敵中央は厚い。


そして。


次第にロゼリア小隊の前進が止まった。


「くっ……!」


リゼットの表情から、先ほどまでの余裕が消える。


その時だった。


「押し返せ!」


敵側から声が上がった。


敵兵たちが一斉に前へ出る。


「うっ!」


ロゼリア小隊の兵士が一歩下がる。


隣の兵士も押される。


止まっていた戦線が。


今度は逆方向へ動き始めた。


「まずい……」


リゼットは左右へ目を向けた。


右では、ブロッカ小隊とオベール小隊が敵を押している。


反対側でも、ローウェン小隊が敵を崩し始めている。


味方は優勢。


だからこそ。


ここを抜かれるわけにはいかない。


中央が崩れれば、左右で作った優勢そのものが意味を失う。


「守りに切り替えるよ!」


リゼットが叫ぶ。


「押し負けるな! なんとしてもここを守るよ!」


「はい!」


ロゼリア小隊が踏みとどまろうとする。


だが。


敵の圧力は強かった。


「ぐっ!」


一人。


前線にいた兵士が倒れる。


そのすぐ後。


「うわっ!」


二人目。


「くそっ!」


三人目。


立て続けに三人が倒された。


「三人、前へ!穴を埋めて!」


後方にいた兵士たちが、すぐさま前へ出る。


崩れかけた前線を埋める。


だが。


それでも止まらない。


「ぐっ……!」


「うわぁ!」


前方から、次々と味方の呻き声が聞こえてくる。


少しずつ。


確実に。


ロゼリア小隊が押し込まれていく。


「くそっ……!」


リゼットが剣を強く握った。


このままでは。


抜かれる。


「総員、突撃!」


リゼット自身が前へ出る。


「これ以上抜かせないよ!」


「おおっ!」


兵士たちとともに敵へ飛び込む。


自分が前に出てでも。


ここだけは守る。


剣を振るう。


敵の攻撃を受ける。


さらに踏み込む。


それでも。


敵中央の勢いは。


止まらなかった。


◇ ◇ ◇


「ラウル!」


戦場を見ていたコルティオが叫んだ。


「中央が崩れてるっす!」


「何?」


ラウルがすぐに中央へ目を向ける。


ロゼリア小隊。


明らかに押されている。


コルティオもさらに目を凝らす。


「このままじゃ抜かれちゃうっす!」


ラウルは戦場全体を確認した。


右では、ブロッカ小隊とオベール小隊が敵左軍と交戦を続けている。


そして中央。


ロゼリア小隊の戦線が、明らかに後ろへ下がっている。


さらに。


こちらへ向かっているルビック小隊。


すでにローウェン小隊を支援するために動き始めている。


今から中央へ向かわせても。


間に合うか。


「……」


考えている時間はない。


ラウルはすぐに振り返った。


「テオ!」


「はい!」


「ルビック小隊へ伝令!」


ラウルは前方を指した。


「ここの一部をルビック小隊に任せる! 俺たちは一部を中央へ回すと伝えてくれ!」


「了解!」


テオが走り出す。


ラウルは再び中央を見る。


まだ。


ロゼリア小隊は戦っている。


なら。


間に合わせる。


「コルティオ!」


「はいっす!」


「中央へ行くぞ!」


「了解っす!」


ラウルは残った中央・後方の隊員たちへ声を飛ばした。


「ついてこい!」


そして。


走り出す。


ロゼリア小隊のもとへ。


一刻も早く。


「急げ!」


ラウルたちは戦場を駆ける。


だが。


その途中。


中央から大きな声が聞こえた。


「抜いたぞ!」


「……!」


ラウルの表情が変わる。


前方を見る。


ロゼリア小隊の戦列。


その中央を。


敵兵たちが抜けていた。


「くそっ!」


コルティオが声を漏らす。


敵小隊は、そのまま止まらない。


崩れたロゼリア小隊の間を抜け。


さらに奥へ。


ルミエル中隊本陣へ向かっていく。


「間に合え……!」


ラウルも走る。


だが。


届かない。


敵兵が本陣へ到達する。


そして。


訓練終了を告げる声が。


戦場に響いた。


敗北。


それが。


今回の模擬戦闘訓練の結果だった。


◇ ◇ ◇


訓練終了後。


リシアの前に、五人の小隊長が集まっていた。


マーク・オベール。


コルド・ルビック。


ガレス・ブロッカ。


リゼット・ロゼリア。


