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RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第二章

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第十八話 初動の利

午後。


ルミエル中隊とラクシス中隊による、模擬実戦訓練が始まった。


訓練場の両端には、それぞれの中隊が陣を構えている。


ルミエル中隊は前方に三つの小隊を配置。


左にローウェン小隊。


中央にロゼリア小隊。


右にブロッカ小隊。


そして後方、ルミエル本陣の左右にはオベール小隊とルビック小隊が控えていた。


前方の三小隊で敵の動きを受け、後方の二小隊を状況に応じて動かす。


それがリシアの組んだ陣形だった。


やがて。


訓練開始の合図が響く。


その直後だった。


「……!」


ラウルの目が動く。


ラクシス中隊の左側。


一つの小隊が、開始と同時に一気に前へ出た。


速い。


こちらの出方を窺うつもりなどない。


最初から、ルミエル中隊の右側を狙っている。


「敵左軍、来ます!」


本陣から声が上がった。


リシアもすぐに反応する。


敵左軍の正面にいるのは、ガレス・ブロッカ率いるブロッカ小隊。


「ブロッカ小隊に連絡!」


リシアが叫ぶ。


「応戦し、戦線の維持に努めるように伝えて!」


「はい!」


伝令がすぐに本陣を飛び出し、ブロッカ小隊へ向かって走っていく。


敵はすでに迫っている。


だが、ローウェン小隊とロゼリア小隊は動かなかった。


事前の作戦通り、その場で待機する。


ラウルも指示を出さない。


今は、自分たちが動く場面ではない。


「隊長」


隣にいたコルティオが右側へ目を向ける。


「ブロッカ小隊が敵と交戦を始めたようっす」


遠くから剣同士がぶつかる音と、兵士たちの声が聞こえてくる。


ラウルは黙ったまま、その戦況を見つめた。


開始直後から攻めてきた敵。


迷いのない動きだった。


「ラクシス中隊は、突破力に定評がある中隊だ」


ラウルの言葉に、近くにいた隊員たちが顔を向ける。


「みんな、気を抜くなよ」


「はい!」


何人もの隊員が頷き、再び前方へ視線を戻した。


◇ ◇ ◇


「押せ!」


敵兵が勢いのままブロッカ小隊へ攻撃を仕掛ける。


だが、ブロッカ小隊は下がらない。


「崩れるな! 戦線を維持しろ!」


ガレス・ブロッカ大尉の声が響く。


敵の攻撃を正面から受け、一人が押されれば隣の兵士が支える。


一歩。


また一歩。


敵の勢いを受け止めながら、確実にその力を削っていく。


ブロッカ小隊は、兵士一人一人の地力が強い。


ルミエル中隊の中でも、正面から敵を受け止める役割を任せられる小隊だった。


そして当然、リシアもそれを理解している。


本陣から戦況を見つめていたリシアは、敵の勢いが鈍り始めたことに気付いた。


(止めた)


