第七話 統治問題
ローウェン小隊が実戦訓練を行っていた頃。
王都。
王宮では。
別の問題が話し合われていた。
戦争は終わった。
ドルドウィン公爵家による反乱も。
大勢は決した。
だが。
それで全てが元に戻るわけではない。
むしろ。
戦いが終わったからこそ。
決めなければならないことがある。
その一つが。
領地の統治だった。
「陛下」
レオニードが口を開く。
「各領地の統治については、どうなさいますか?」
シャルルは。
机の上に広げられた地図へ目を落とした。
アーヴァルト王国。
その中にある。
いくつもの領地。
「アーノルド公爵とセルナース侯爵には」
シャルルが言う。
「これまで通り、領地の維持を任せたい」
「はい」
問題は。
そこではない。
シャルルの視線が。
地図の一角へ移る。
「だが」
指先が止まった。
「旧ドルドウィン公爵領をどうするかは、考えものだな」
ダールトン・ドルドウィン。
王国に反旗を翻した公爵。
その領地を。
今までと同じように扱うことはできない。
誰に任せるのか。
どのように統治するのか。
一つ間違えれば。
新たな火種になりかねない。
レオニードが答える。
「領地を任せるのであれば」
少し考え。
「現在、王都直轄地を任せている者から選ぶのがよろしいかと」
シャルルが顔を上げる。
「グラディウス・アーシェル伯爵」
そして。
「レオンバルト・ガルネスト伯爵」
二人の名を挙げる。
「いずれかであれば、任せることも可能かと」
「……だが」
シャルルの表情は晴れない。
「その場合、直轄地はどうする」
レオニードが黙る。
王都直轄地。
ただ。
王家が直接管理している土地というだけではない。
「直轄地は」
シャルルが続ける。
「王都に対する最終防衛地だ」
敵が。
王国の奥深くまで侵入した時。
最後に。
王都を守る。
その役割を持つ土地。
「そこを任せる相手は、慎重に選ばねばならんぞ」
「仰る通りです」
レオニードも。
簡単には否定できなかった。
旧ドルドウィン公爵領を任せるために。
王都の守りを弱くしては意味がない。
一つを解決すれば。
別の問題が生まれる。
「ドルドウィン側についた伯爵と子爵については」
レオニードが言う。
「爵位を剥奪しております」
そして。
「一部は投獄しておりますし……」
残った貴族たち。
その顔を。
頭の中で一人ずつ思い浮かべる。
「残る貴族と言いますと……」
「……」
シャルルも考える。
しばらく。
沈黙が続いた。
やがて。
シャルルが顔を上げた。
「あやつはどうだ」
「……?」
レオニードが見る。
シャルルが。
一人の名を口にした。
「モーリス・オルセイン!」
「……オルセイン様ですか?」
レオニードが。
少し驚いたように聞き返す。
「オルセイン様は御子息に爵位を譲り、隠居されているはずですが」
「ああ」
シャルルも知っている。
すでに。
現役の伯爵ではない。
爵位を息子へ譲り。
表舞台から退いている。
だが。
シャルルは。
迷わなかった。
「呼び戻そう」
「陛下」
「緊急事態なのだ」
シャルルは言う。
「背に腹はかえられぬ」
レオニードは。
少し考えた。
そして。
確認する。
「では」
「旧ドルドウィン公爵領は、オルセイン伯爵にお任せするということでよろしいですか?」
「ああ」
シャルルが頷く。
「そうしてくれ」
そして。
レオニードを見る。
「うまく引き継ぎを頼む」
「承知いたしました」
「それと」
シャルルが続ける。
「代官はレオニードが選んでくれ」
「私が、ですか」
「ああ」
旧ドルドウィン公爵領だけではない。
統治を立て直す以上。
任せるべき者を。
改めて決める必要がある。
「分かりました」
レオニードが頭を下げる。
「適任者を選定いたします」
「頼む」
シャルルは。
椅子から立ち上がった。
「私は、もう一つの案件を片付けてくる」
「もう一つ……」
レオニードは。
それ以上は聞かなかった。
「畏まりました」
シャルルが。
部屋を出ていく。
扉が閉まった。
「……」
残されたレオニードは。
机の上の地図を見る。
旧ドルドウィン公爵領。
王都直轄地。
残された貴族。
代官。
戦争で。
王国の形は大きく揺らいだ。
一つ。
決めれば。
次が出てくる。
レオニードは。
小さく息を吐いた。
「さてさて……」
そして。
誰もいなくなった部屋で。
一人。
呟く。
「困りましたな」
戦争は終わった。
だが。
国を立て直す仕事は。
まだ。
始まったばかりだった。