そして。


ラウル・ローウェン。


先ほどまで響いていた剣戟も怒号も、今はない。


しばらく。


誰も口を開かなかった。


「……すみません」


最初に沈黙を破ったのは、リゼットだった。


いつもの明るさはない。


「私が抜かれたのが、今回の敗因です」


俯きながら、拳を握る。


中央を任されていた。


そして。


そこを突破された。


だが。


「お前の責任じゃない」


マークが口を開いた。


リゼットが顔を上げる。


「お前たちが当たった小隊、かなり経験を積んでいた。動きを見ても、明らかに慣れていた」


マークは腕を組む。


「その力量を事前に見極められなかった。それも敗因の一つだ」


「でも……」


「負けた理由を、一つにするな」


リゼットが黙る。


その横で。


ガレスが不機嫌そうに舌打ちした。


「チッ……。それでも中央を力で押し切られたのは事実だろ」


「ガレス」


リシアが名前を呼ぶ。


「分かってる」


ガレスは顔を背けた。


「……負けたのが気に食わんだけだ」


リシアは五人を見渡した。


「マークの言う通りよ」


静かに口を開く。


「ロゼリア小隊が対面した相手が強かった。それは事実」


リゼットを見る。


「でも、中央を突破されるまでが早かったのも事実よ」


「……はい」


「だから、そこは課題として受け止めないといけない。もっと小隊として力をつける必要がある」


「はい」


リゼットが頷いた。


リシアは次にガレスとマークを見る。


「右軍は良かった」


二人がリシアへ目を向ける。


「ブロッカ小隊は、敵の攻撃を受けながら前線を維持できていた。それに、押すと決めてからの力も強かった」


ガレスは黙って聞いている。


「そこをオベール小隊の連携が支えた。個々の力と連携。二つの小隊が互いの強みを生かせていたと思う」


「ありがとうございます」


マークが答える。


続いて。


リシアはラウルへ視線を向けた。


「ローウェン小隊も良かった」


「はい」


「側面攻撃。あれは見事だったわ。実際に敵小隊を崩している」


ラウルは静かに頷く。


だが。


勝ってはいない。


どれだけ一つの場所で上手く戦えても。


中隊として負ければ。


結果は敗北だ。


「そして」


リシアの声が少し低くなる。


「私にも問題があった」


五人がリシアを見る。


「ローウェン小隊が敵を崩した時、私はその優勢をもっと広げようとした」


リシアは先ほどの戦場を思い返す。


ローウェン小隊が敵右軍を崩した。


だから。


さらに押せると思った。


「それでルビック小隊を、ローウェン小隊の支援へ向かわせた」


コルドが黙って聞いている。


「でも、その結果」


リシアは一度言葉を切った。


「予備がいなくなった」


誰も口を挟まない。


「全部の小隊を前へ出した。その直後に、中央が崩れた」


ロゼリア小隊が突破された時。


すぐに救援へ向かわせられる部隊は。


もう残っていなかった。


「ルビック小隊まで前へ出したのは、私の失策よ」


リゼットが何かを言おうとする。


だが。


リシアは首を横に振った。


「だから、あなた一人の責任じゃない」


「……」


「ロゼリア小隊には、もっと力をつける必要がある」


リゼットが頷く。


「相手の力量を、もっと早く見極める必要もある」


マークが静かに聞く。


「予備をどこまで残すかも考えないといけない」


コルドが僅かに目を細める。


そして。


リシアは最後に自分自身へ向けるように言った。


「私も、中隊長としてもっと考えないといけない」


誰か一人が。


全てを間違えたわけではない。


誰か一人のせいで。


負けたわけでもない。


小隊の力。


敵の見極め。


予備戦力の使い方。


そして。


中隊長の判断。


勝てなかったからこそ。


見えたものがある。


リシアは五人の小隊長を見渡した。


「今日見つかった課題を、次に残さないようにしましょう」


「はい」


五人の声が重なる。


初めての模擬戦闘訓練。


その結果は。


敗北。


だが。


その敗北で見つけたものは。


決して。


一つではなかった。

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