表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RISELESS 新兵から始める王国戦記  作者: 藤堂拓哉
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

第二十七話 ドルトン・ゴルドウィン

 ルミエル小隊が王都ラピタルへ帰還した翌日。


 リシア・ルミエルは、今回の任務報告を行うため軍務長を訪れていた。


 受付の窓口で報告書を提出し、その場を離れようとした時だった。


「ルミエル大尉。」


 事務員に呼び止められ、リシアが振り返る。


「はい。」


「軍務長長官より伝達があります。」


 事務員は手元の書類を確認してから続けた。


「ルミエル小隊は帰還後三日間、休業とする。シュトライザー軍総司令官としての指示とのことです。」


 リシアは一瞬だけ目を瞬かせた。


 今回の任務では多くの隊員が傷を負っている。


 帰還までの行軍を終えたばかりでもあった。


 すぐに姿勢を正し、敬礼する。


「拝命しました。」


     ◇


 三日間の休業を終え、ルミエル小隊は訓練を再開した。


 朝から訓練場には剣を打ち合わせる音が響いている。


「もう一度!」


 コルド・ルビック中尉の声が飛ぶ。


 この日、リシアは提出した報告書について詳しい聴取を受けるため、軍務長へ向かっていた。


 そのため、午前中の訓練はコルドが指揮している。


 ラウルは剣を構えた。


 正面の相手を見る。


 踏み込む。


 剣がぶつかる。


 一度離れ、再び踏み込む。


 以前と同じ訓練。


 だが、その取り組み方は明らかに違っていた。


「もう一本お願いします。」


 休もうとしない。


 コルティオも同じだった。


「次、俺とお願いします!」


 息を切らしながら、それでも次の相手を探している。


 ナタリアも額の汗を拭い、すぐに剣を構え直した。


 三人とも、ドーハ山での実戦を経験していた。


 自分の剣が通用した瞬間。


 通用しなかった瞬間。


 一歩間違えれば命を失っていた場面。


 それぞれが何かを感じていた。


 三人の訓練への身の入り方は、以前とは比べものにならない。


 そして、その熱は周囲にも伝わっていく。


「俺たちもやるぞ!」


「おう!」


 気づけば、小隊全体が訓練へ身を投じていた。


 コルドはその様子を見ながら、満足そうに笑った。


 その光景を。


 訓練場から少し離れた場所で、一人の男が見ていた。


 大柄な身体。


 腕を組み、黙って訓練を眺めている。


 ドルトン・ゴルドウィンだった。


「……いい訓練じゃないか。」


 誰に聞かせるでもなく呟く。


 その表情は、どこか楽しそうだった。


     ◇


 昼前。


 軍務長での聴取を終えたリシアが訓練場へ戻ってきた。


「午後からは私も参加します。」


「了解。」


 コルドが答える。


 やがて午前の訓練を終え、小隊員たちは昼休憩に入った。


 ラウルたちも木陰へ腰を下ろす。


「疲れたっす……。」


 コルティオが木にもたれかかった。


「自分でやってるんだろ。」


 ラウルが水筒を口へ運ぶ。


「それとこれとは別っす。」


 ナタリアが呆れたように笑った。


 その時だった。


「おう!」


 突然、よく通る声が訓練場へ響いた。


 ラウルが思わず顔を上げる。


 一人の男がこちらへ歩いてきていた。


 声だけではない。


 身体も大きい。


 歩いているだけなのに、妙な迫力がある。


 リシアがその男に気づいた。


 すぐに立ち上がる。


「ゴルドウィン大隊長。」


 敬礼。


 コルドも続いた。


 ラウルたちも慌てて立ち上がり、敬礼する。


「休め、休め!」


 ドルトンは豪快に手を振った。


「昼休憩だろう。そんな固くならんでいい!」


 声が大きい。


 普通に話しているだけのはずなのに、訓練場の端まで聞こえそうだった。


「どうしてこちらへ?」


 リシアが尋ねる。


「見回りだ、見回り!」


 ドルトンは笑う。


 そしてコルドへ歩み寄ると、その肩を勢いよく叩いた。


「さっきの訓練、見たぞ!」


「っ……ありがとうございます。」


「いい訓練じゃないか!」


 もう一度、肩を叩く。


 コルドの身体が僅かに揺れた。


 ラウルはその様子を見ながら、ドルトンの声圧に驚いていた。


(声が……大きいな。)


