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RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第一章

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第四十一話 響く怒号

シュトライザー軍本隊から離れたハーネス旅団は、大きく右へ迂回しながら戦場を進んでいた。


目指すのは、ジルライト軍右軍。


ローズ軍と交戦しているハウゼン旅団との合流だった。


その隊列の中には、リシア・ルミエル率いるルミエル小隊の姿もある。


ラウルは周囲の兵士たちと足並みを揃えながら、次第に大きくなっていく戦場の音を聞いていた。


剣と剣がぶつかる音。


兵士たちの叫び声。


指揮官の怒号。


ここまでとは明らかに違う。


戦場が近い。


旅団の先頭付近を進んでいたネル・ハーネスが声を張り上げた。


「このまま味方右軍に合流する! 足並みを揃えよ!」


命令が後方へ伝達されていく。


ルミエル小隊も速度を合わせ、そのまま前進した。


リシアが振り返る。


「もうすぐ前線よ! 気を引き締めて!」


「はい!」


小隊員たちが応える。


ラウルも剣の柄へ手を添えた。


木々の間を抜け、視界が開ける。


そこから先は、すでに戦場だった。


ジルライト軍の兵士たちとローズ軍の兵士たちが激しくぶつかっている。


押しては押し返され、また踏み込む。


だが、戦線を見たコルティオが眉をひそめた。


「拮抗……というより、苦戦してるっすね」


「そうね」


ナタリアも戦場を見つめる。


その視線が、敵兵の一団で止まった。


「……あの兵士たち何? かなり重装備じゃない?」


ラウルも同じ場所を見る。


前線に並ぶ敵兵たちは、これまで見てきた兵士とは明らかに違った。


胴だけではない。


肩や腕、脚まで厚い防具で覆われている。


敵の剣を受けても簡単には下がらず、盾と重い装備を生かして少しずつ前へ進んでいた。


ラウルが実戦で重装歩兵を見るのは初めてだった。


(あの防御力じゃ、簡単には押し返せない)


剣を当てるだけでは足りない。


正面から力任せにぶつかれば、こちらの方が先に消耗する。


ジルライト軍が苦戦している理由が、ラウルにも分かった。


その時だった。


「ハーネス旅団、戦闘準備!」


ネルの声が響く。


隊列の空気が一変した。


兵士たちが武器を抜く。


ラウルも剣を抜いた。


「このまま敵右軍の横っ腹を突く!」


ネルは剣を前へ向けた。


「ハウゼン旅団の攻め所を作るわよ!」


次の瞬間。


ハーネス旅団が動いた。


正面からハウゼン旅団と戦っていたローズ軍へ、その側面から一気に襲いかかる。


「ルミエル小隊、行くわよ!」


リシアが駆け出した。


「固まって敵軍に穴を開ける! 離れないで!」


「はい!」


ルミエル小隊が続く。


ラウルも走った。


敵兵がこちらへ気づく。


重装歩兵が向きを変え、剣を構えた。


リシアが最初にぶつかった。


敵兵が振り下ろした剣を僅かに身体をずらしてかわす。


そのまま一歩踏み込む。


リシアの剣先が、厚い装甲そのものではなく、その繋ぎ目へ滑り込んだ。


敵兵の身体が崩れる。


リシアは止まらない。


剣を抜くと、すぐに次の敵へ向かった。


無駄のない、洗練された剣捌きだった。


「前を空けるな!」


コルド・ルビックが敵兵の剣を受け、その身体を押し返す。


横からマーク・オベールが踏み込み、重装歩兵の体勢を崩した。


倒れた敵兵の脇を、コルティオが駆け抜ける。


「こっちは任せるっす!」


敵兵同士の僅かな隙間へ身体を滑り込ませる。


重装歩兵が振り返ろうとした瞬間、その足を払った。


重い装備が災いし、敵兵が地面へ倒れる。


コルティオはその隙を逃さなかった。


剣を突き立て、すぐに次へ走る。


ラウルも敵兵と剣を交えた。


重い。


受けた瞬間、腕へ衝撃が走る。


ラウルは真正面から押し合わず、剣を流した。


敵の身体が僅かに前へ傾く。


その隙に横へ回り込む。


装甲の薄い部分を狙って剣を突き込んだ。


敵兵が倒れる。


だが、その向こうからすぐに次の兵士が現れた。


「まだ来る!」


ナタリアの声。


ルミエル小隊が側面から食い込んでも、ローズ軍は崩れない。


一人倒せば、その後ろから別の兵士が穴を埋める。


厚い装備に守られた兵士たちが、互いに支え合いながら戦線を維持していた。


リシアが周囲を見る。


ハーネス旅団の他の部隊も敵軍へ食い込んでいる。


それでも、敵の戦列はまだ残っている。


(これ以上は厳しいか……)


