第十七話 様変わり
誰もが目を疑っていた。
「……」
ザック・ヘルマン。
これまで。
訓練中もどこか不満そうで。
指示を出されれば。
面倒そうな顔をする。
時には露骨に反発する。
そんな男だった。
だが。
今は違う。
「ザック!」
ラウルの声。
「もう一度だ!」
「はい!」
すぐに。
ザックが動く。
剣を構え。
指示された動きを繰り返す。
「そこ!」
今度は。
コルティオが声を上げる。
「一人で前に出過ぎないっす!」
「すみません!」
「周りを見るっすよ!」
「お、おう!」
「……」
周囲の隊員たちが。
思わずその姿を見る。
あのザックが。
ラウルとコルティオの指示を素直に聞いている。
それだけではない。
真剣だった。
言われたことを。
ただ。
こなしているのではない。
自分から。
身につけようとしている。
明らかに昨日までとは違っていた。
だが。
変わったのは。
ザックだけではない。
「もう一度お願いします!」
アレンが剣を握り直す。
もともと。
ラウルへ憧れにも似た感情を持っていたアレン。
昨日の集団戦闘訓練で。
その思いはさらに強くなっていた。
ハンスも。
黙々と。
槍を振るう。
ニコも。
ノエルも。
これまで以上に。
訓練へ集中していた。
昨日。
全員が見た。
自分たちの隊長が。
何を考えているのか。
強い者だけを使うのではない。
一人一人を見て。
役割を与える。
そして。
その力を合わせて。
勝つ。
昨日の集団戦闘訓練は。
ラウルがそれを結果として示した戦いだった。
「……」
少し離れた場所から。
ラウルは隊員たちを見ていた。
その隣。
コルティオが腕を組む。
「だいぶ」
隊員たちを見る。
「形になってきたっすね」
「ああ」
ラウルも。
頷く。
「なんとか、間に合いそうだな」
最初は。
どうなることかと思った。
経験も。
年齢も。
性格も。
得意なことも。
全く違う。
十二人。
それが。
少しずつ。
一つの小隊になり始めている。
「隊長」
後ろから。
声がした。
ラウルが振り返る。
ベルンだった。
ベルンも。
訓練している隊員たちを見る。
「かなり良くなりましたね」
「ああ」
「ただ」
ベルンが。
一人へ。
視線を向ける。
「あとは、グレゴールだけですね」
「……」
ラウルも。
同じ方を見る。
グレゴール・バーデン。
昨日の訓練。
ラウルの指揮をまだ認めないと言い。
訓練場を立ち去った。
「きっと」
ラウルが言う。
「分かってくれるさ」
ベルンがラウルを見る。
根拠があるのか。
それとも。
信じているだけなのか。
だが。
ラウルの表情に焦りはなかった。
その時。
「隊長!」
声。
ニコがこちらへ走ってくる。
「どうした?」
「ルミエル中隊長から連絡です!」
ニコが息を整える。
「六月五日に、中隊訓練を実施するとのことです!」
「……!」
ラウルの目が僅かに変わる。
ついに来た。
中隊訓練。
ローウェン小隊だけではない。
同じ中隊に所属する。
他の小隊も。
参加する。
今まで。
自分たちだけで作ってきたものが。
初めて外へ出る。
「了解した」
ラウルが。
ニコへ頷く。
「ありがとう」
「はい!」
ニコが。
訓練へ戻っていく。
その背中を見送り。
コルティオがラウルを見る。
そして笑った。
「頑張りますか!」
「ああ」
ラウルも。
訓練場を見る。
「頑張ろう」
◇ ◇ ◇
アルメリア歴174年6月5日。
ルミエル中隊。
合同訓練。
中隊に所属する兵士たちが。
訓練場へ集まっていた。
ローウェン小隊。
そして。
同じ中隊に所属する。
他の小隊。
これだけの人数が。
一堂に集まる。
ラウルにとっても。
小隊長となってから初めての経験だった。
やがて。
兵士たちの前へ。
一人の女性が立つ。
リシア・ルミエル少佐。
ルミエル中隊長。
「これより!」
声が。
訓練場へ響く。
「合同中隊訓練を行う!」
兵士たちの。
表情が引き締まる。
「午前!」
リシアが続ける。
「指揮訓練!」
そして。
「午後は!」
一度。
全員を見る。
「ラクシス中隊との模擬戦闘訓練を行う!」
「……!」
ラウルの目が。
僅かに動いた。
ラクシス中隊。
午後には。
別の中隊を相手に。
実戦形式の訓練を行う。
「以上!」
リシアが。
言い切る。
「各小隊長は、こちらへ!」
その声にラウルが動く。
マーク。
コルド。
ガレス。
リゼット。
そして。
ラウル。
ルミエル中隊。
五人の小隊長が。
リシアのもとへ集まる。
そこで。
午前に行う。
指揮訓練の概要が説明された。
そして。
訓練が始まった。
◇ ◇ ◇
午前。
指揮訓練終了。
ラウルは。
小さく息を吐いた。
初めての。
中隊規模での訓練。
自分の小隊だけを。
見ていればいいわけではない。
他の小隊。
中隊長からの指示。
周囲の動き。
見るべきものが。
一気に増える。
まだ。
足りないものはある。
だが。
小隊長になったばかりの頃と比べれば。
明らかに。
違っていた。
「ラウル」
聞き慣れた声。
振り返る。
リシアだった。
「中隊長」
リシアが。
ローウェン小隊を見る。
そして。
ラウルを見る。
「いよいよだな」
「……はい」
ラウルも。
自分の小隊へ目を向ける。
コルティオ。
ベルン。
グレゴール。
エレナ。
ロッコ。
テオ。
ハンス。
ノエル。
ザック。
ニコ。
アレン。
最初は。
ただ。
集められただけだった。
それが。
今は少し違う。
「なんとか」
ラウルが言う。
「形になりました」
リシアが僅かに笑う。
ラウルも彼女を見る。
「せっかく」
少し。
笑みを浮かべる。
「小隊長に任命していただいたんです」
そして。
午後。
これまで作ってきた。
ローウェン小隊が。
初めて。
別の中隊と戦う。
「期待に応えられるように」
ラウルは。
はっきりと言った。
「頑張りますよ」
リシアは。
そんなラウルを。
静かに見ていた。




