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RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第二章

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第四話 訓練開始

翌日。


ローウェン小隊の本格的な訓練が始まった。


朝。


宿舎前に集められた隊員たちは。


十分に身体をほぐした後。


ベルンの前に並んでいた。


「それでは始める」


ベルンが全員を見渡す。


「まずは腕立て伏せ、五十回」


隊員たちが一斉に地面へ手をついた。


「一!」


ベルンの声が響く。


「二!」


その掛け声に合わせ。


全員が身体を上下させていく。


少し離れた場所では。


ラウルとコルティオがその様子を見ていた。


今日の目的は。


ただ鍛えることではない。


見ること。


誰が。


何を得意としているのか。


何を苦手としているのか。


昨日。


ラウルが隊員たちへ話した。


適材適所。


そのための。


最初の訓練だった。


「四十九!」


身体を上げる。


「五十!」


全員が終える。


続いて。


腹筋。


背筋。


一通りの基礎訓練を行った。


ラウルは。


一人ずつ動きを見ていく。


多少の差はある。


だが。


ここまでは。


誰一人として遅れなかった。


(基礎的な身体は作れているか)


少なくとも。


兵士として最低限の訓練は受けている。


問題は。


ここからだった。


◇ ◇ ◇


「次!」


ベルンの指示で。


訓練内容が変わった。


剣。


そして槍。


実戦ではなく。


まずは基本となる太刀筋や武器の扱いを見る。


ここからは。


コルティオも訓練へ参加した。


隊員たちが。


順番に剣を振る。


ラウルは腕を組み。


その動きを見ていた。


その中で。


まず目についたのは。


グレゴール・バーデン。


「……」


剣が振り下ろされる。


鋭い。


余計な動きが少ない。


もう一度。


剣を振る。


(やっぱり、いいな)


昨日。


ラウルの方針に明らかな不満を見せていた古参兵。


だが。


剣を持たせれば。


その軍歴が嘘ではないことが分かる。


(ゴルドウィン大隊長に近い気がする)


もちろん。


その域に達しているという意味ではない。


だが。


剣の振り方。


身体の使い方。


長く実戦を経験した者に見られるものが。


どこか似ている。


そして。


もう一人。


ラウルの目が止まった。


アレン・クレイド。


剣を振る。


「……」


速い。


次。


無理がない。


身体の軸も。


大きく崩れない。


(かなり剣筋がいい)


隣で。


同じくアレンを見ていたコルティオが口を開いた。


「クレイドは」


少し楽しそうに。


「昔の僕やラウルみたいっすね」


ラウルも頷いた。


「ああ」


アレンが再び剣を振る。


「俺もそう思うよ」


まだ。


実戦経験がどの程度あるのかは分からない。


だが。


剣を扱う素質。


それは。


十分に感じられた。


◇ ◇ ◇


続いて。


槍。


こちらは。


剣ほど目立つ者はいなかった。


持ち方。


突き。


払い。


足運び。


一人ずつ確認していく。


(使い慣れていない者が多いな)


良くても並。


剣を主としてきた者が多いのだろう。


そんな中。


一人だけ。


明らかに違う動きをする者がいた。


ハンス・レイデル。


槍を構える。


一歩。


踏み込む。


鋭く突き出す。


そのまま引き。


今度は身体を使って槍を払う。


ラウルの目が細くなる。


(いいな)


槍に振り回されていない。


むしろ。


自分の手足のように扱っている。


(槍捌きがいい)


ただ訓練で覚えた。


それだけには見えない。


(過去に何かやっていたのかもしれないな)


