第十九話 それぞれの役割
「ローウェン小隊に伝令!」
ルミエル本陣から、一人の兵士が駆けてくる。
ラウルはすぐにその姿に気付き、伝令へ身体を向けた。
「ルミエル中隊長より! ローウェン小隊、前進せよ!」
「了解!」
ついに来た。
ラウルはすぐさま左右を見る。
「コルティオ、ベルン!」
「はいっす!」
「はい!」
「準備するぞ」
二人の返事を聞くと、ラウルは隊員たちへ振り返った。
これまで待機していた十一人の視線が、一斉にラウルへ集まる。
「ローウェン小隊――前進!」
「はい!」
十二人が動き出した。
前衛にはロッコ、ベルン、アレン、グレゴール。
その後ろ、中央にはラウル、コルティオ、ハンス、エレナ、ザック、ニコ。
そして後衛にはテオとノエル。
これまでの訓練で見てきた、それぞれの特徴。
その全てを踏まえて組んだ隊形だった。
誰か一人が戦うのではない。
十二人で一つの小隊として、ローウェン小隊は初めて他の小隊との戦いへ進んでいく。
◇ ◇ ◇
右軍では、すでに激しい攻防が始まっていた。
ブロッカ小隊とオベール小隊。
二つの小隊が、先ほど一度崩した敵左軍へ再び攻勢を仕掛けている。
「押し込め!」
ガレスの声とともに、ブロッカ小隊の兵士たちが前へ出る。
一人一人の力が強い。
敵が正面から押し返そうとしても、それをさらに力で押し返していく。
対して、オベール小隊の戦い方は違った。
「焦るな! 間を詰めろ!」
マークの声が飛ぶ。
一人が前へ出れば、その隣も遅れずに続く。
「揃えろ!」
兵士たちは互いの位置を確認しながら、足並みを崩さない。
誰か一人だけが突出することなく、互いを補いながら前へ進む。
ブロッカ小隊が個々の力で敵を押し込むなら、オベール小隊は高い連携力で敵を崩していく。
二つの小隊が、それぞれ異なる強みを使って敵左軍へ圧力をかけ続けていた。
その攻勢は、別の場所にも影響を与えている。
ラクシス中隊は右側への対応を迫られている。
その分だけ、これから戦うローウェン小隊は動きやすくなる。
前進しながら右側を確認したコルティオが、思わず声を漏らした。
「右軍、勢いすごいっすよ」
「ああ」
ラウルも一瞬だけ右側を見る。
だが、すぐに正面へ視線を戻した。
他の小隊が作ってくれた流れ。
それを無駄にはできない。
「来るぞ!」
前方からベルンの声が響いた。
ローウェン小隊の前衛と、ラクシス中隊右軍。
互いの距離が一気に縮まる。
そして――。
ぶつかった。
「ぬぅっ!」
ロッコの低い唸り声が響く。
その巨体で敵の攻撃を受け止め、そのまま力で押し返す。
隣では、アレンの剣が激しく敵の剣とぶつかり合っていた。
甲高い金属音が、何度も戦場へ響く。
「押し返せぇ!」
さらに前方から、グレゴールの怒声が飛ぶ。
剣を振るい、真正面から敵兵へ食らいつく。
長く戦場に立ってきた古参兵らしく、敵の攻撃を受けても簡単には体勢を崩さない。
前衛四人が、それぞれのやり方で敵右軍を受け止めていた。
その中でベルンは、自ら剣を振るいながらも周囲を見ることを忘れない。
アレンが一歩前に踏み込む。
だが、その直後。
「出過ぎるな!」
ベルンから指示が飛ぶ。
「っ、はい!」
アレンが周囲との距離を確認し、僅かに位置を調整する。
ベルンはすぐに別の方向へ目を向けた。
「ロッコ! しっかりついてこい!」
「お、おう!」
ロッコも必死に前へ出る。
だが、周囲の速度についていくには、その巨体はどうしても不利だった。
僅かに遅れ、隣との間が開きかける。
その時だった。
「ふんっ!」
グレゴールが敵の剣を弾き、そのまま力強く押し返した。
敵兵が数歩下がる。
生まれた僅かな間。
グレゴールは横を見る。
「ロッコ!」
「……!」
「ついてこい!」
それだけ言うと、グレゴールは再び敵へ向き直った。
「おう!」
ロッコが力強く答え、開きかけた距離を詰める。
中央にいるラウルは、その様子を見ていた。
グレゴールは、まだ自分を認めたわけではない。
昨日も、はっきりとそう言われた。
それでも今は。
同じ小隊の仲間が遅れれば、敵を押し返して時間を作る。
ラウルは何も言わず、再び前衛全体へ目を向けた。
ロッコ。
ベルン。
アレン。
グレゴール。
四人は崩れていない。
敵右軍を、しっかりと正面で受け止めている。
なら。
次だ。
「エレナ」
ラウルが短く呼ぶ。
「はい!」
中央で待っていたエレナが、すぐに反応する。
「準備しろ」
「了解!」
それだけで十分だった。
事前に決めていた動きへ、エレナが移る。
その様子を見て、ザックとニコも動き出した。
エレナ。
ザック。
ニコ。
三人が前衛の後ろから、敵の側面へ回る準備に入る。
前衛四人が敵を押さえている。
その間に。
別方向から崩す。
だが、ラウルが見ているのは目の前だけではなかった。
「コルティオ」
「はいっす」
「敵中央と、敵左軍の動きを見ておいてくれ」
「了解っす」
コルティオはすぐに視線を広げる。
右側では、ブロッカ小隊とオベール小隊が敵左軍へ攻勢を続けている。
中央でも、両軍の動きが少しずつ変わり始めていた。
一つの場所だけを見ていれば、別の場所で起きた変化を見落とす。
そのために。
コルティオがいる。
ラウルは前方へ視線を戻した。
前衛では、ベルンが戦いながら周囲へ指示を出している。
ロッコは、その身体と力で敵を受け止める。
アレンは、持ち前の剣の腕で前へ出る。
グレゴールは戦いながら、遅れた仲間を支えた。
そして今。
エレナ、ザック、ニコが次の攻撃へ備えている。
後ろには。
テオとノエルもいる。
誰か一人だけで戦う必要はない。
それぞれに。
できることがある。
その力を。
一つにする。
「……」
ラウルは戦場を見据えた。
ローウェン小隊の戦いは。
まだ。
始まったばかりだった。