ブロッカ小隊なら、敵の突撃を止められる。


そう判断したからこそ、最初から戦線の維持を命じた。


ならば。


次に動かすのは――。


「オベール小隊!」


リシアが声を上げる。


後方。


本陣右側に配置されていたマーク・オベール大尉の小隊へ、伝令が走る。


「ブロッカ小隊の右後方から回り込ませて! 敵の側面を狙わせる!」


「はい!」


命令を受けたオベール小隊が動き始める。


正面ではブロッカ小隊が敵を押さえている。


その後方から回り込み、敵の側面を突く。


ローウェン小隊からその動きを見ていたベルンが口を開いた。


「隊長」


「うん?」


「オベール小隊が側面攻撃に出るようです」


ラウルも右側へ視線を向ける。


敵の意識は、正面にいるブロッカ小隊へ集中している。


その側面へオベール小隊が入れば、大きく戦況を動かせる。


「決まれば、初動はこちらが優勢になりますね」


「ああ」


ラウルは迷いなく進んでいくオベール小隊を見つめた。


その先頭には、マーク・オベール大尉がいる。


ラウルにとっては、かつて同じルミエル小隊で戦った上官でもある。


「オベール大尉は、ルミエル中隊長の側近だ」


ベルンがラウルを見る。


「必ず成功させるはず」


その言葉に、ベルンも再び戦場へ視線を戻した。


◇ ◇ ◇


ブロッカ小隊と敵小隊の戦闘は、まだ続いていた。


敵は何度も正面突破を試みる。


だが、ブロッカ小隊は崩れない。


その時だった。


「敵側面!」


ラクシス中隊の兵士が声を上げる。


気付いた時には、すでにオベール小隊が迫っていた。


「行け!」


マークの号令とともに、オベール小隊が敵の側面へ突入する。


「なっ――!」


正面にはブロッカ小隊。


そして側面にはオベール小隊。


二方向から攻撃を受けた敵小隊は、必死に陣形を維持しようとする。


だが。


一人。


また一人。


模擬戦上の戦闘不能者が出ていく。


「よし!」


ルミエル本陣から声が上がった。


側面攻撃は、見事に決まった。


しかし、ラクシス中隊も黙って見ているわけではない。


「敵後方から援軍!」


新たな小隊が、崩れかけた敵左軍へ向かって進んでくる。


マークもすぐにその動きに気付いた。


ここで深追いすれば、今度は自分たちが新手と正面からぶつかることになる。


「一度下がるぞ!」


オベール小隊が敵から離れる。


数名を戦闘不能に追い込み、敵の陣形を崩した。


十分な成果だった。


ブロッカ小隊も戦線を維持するという役目を終え、敵との距離を取りながら後方へ下がっていく。


「……」


ラウルは、その一連の動きをじっと見ていた。


敵の突撃をブロッカ小隊で受け止める。


勢いが止まった瞬間、オベール小隊を側面へ回す。


そして敵の援軍が来れば、無理に戦わず一度下がる。


敵に損害を与えながら、こちらは必要以上の消耗を避けている。


初動。


明らかに、ルミエル中隊が取った。


「まずは、こっちが取ったっすね」


コルティオが少し嬉しそうに言う。


「ああ」


ラウルも頷く。


だが。


まだ始まったばかりだ。


一度優勢になったからといって、そのまま勝てるわけではない。


敵も、こちらの動きを見ている。


次にどう動くのか。


ラウルは戦場全体へ視線を広げた。


「次は」


コルティオが自分たちのいる左側へ目を向ける。


「こっちの左軍っすかね」


ローウェン小隊は、まだ一度も動いていない。


中央のロゼリア小隊も同じだった。


「いや」


ラウルはすぐに答えなかった。


先ほど攻撃を受けた敵左軍を見る。


援軍によって崩壊こそ免れた。


だが、一度崩された陣形が完全に立て直されたわけではない。


「今は、敵左軍が崩れている」


「……」


「だったら、もう一度右軍からの攻撃を考えた方がいいと思う」


ベルンも戦況を見ながら頷いた。


「私もそう思います」


だが。


ベルンはそれだけでは終わらなかった。


「ただ、こちらも合わせて攻める手はありますね」


「……ああ」


ラウルも同じことを考える。


右側へ敵の意識と戦力を集めさせ、その間に中央や左側から攻める。


それも一つの手だった。


だが。


決めるのは自分ではない。


ラウルは本陣を見る。


リシアは。


どうする。


答えは、すぐに出た。


本陣から伝令が走る。


向かった先は――。


再び。


右軍。


「ブロッカ小隊、オベール小隊に伝令!」


リシアの声が響く。


「二小隊で、敵左軍へ再度攻勢を仕掛ける!」


「はい!」


「……!」


ラウルの目が細くなる。


予想通りだった。


リシアは、初動で作った敵の綻びを見逃さない。


一度目は。


ブロッカ小隊で止め。


オベール小隊で崩した。


そして今度は。


その二つを同時に前へ出す。


「来たっすね」


コルティオが呟く。


「ああ」


ラウルは右側を見つめる。


初動で得た僅かな利を。


ただの一度の成功で終わらせない。


敵が立て直す前に。


さらに押し込む。


ブロッカ小隊。


オベール小隊。


二つの小隊が並ぶようにして、再び前進を始める。


ルミエル中隊右軍。


二度目の攻勢が。


始まった。

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