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RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第一章

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第六十話 変革

「このままでは、他国にまた攻められてもおかしくありませんよ!」


王宮の一室。


重苦しい空気の中で、強い言葉を放ったのはロバーツ・アーノルドだった。


その声が室内に響く。


「今回は押し返したとはいえ、帝国軍を壊滅させたわけではないのです」


ロバーツは机に手を置いた。


「ゴルディア帝国は、まだ諦めてはいないはずです」


誰も言葉を挟まない。


「それだけではありません。ソルドーニ連邦国やモルドア王国とて、状況次第ではどう動くか分からない」


ロバーツの視線が、その場にいる者たちを順に捉えていく。


「早急に手立てを考えなくては!」


その言葉を受け。


レオポルト・セルナースが静かに口を開いた。


「アーノルド公爵の言う通り。私も同感です」


ロバーツとは対照的に、その口調は落ち着いていた。


だが。


語られる内容は決して軽くない。


「旧ドルドウィン公爵領の統治問題」


一つ。


「残る叛乱分子の鎮圧」


二つ。


「そして、王国軍の再編」


三つ。


レオポルトは僅かに間を置いた。


「それだけではありません」


視線を国王へ向ける。


「今回の一件を考えれば、今後の王国そのものの統治方法についても、議論する必要があるでしょう」


室内が静まった。


誰も否定できなかった。


帝国軍による侵攻。


ダールトン・ドルドウィンによる叛乱。


各地で発生した混乱。


そして。


それらが同時に起きたことで、王国は一時。


外からも。


内からも。


崩されかけた。


これまでと同じままでよい。


そう考える者は。


この場にはいなかった。


しばらく黙っていたシャルルが、ようやく口を開いた。


「分かっておる」


静かな声だった。


「此度」


シャルルは一度、目を伏せる。


「王国軍の多大なる犠牲によって、この国は救われた」


戦場で倒れた者。


帰ってこなかった者。


傷を負った者。


その全ての上に。


今、この王都がある。


「兵士たちの犠牲を、無駄にはできん」


レオニードが頷く。


「急務は、叛乱分子の鎮圧と王国軍の再編でしょう」


そして続けた。


「こちらに関してはヴァレン長官に一任し、早急に進めさせます」


「うむ」


「問題は、旧ドルドウィン公爵領です」


レオニードは机上の資料へ目を落とした。


「今回と同じことを二度と起こさぬためにも、今後どのような形で統治するのかは熟慮すべきかと」


「しかし」


ロバーツがすぐに口を挟む。


「その間、放置するわけにはいきません!」


「無論だ」


シャルルが答えた。


そして。


レオニードを見る。


「統治方法を決定するまでの間」


レオニードも国王へ視線を向ける。


「レオニード」


「はい」


「旧ドルドウィン公爵領の統治を、お前に任せる」


僅かな沈黙。


「すまぬが、やってくれるか?」


レオニードは表情を変えなかった。


「王命とあらば」


短く答える。


シャルルは頷いた。


それで。


旧ドルドウィン公爵領の問題が解決したわけではない。


むしろ。


これからだった。


領内に残る者たち。


ダールトンに従った者。


従わなかった者。


叛乱に巻き込まれただけの者。


行政。


税。


治安。


そして。


公爵という巨大な権限を失った土地を。


今後、王国がどう扱うのか。


一つ決めれば。


また別の問題が出てくる。


その日の議論は。


日が沈んでも終わらなかった。


王国軍。


領地。


貴族。


王都。


地方。


国境。


外交。


これまで当然のものとして扱われてきた仕組みそのものが。


今。


問い直されようとしていた。


議論は。


深夜まで続いた。


◇ ◇ ◇


同じ頃。


軍務長官室。


ヴァレンは机に座り。


その向かいに立つオルファムから、一枚の報告書を受け取っていた。


紙面の上部には。


こう記されている。


――アルメリア歴一七四年四月二十八日。


――戦死報告書。


ヴァレンは黙って目を通す。


数字を見た瞬間。


その眉が僅かに動いた。


オルファムが口を開く。


「戦死者、四千百五十八名」


一呼吸置く。


「行方不明者、百五名です」


ヴァレンは報告書から目を離さなかった。


「……多いな」


「はい」


オルファムも表情を曇らせる。


「過去最大です」


部屋が静かになる。


四千百五十八。


数字だけなら。


ただの記録だった。


だが。


その一人一人に。


名前があり。


家族があり。


所属する部隊があった。


ヴァレンは報告書を机へ置いた。


「早急に軍の再編が必要だ」


そして。


オルファムを見る。


「お前はどう思う?」


「必要なのは兵数だけではありません」


オルファムはすぐに答えた。


「この戦争では、旅団長を含む将兵も多数戦死しています」


ヴァレンの表情が険しくなる。


「兵を集めたとしても、それを率いる者がいなければ軍として機能しません」


「……そうだな」


「迅速に指揮官を確保する必要があります」


ヴァレンは腕を組んだ。


戦争で失ったものは。


兵士だけではない。


経験を積んだ士官。


部隊を率いる者。


判断を下す者。


そうした人材も。


同時に失われている。


「各地で募兵を行う」


ヴァレンが言った。


「まず兵を確保する」


「はい」


「国王陛下には俺から連絡しておく」


ヴァレンは少し考え。


続ける。


「指揮官については……」


視線を報告書へ落とす。


「今回の功績を基準に昇格させる」


オルファムが黙って聞く。


「戦場で結果を出した者を上へ引き上げる。そして、育成していくしかない」


「それしかないかと」


「時間はかかる」


「はい」


「だが、待ってはいられん」


ゴルディア帝国が。


次にいつ動くかは分からない。


王国内にも。


まだ叛乱に加担した者が残っている。


軍が弱った今だからこそ。


敵が動く可能性もある。


ヴァレンは椅子の背へ身体を預けた。


「叛乱分子の件はどうなっている?」


「軍務長と近衛長で連携し、洗い出しを進めています」


オルファムが答える。


「すでに主要な関係者の確認は始まっています。然程、時間は掛からないものと思います」


ヴァレンはゆっくり頷いた。


「その件はお前に任せる」


「はい」


ヴァレンの目が鋭くなる。


「全て洗い出せ」


オルファムの表情も変わった。


「一人残らずだ」


「……承知しました」


「徹底的に排除しろ」


「はい」


オルファムは頭を下げる。


そして。


報告書を数枚まとめ。


部屋を出ていった。


扉が閉まる。


軍務長官室に。


ヴァレンだけが残った。


机の上には。


積み重なった報告書。


戦死者。


負傷者。


行方不明者。


失われた部隊。


不足する兵。


不足する指揮官。


これから補わなければならないものが。


あまりにも多い。


ヴァレンは立ち上がった。


そして。


窓の前へ歩く。


外には。


夜の王都が広がっていた。


戦争は終わった。


少なくとも。


戦場で剣を振るう時間は。


一度、終わった。


だが。


王国が元に戻ったわけではない。


失ったものを補い。


壊れたものを作り直し。


そして。


同じことを繰り返さないために。


変えなければならない。


ヴァレンは。


何も言わず。


しばらく窓の外を眺め続けていた。


アーヴァルト王国は。


これから。


変わらなければならなかった。

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