無理に奥へ入り込めば、今度はこちらが包まれる。


そう判断しかけた時だった。


「ルミエル隊長!」


ラウルの声にリシアが振り向く。


ラウルは敵軍の向こうを指した。


「ハウゼン旅団が動いています!」


リシアが見る。


側面からの攻撃に合わせ、正面で戦っていたハウゼン旅団が攻勢を強めていた。


敵兵が前と横、二方向への対応を迫られている。


「分かった!」


リシアはすぐに剣を掲げた。


「ルミエル小隊! 私たちはここで踏ん張るぞ!」


隊員たちが応える。


「これ以上、敵を前へ出すな!」


再び激突した。


正面からハウゼン旅団。


側面からハーネス旅団。


ローズ軍は二方向から圧力を受け始める。


それでも重装歩兵は踏み止まった。


敵兵が叫びながら押し返してくる。


一人。


二人。


倒しても、戦列そのものは崩れない。


ラウルは息を整えながら剣を構え直した。


強い。


個々の防御力だけではない。


これだけ押し込まれても、まだ部隊として形を保っている。


その時。


戦場の喧騒を切り裂くような声が響いた。


「押し返せぇぇぇぇぇぇ!!」


空気が震えた。


ラウルが思わず声の方向を見る。


遠くにいた兵士まで振り向くほどの怒号だった。


「……あれは」


コルティオの顔が一気に明るくなる。


「ゴルドウィン大隊長っす!」


ドルトン・ゴルドウィン。


ルミエル小隊を含む大隊を指揮する男が、自ら前線へ出ていた。


「止まるなぁぁぁ!! 前へ出ろ!!」


その巨声と共に、ゴルドウィンが敵へ突っ込む。


重装歩兵が剣を振り下ろす。


ゴルドウィンは真正面から受けた。


金属音が響く。


次の瞬間。


「ぬぅぅん!!」


剣を振り抜いた。


敵兵の身体が大きく崩れる。


さらに一歩。


次の兵士へ剣を叩きつける。


重装歩兵が押し飛ばされ、その身体が後ろの兵士へぶつかった。


二人、三人と敵兵が体勢を崩していく。


剣一本。


ただそれだけで、ローズ軍の戦列へ無理やり穴を開けていく。


「続けぇぇぇぇ!!」


「おおおおおお!!」


味方兵が応えた。


一気に空気が変わる。


疲労していた兵士がもう一歩踏み込む。


押されていた者が剣を振るう。


ゴルドウィンの怒号が響くたび、味方の勢いが増していった。


反対に、ローズ軍の兵士たちには明らかな動揺が走る。


「怒号のゴルドウィン……やっぱ凄いっす!」


コルティオが嬉しそうに叫ぶ。


ラウルも僅かに口元を緩めた。


だが、すぐに前を向く。


「俺たちも気を抜かずに行くぞ!」


「了解っす!」


再び敵兵が迫る。


リシアが正面の一人へ踏み込んだ。


その背後。


別の重装歩兵が剣を振り上げる。


「隊長!」


ナタリアが真っ先に反応した。


リシアとの間へ身体を滑り込ませる。


振り下ろされた剣を受けた。


「っ!」


衝撃に腕が沈む。


それでも退かない。


「ルミエル隊長! こちらは私が!」


敵兵と剣を打ち合わせながらナタリアが叫ぶ。


リシアは一瞬だけ振り返った。


「任せるわよ!」


それだけだった。


すぐに前へ向き直り、目の前の敵へ切り掛かる。


ナタリアも歯を食いしばりながら敵兵を押し返した。


互いの背中を任せる。


迷いはなかった。


やがて戦況が大きく動いた。


ゴルドウィン率いる部隊が前へ出る。


ハウゼン旅団も正面から押し込む。


ハーネス旅団は側面から圧力をかけ続ける。


ついにローズ軍の戦列が下がり始めた。


一歩。


さらに一歩。


重装歩兵たちが隊列を保ちながら後退していく。


「敵が下がるっす!」


コルティオが叫ぶ。


ラウルはそのさらに向こうへ目を向けた。


中央方面でも動きがある。


まるでローズ軍の後退に合わせるように、ペペロン軍も戦線を下げ始めていた。


敵全体が退いていく。


追えば、さらに押し込める。


だが――。


「追うな!」


ネル・ハーネスの声が飛んだ。


「深追いはするな!」


前へ出ようとしていた兵士たちが止まる。


ネルは戦場全体を確認しながら命令を続けた。


「中央と右軍に合わせる! こちらも引く!」


命令が次々と伝達される。


リシアもすぐに剣を下げた。


「ルミエル小隊、追撃しない! 隊列を整えて後退する!」


「はい!」


ラウルは息を吐き、周囲を確認した。


敵は退いている。


味方も追わない。


興奮の残る戦場で、それぞれの部隊が指揮官の命令に従って動き始めていた。


先ほどまで響いていた剣戟の音が、少しずつ遠ざかっていく。


ハーネス旅団はハウゼン旅団との連携に成功し、ローズ軍を押し返した。


初めての戦闘。


その結果は、ハーネス旅団の成功だった。


そしてラウルの耳には、戦場を震わせたあの怒号が、まだはっきりと残っていた。

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