 何気なく隣を見る。


 コルティオが目を輝かせていた。


 そして。


「……怒号のゴルドウィン。」


 聞き逃してしまいそうなほど、小さな声。


 ラウルはコルティオを見る。


 その顔は、まるで有名人を目の前にした少年のようだった。


 ドルトンはそんな二人には気づかず、リシアへ向き直った。


「リシア。」


「はい。」


「今、少し話せるか?」


「もちろんです。」


「よし。」


 ドルトンは宿舎へ向かって歩き始める。


 リシアもその後を追った。


 二人の姿が遠ざかっていく。


 しばらくして。


「いい部下を持ったな!」


 ドルトンの豪快な笑い声とともに、そんな言葉が遠くから聞こえてきた。


     ◇


 ルミエル小隊宿舎。


 一室へ入ると、ドルトンは椅子へ腰を下ろした。


 リシアも向かいへ座る。


 先ほどまで笑っていたドルトンだったが、最初に尋ねたのはマークのことだった。


「マークが重体らしいな。」


 声は大きい。


 だが、その表情には心配の色があった。


「容体はどうだ?」


「一命は取り留めました。」


 リシアは答える。


「現在もシュタールで療養しています。意識も戻っていますので、このまま順調に回復すると思います。」


「そうか。」


 ドルトンは大きく息を吐いた。


「よかったな。」


「ええ。」


 リシアも僅かに微笑んだ。


 ドルトンは少し間を置く。


「報告書を読んだ。」


 リシアの表情が戻る。


「ローウェンという兵士に、マークは指揮を譲渡したようだな。」


「はい。」


「同行していた中には、ローウェンより小隊歴の長い兵士もいたと聞いている。」


 ドルトンはリシアを見る。


「なぜだ?」


 リシアは少しも迷わなかった。


「ローウェンは指揮能力が高いです。」


 はっきりと答える。


「勤勉で、小隊運用についても人一倍学んでいます。」


「ほう。」


「それに、今回同行していたシルフォード、レイナードとの連携を考えた場合も、ローウェンが指揮を執るのが最も適切だったと、私も考えます。」


 ドルトンは黙って聞いている。


「マークも同じように判断したのだと思います。」


「なるほどな。」


 ドルトンは腕を組んだ。


 そして、ふと思い出したように言う。


「そういや、さっきの訓練。」


「はい。」


「やたら気合いの入った三人がいただろう。」


 リシアはすぐに誰のことか理解した。


「ローウェン、シルフォード、レイナードです。」


「やっぱりあいつらか。」


 ドルトンの口元が上がる。


「随分と訓練に身を入れていたな。」


「今回、三人とも実戦を経験しましたから。」


 リシアは少し考える。


「それぞれ、思うところがあったのでしょう。」


「そうか。」


 ドルトンは短く答えた。


 何かを確かめるように、ゆっくりと頷く。


 ラウル・ローウェン。


 コルティオ・シルフォード。


 ナタリア・レイナード。


 しばらく黙っていたドルトンは、不意に椅子から立ち上がった。


「よし。」


「もうよろしいのですか?」


「ああ。」


 ドルトンは扉へ向かう。


「また来る。」


 それだけ言うと扉を開けた。


「失礼する!」


 最後まで大きな声だった。


 扉が閉じる。


 部屋に静けさが戻った。


 リシアはしばらく閉じられた扉を見つめる。


 そして、小さく息を吐いた。


「……豪快な人だわ。」


 誰もいない部屋で、そうこぼした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