ラウルは。


ハンスの名前を頭に残した。


◇ ◇ ◇


午前の基礎訓練が終了する。


休憩を挟み。


午後。


今度は走り込みが始まった。


ベルンも隊員たちの中へ入る。


ラウルとコルティオは参加せず。


走る者たちを観察した。


目的は。


基礎体力の確認。


一周。


まだ。


全員が走っている。


二周。


大きな変化はない。


さらに。


周回を重ねる。


五周。


六周。


七周。


次第に。


隊員たちの呼吸が荒くなっていく。


十周。


そこで。


はっきりと差が現れ始めた。


一人。


列から遅れる。


さらに。


一人。


足が止まる。


「はぁ……はぁ……」


膝へ手をつく者。


地面へ座り込む者。


一人。


また一人。


脱落していく。


それでも。


走り続ける者がいる。


ベルン・クラウゼル。


呼吸は乱れている。


それでも。


足は止まらない。


アレン・クレイド。


ハンス・レイデル。


そして。


「……」


ラウルが少し意外そうに見る。


ザック・ヘルマン。


軍服を崩し。


過去に何度か問題を起こしている兵士。


そのザックが。


黙々と走っていた。


苦しそうではある。


だが。


止まらない。


最後まで残ったのは。


ベルン。


アレン。


ハンス。


ザック。


四人だった。


ラウルは。


その名前を。


しっかりと覚えていた。


◇ ◇ ◇


その日の訓練が終わった。


夜。


ラウルの部屋。


机を挟み。


ラウルとコルティオが今日一日の結果を振り返っていた。


「コルティオはどう見た?」


ラウルが尋ねる。


コルティオは少し考え。


「体力不足の隊員が多いっすね」


「やっぱりそう思うか」


「基礎訓練は問題なかったっす」


だが。


「走り込みで浮き彫りになったっすね」


「ああ」


ラウルも同意する。


「特にノエル・リードだな」


「そうっすね……」


コルティオの表情が少し曇る。


「剣も槍も並以下っす」


今日見た動きを思い返す。


「戦闘には不向きっすね」


ラウルは黙った。


ノエル・リード。


体力。


剣。


槍。


今日確認した範囲では。


どれも目立たない。


むしろ。


兵士として見れば。


厳しい。


(軍人は戦闘が基本の業務だ)


それなのに。


なぜ。


戦闘に向いていない者が。


軍人を続けているのか。


(何か理由があるのだろうか)


だが。


まだ。


一日見ただけだ。


決めつけるには早い。


「剣と槍といえば」


コルティオの声が明るくなる。


「アレンとハンスはすごいっすね!」


「ああ」


「僕と同等か、それ以上の逸材っすよ!」


ラウルが小さく笑う。


「随分評価するな」


「だって、実際すごかったっす!」


「そうだな」


ラウルも否定しない。


「これからが楽しみだ」


どこまで伸びるのか。


実戦でどう動くのか。


まだ。


分からない。


だからこそ。


見てみたい。


「それから」


コルティオが言う。


「ザックっす」


「ザック?」


「根性あるっすね」


今日。


最後まで走っていた男。


「態度は悪いっすけど」


「そうだな」


ラウルは少し考える。


ザックについて。


名簿だけを見れば。


問題を起こした兵士。


実際。


服装も褒められたものではない。


だが。


今日の訓練では。


手を抜かなかった。


最後まで走った。


「ザックは」


ラウルが言う。


「何か、自分なりの筋があるのかもしれないな」


「筋っすか?」


「ああ」


少し言葉を選ぶ。


「自分の中で納得できるものと、できないものがあって」


机へ肘を置く。


「それに合わなければ、問題を起こす」


コルティオも考える。


「なるほど……」


「まだ分からないけどな」


「よく見ておくっすね」


「ああ」


ラウルが頷く。


「頼む」


そして。


ふと思い出す。


「そういえば」


「はい?」


「気づいたか?」


「何にっすか?」


「テオの動き」


「テオっすか?」


コルティオが首を傾げる。


「いや、何かあったっすか?」


「走り込みの時だ」


ラウルは言う。


「倒れた隊員に水を持っていっていた」


「……ああ」


「それだけじゃない」


遅れた者。


疲れ切った者。


そんな隊員に。


テオは自然に近づいていた。


「肩を貸したりもしていた」


コルティオが少し驚く。


「そんなことしてたんすね」


「ああ」


一見すれば。


大したことではない。


誰かが苦しんでいる。


助ける。


それだけ。


だが。


「自分も同じ訓練をしている中で、なかなかできることじゃない」


ラウルは。


以前の自分を思い出していた。


負傷した兵士。


それを助ける者。


戦うだけでは。


部隊は成り立たない。


コルティオが笑う。


「よく見てるっすね」


「見るのが仕事だからな」


「そういうのも必要っすもんね」


「ああ」


ラウルは頷いた。


「ルミエル小隊で学んだことだ」


自分が。


そこで何を見て。


何を学んだのか。


今度は。


自分の小隊で使う。


「活かさないとな」


少しの沈黙。


ラウルが立ち上がった。


「そろそろ行くか」


コルティオも立つ。


「そうっすね!」


◇ ◇ ◇


宿舎の外。


すでに。


日は沈んでいた。


辺りを照らしているのは。


僅かな灯りだけ。


そんな中。


二人の姿があった。


ラウル。


コルティオ。


二人は。


向かい合う。


剣を構えた。


そして。


個人訓練を始める。


小隊長。


副官。


少尉。


昨日までとは。


立場が変わった。


だが。


二人はまだ。


二十二歳。


軍人としても。


決して経験豊富とは言えない。


指揮官になったからといって。


自分たちの鍛錬を止める理由にはならない。


だから。


二人は事前に決めていた。


小隊の仕事が終わった後も。


可能な限り。


個人訓練を続ける。


剣と剣がぶつかる。


夜の宿舎に。


乾いた音が響いた。


「っ!」


コルティオが踏み込む。


ラウルが受ける。


そのまま。


二人は距離を取った。


また。


構える。


そんな二人を。


宿舎の中から。


見ている者がいた。


窓の向こう。


一人の女性。


エレナ・ローフェンス。


彼女は。


何も言わない。


ただ。


夜になっても訓練を続ける。


新しい小隊長と。


その副官を。


静かに見つめていた。

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